【連載】「ワカキコースケのDIG!聴くメンタリー」第16回 『あゝ‼ この一球  近藤唯之がつづるプロ野球近代名勝負』

川上、長島、王、金田、村山、江夏……プロの頂点に立った男たちのドラマを、伝説の野球記者が名調子で描いた〈昭和スポーツ講談〉。


プロ野球ものは、聴くメンタリーの中でも人気ジャンル

廃盤アナログレコードの「その他」ジャンルからドキュメンタリーを掘り起こす「DIG!聴くメンタリー」。今回も、よろしくどうぞ。

今年もプロ野球シーズンが始まる。子どもの頃と比べたら全く関心が離れている僕でも、この時期になるとオープン戦や開幕投手の話題に、なんとなくソワソワさせられる。球春到来である。
なのに、「無冠の帝王」が逮捕され、「球界の盟主」から野球賭博に関与した選手が続々と。こんなにケチのついた雰囲気のスタートも近年珍しい。「いや、最近の問題はみんな巨人絡み。他の球団は迷惑しているから」と言われると、元ファンとしては弱い。

糺すべきところはしっかり糺してもらう願いを込めて、今回は、『あゝ‼ この一球 近藤唯之がつづるプロ野球近代名勝負(1977/RCA)を紹介します。

 



聴くメンタリーを掘ると、プロ野球のものはよく見つかる。多く製作された時期と、国民的スポーツとして不動の人気を誇った時期が重なるからだ。

すでに連載の第6回目で、広島東洋カープの球団史レコード、『ガッツ!! カープ 《25年の歴史》』(1975/東芝EMI)を取り上げている。それに、1985年の優勝ドキュメント、『猛虎阪神タイガース!悲願の優勝‼』(キャニオンレコード)とかね。長島茂雄が引退した1974年に発売された2枚組『ミスターG 栄光の背番号3 ―長島茂雄・その球跡―』(ワーナー・パイオニア)なんか、一時はリサイクル・ショップの定番だった。ジャケットに見覚えのある先輩方は、けっこういると思う。

 

基本はどれも、ナレーションと実況中継、それにインタビューの音声で構成されている。なので、そのチームや選手に特に思い入れが無い人には、どうだ、ということはない。1枚ずつクローズアップしての吟味はしづらい。
そんな中で、本盤には、他のプロ野球ものとは一味違う面白さがある。
(近藤唯之が関わっているレコードなら、きっとそうだろう……)と思う方、話が早い! まさにそこがミソなレコードなので、後でじっくり書きます。まず、インデックスを。
ちなみにチョーさんは長嶋茂雄か、長島茂雄か。LPのインデックスでは現在と同じ長嶋になっているのだが、現役中は長島だった。本文中では長島に統一させてもらう。

 A

1.  中西太 史上最長の500フィートホームラン
2.  元祖、樋笠一夫 代打サヨナラ逆転満塁ホームラン
3.  実力派金田、エリート派長嶋を開幕4打席4三振
4.  西鉄、巨人に日本シリーズ逆転4連勝
5.  打撃の神様、川上哲治 最後の打席は左飛
6.  サムライ長嶋 天覧サヨナラホームラン
7.  涙の御堂筋、南海宿敵巨人にシリーズ4連勝
8.  日米野球史上初 山内一弘 満塁振り逃げ事件
9.  スタンカ 涙のフォークボール、南海運命に泣く日本シリーズ

B

1.  村山実 涙の退場事件
2.  怪童尾崎17才 ストレートだけのデビュー
3.  江夏豊 オールスター戦で皆殺しの連続9三振
4.  “仰げば尊し”金田正一 運命の400勝
5.  ミスター・ベースボール長嶋引退
6.  次代のヒーロー掛布 開幕第1打席満塁ホームラン
7.  今ここに日本プロ野球の夢ひらく、王貞治1本足1号から756号



栄光や大記録ではなく、“この一球”のドラマを描く

はーッ。書き出してみて、つくづく思った。むせかえるほどに昭和だ……。プロ野球好きなら大体のイメージはつくだろう、と前提して書き進めるのが、急に不安になってきた。今はもう、野茂とイチロー以前になると、神話で言う大過去に近いから。

若いスポーツ・ファンの方、今回は昭和のレジェンドばなし、とあらかじめご理解ください。
こうした歴史の積み立ての上にですね、〈新庄、敬遠球をサヨナラヒット〉や〈斉藤和己プレーオフ無念の涙〉、〈西口、計3度の幻のノーヒットノーラン〉、そして〈大谷翔平、衝撃の二刀流デビュー〉などなどの、平成の新伝説が生まれているわけです。



本盤の内容は、戦後から発売された1977年までの有名どころをちゃんと押さえている。文藝春秋のスポーツ専門誌Number 237(1989年2月20日号)を久し振りに本棚から引っ張り出し、アンケート特集「甦れ!日本プロ野球ベストゲーム50」を眺めてみたら、ほぼ、重なっていた。
ただ、その取り上げ方に、独特のクセがある。

例えば1958年の、西鉄が巨人に3連敗4連勝した日本シリーズは、なんといっても「神さま仏さま稲尾さま」、エース稲尾の鬼神の活躍がオールタイム・ベストに常に挙げられるが、本盤は伏兵・小渕の二塁打にスポットを当てている。

巨人が3勝1敗の王手で迎えた第5戦の9回裏。スコアは3対2。1点ビハインドの西鉄の先頭打者は、仰木からセカンドを交代していた小渕。この小渕が、三塁線上の微妙なゴロを打った。判定は、巨人・水原監督の猛抗議を退けてヒット。
この瞬間こそが、関口の同点タイムリー、そして延長10回裏の稲尾の劇的なサヨナラ本塁打の呼び水となった……という視点。

翌59年の、今度は南海が巨人に挑んだ日本シリーズにしても、本盤が主役に選んだのは、4連投4連勝を果たしたスーパー投手・杉浦忠ではなく、センターの大沢だ。

第3戦の9回裏、ワンアウト二・三塁と一打逆転のチャンスを迎えた巨人。代打の森が杉浦から、ショートの頭上を越える強烈なライナーを放った。これで巨人が逆転……と誰もが思った瞬間、いつのまにか前進守備していた大沢が浅い中飛に捕り、ホームに好返球。三塁ランナー広岡はアウトに。巨人に傾きかけた短期決戦の流れを一気に食い止めた、ディフェンス好プレーの古典。

これに関しては、大沢自身の述懐がインタビュー収録されている。

「外野のね、定位置ではまあ、センターフライが来ても、広岡選手のですね、足を考えて、定位置ではこれはもう絶対にホームインされると。ということで、杉浦の調子、森のバッティングというものを計算にいれてね、これはもう、左中間しかないと。
左中間以外にだね、センター方向に飛んできた場合は、もうこれは南海の負けだと。一か八か、勝負ってのはもう、勝つか負けるか。どっちかだからね」

その場で打球のヤマを張った勝負師のカンと、落下地点を読み切って守備位置を移動する(当時はまだ無い発想)頭脳プレーの同時駆動。しびれる。
この大沢選手とは、大沢啓二のこと。晩年はTBS系『サンデーモーニング』での解説がおなじみだったが、当代のスター達に「喝!」を入れられるだけの名選手だったのだ。僕自身、印象に残っているのは日本ハム監督時代の、ベンチにあぐらを組んで煙草を吸いながら「勝った時は選手の手柄。負けた時は監督がヘボってことよ」と飄々と答える姿ばかりだったから。大沢親分、改めてリスペクト。


▼page2  野球の本といえば近藤唯之、の時代があった につづく