【Interview】5/6-15開催。台湾国際ドキュメンタリー映画祭プログラムディレクター・林木材氏インタビュー

前回(第9回)会場の様子

5月6日(金)に第10回という節目の開幕を迎える台湾国際ドキュメンタリー映画祭(TIDF)。そのプログラムディレクターが林木材(Wood Lin)さんです。
開幕まであと1週間ほど。プレイベントが活気を見せ、本番に向けて機運が盛り上がる台北で、今回の見どころや台湾のドキュメンタリー事情、日本のドキュメンタリー作品への感想などを伺いました。

(取材・構成・翻訳:田中美帆=TIDFボランティアスタッフ)

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前回(2014年)開催時インタビューの林木材インタビューはこちら


——前回からこれまで、台湾のひまわり学生運動や香港の雨傘運動など、少なくない政治的な動きがありました。映画祭への影響はありますか。

林木材(以降 WL) ああ、そういう印象を持つんですか。もしかしたら、日本の方のほうがこうした話題に敏感なのかもしれませんね。確かに、そういったテーマの作品はありますし、関心を持ったりすることはあるかもしれませんが、だからといって映画祭に直接な影響はありません。

——前回のインタビューでは、今後は毎年開催の予定だとお話しなさってましたね。

WL これまでTIDFは偶数年に一度、開催してきましたが、前回2014年10月、TIDFの管轄である台湾政府文化部が「今後、TIDFは毎年開催する」と決定を下しました。ただ、台湾では10月には台湾国際女性映画祭、高雄映画祭、11月には金馬賞、さらに国際的な映画祭も含めると、下半期に開催される映画祭の数はとても多いんです。そこで、毎年開催にするなら10月ではなく、上半期、それも5月にしたいと伝えていました。2014年の10月開催で翌年5月に開催というのは時間的に無理があります。それで2015年には巡回上映を行い、2016年に映画祭を行うことになりました。

——開催時期の変更は大きな変