【Report】『グリーンイメージ国際環境映像祭』(3/23-25)~映像を通じてみる現在の世界について~ text 藤野みさき

緑豊かな日比谷公園の中央に位置する、日比谷図書文化館。

2011年に開館した本館は、図書フロアをはじめ、映像ホール、ミュージアム、カフェ、レストランなどの様々な施設が取り揃えられた複合文化施設である。

この図書文化館の地下一階にあるコンベンションホールで開催されている、グリーンイメージ国際環境映像祭。本映像祭は、映像を通じて世界の環境について考えることをコンセプトに2014年に設立。本年で三回目を迎える。

「環境」というテーマを主題に、本年は過去最多である39の国と地域から175もの作品が集結。厳選なる一次審査、二次審査を通過した計12本の短編・長編作品が、2016年3月23日(水)から25日(金)の三日間にわたって上映された。

本年の映像祭のラインナップの特徴として、まず第一に国のバラエティに富んでいたことが挙げられる。応募作品を国別で見たとき印象に残ったのが、開催国である日本を上回るドイツの応募総数であった。日本が25作品に対して、ドイツからは26作品もの作品が応募され、続いて台湾、スペイン、フランス、イタリアと続く。例年に比べて本年は中国の作品が多いことが印象的だったことも一筆加えておきたい。

また開催日ごとにテーマが異なることも特徴の一つである。一日目は若手監督の捉えた東日本大震災を主題に、津波により壊滅した宮城県南三陸町にある小さな漁村「波伝谷(はでんや)」を追ったドキュメンタリー映画『波伝谷に生きる人びと』他、福島県新地町の漁師たちを三年半にわたって撮影をした同じくドキュメンタリー映画の『新地町の漁師たち』を。

二日目は環境問題の中でも最も重要視されている「水」にまつわる物語として、イラン最大の湖であるオルーミーイェ湖(ウルミア湖)の現在を描いたドキュメンタリー映画の『ロンリーレイク』、あるひとりのドイツ人女性が垣間見る理想と現実を描いた『井戸をめぐる物語』を上映。

三日目は「トルコの春」と呼ばれた2013年に起こった抗議デモを追った『100万回のステップ』、アニメーション作品である『スティックス&ストーンズ』に加え、インドネシアから日本までの4700Kmを、風と人力のみで航海することを試みた『縄文号とパクール号の航海』、近年再注目をされている、馬が山から伐採した木々を運送する文化『馬搬(ばはん)』と、いずれも失われゆく文化の再生に焦点を当てた主題が印象に残る。

また、私はコンペティション部門で上映されたすべての作品を観ることは叶わなかったのだが、鑑賞したなかでも特に印象に残った二つの作品をここに挙げる。

100万回のステップ One Million Steps(ドイツ・トルコ / 監督 : Eva STOTZ©第3回グリーンイメージ国際環境映像祭

『100万回のステップ』

音楽の街、イスタンブール。

イスタンブールといえば、かつてファティ・アキン監督がストリート・ミュージシャンたちを描いたドキュメンタリー映画『クロッシング・ザ・ブリッジ~サウンド・オブ・イスタンブール』が想起される。異文化の混ざり合うこの街で、ミュージシャンたちの歌い、演奏するその音色は街中へと広がってゆく。

本作は「トルコの春」と呼ばれた2013年の6月に起きたゲジ公園の大規模反政府デモを、ひとりの女性タップダンサーの目線から描いた作品である。

このゲジ公園の反政府抗議運動とは、イスタンブールの中心街に位置する最後の緑地であるゲジ公園をデパートや博物館にする再開発工事を市が始めたことに対して、環境団体が抗議することから始まった。デモには最大で10万人もの人々が集まり、市民の大切な公園を保守する運動がなされた。撮影は抗議の最中におこなわれ、現場に居合わせたエファ・シュトッツ監督の姿は、そのまま、女性のタップダンサーの姿へと投影されてゆく。笑顔で無邪気に踊っていた彼女のステップは、街での抗議運動を目撃したことを境に、やがては抗議デモの参加者とともにあゆむ音色へと変化していった。

「私たちの街はどこへいってしまったの?」デモに参加する人々のことばがいつまでも胸にこだまする。トルコでは都市開発が進む一方で、街のはずれには古びた廃墟が立ち並び、それを見つめる人々の悲痛なまなざしが存在することを映画は映し出す。

音楽と抗議デモ。都市開発と滅びゆく街。理想と現実。相反するふたつの狭間で、彼女は自らの足に希望をこめてステップを踊る。もっと力強く、より高く。いつかこの祈りが届くようにと、平和への願いをこめて。

スティックス & ストーンズ Sticks and Stones(カナダ / 監督 : Isaac KING)©第3回グリーンイメージ国際環境映像祭

『スティックス&ストーンズ』

私たちの生活とはもはや切っても切り離せないSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)。めまぐるしく変化をする世界の情報を瞬時に取りいれられる便利さの傍らで、様々な人間の感情がうごめき、ひしめきあう現実に、時として傷ついてしまう瞬間がある。

カナダのアーティスト、アイザック・キング監督による『スティックス&ストーンズ』は、そんな現代の象徴のひとつとも呼べるSNSを、少年の目線からやさしく描いた、わずか四分間のアニメーション作品である。

小石を投げたり、アリを潰したり。ひとが悲しんでいる表情を面白がりながら、その光景を発信してゆく無情とも呼べる人々を目撃する少年。こころ優しい彼は、投げられる小石や、潰されて命を失ってゆくアリたちの気持ちに思いを重ね、胸を痛めてしまう。優しければ優しいほど、傷つきやすく、生きにくいこの現代社会。「いいね!」やリツイートに象徴される、ときとして、自らの存在価値が視覚化され、数値化されてしまうことの恐ろしさ。監督は、SNSがこどもたちにもたらす影響に対して警鐘を鳴らす。

それでも最後、少年は勇気をもって自らの意思を行動に移す。見て見ぬふりをするのではなく、一歩踏み出してみるということ。少年の小さな勇気を通じて、私たちはあらためてSNS―世界、人間、生きものたち―との関わり合いかたについてどうあるべきかを考えさせられる。

『繩文号とパクール号の航海』上映後のティーチ・イン。左から2人目が水本博之監督、3人目が関野吉晴氏

『繩文号とパクール号の航海』の上映後のティーチ・インにて、探検家である関野吉晴氏が印象的なことを言っておられた。この映画は、電子器具を使わず、文字通りひとの手で船を造りあげ、できる限りの己の肉体を駆使して航海をする、という壮大な夢をもとに立ちあがった企画であった。一年で終わるはずの航海は、潮の満ち引きや台風などの影響で幾度となくゆくさきを阻まれ、インドネシアから日本の石垣島までたどり着くまでに三年という年月を要した。

会場からの「最も大切なことは何ですか?」という質問に対し、関野氏は「時間です」と静かに答える。人間は生きていれば何度でも間違い失敗を重ね、学ぶことができるが、死んでしまったら、何もできなくなってしまう。

むかしは人間を育成するときは、長い時間をかけていた。しかし、現在ではたった半年や一年という短い間に人材の育成がなされ、失敗もせず育つ若者が多くなってしまったと、関野氏は語る。たった一度の間違いがときとしてひとりの人間の将来を奪ってしまう過酷な現実。もっと時間に、人間に対して寛容になることが大切なのだと、関野氏の話を通じて感じることができた。

グリーンイメージ国際環境映像祭では、失われゆく自然や緑を描く作品だけではなく、日々変化し続ける世界の政治情勢や、私たちを取り巻くSNSや社会問題など、様々な主題を扱った映画を上映している。事務局長である尾立愛子氏、宇津留理子氏を始めとする実行委員の方々は、映像を通じて世界の環境や文化への理解を深めるとともに、地球環境をより身近に感じ、考える場になってほしい。という願いをこめて、この映像祭を創設された。

光があれば闇があるのと同様、日々新しいものが建設されてゆく一方で、その裏側には失われゆく宿命を背負った街や自然が存在している。現在私たちの生きる環境社会では、自然の声を聴くということが減少してしまった。公園にゆき、瞳をとじて耳をすませても、圧迫するかのような電車や車の騒音が私の耳元へと届き、小鳥のさえずりや木々の葉のせせらぎは、はるか遠くへと影を潜めてしまう。

私の住む街の近隣にある山々も近年では森林伐採が進み、現在は山道も美しく整備されている。しかし、草木が刈り取られた山道はもはや自然の面影が失われつつあり、なぜか山が涙を流しているように感じるとき、その悲痛さに胸が締めつけられるのである。

「便利さ」や「時間の速さ」。時代が進めば進むほど、様々なことが効率化、機械化されて便利になってゆく傍らで、いつしかひとのぬくもりを忘れてしまいそうになる私たち。変わりゆくこの世界の中で、失われゆく文化や自然はどのようなことを私たちに伝えようとしているのだろうか。風や雨の音、空高く広がる青空に、小鳥のさえずり。道端に咲く可憐な花々。目を瞑ってもう一度、その自然の声に、耳を、そしてこころを、傾けてみたい。

【映画祭情報】

第3回グリーンイメージ国際環境映像祭
日程:2016年3月23日~25日
会場 : 日比谷図書文化館コンベンションホール
主催 : グリーンイメージ国際環境映像祭実行委員会
助成 : 芸術文化振興基金

公式サイト http://green-image.jp/filmfestival/

【執筆者プロフィール】

藤野 みさき(ふじの・みさき)
1992年、栃木県出身。第2期シネマ・キャンプ 批評家・ライター講座後期受講。14歳のとき、フランスの映画監督、アルノー・デプレシャン監督に魅了され仏映画の虜に。独表現主義、ダグラス・サーク監督を筆頭とするメロドラマを愛する。

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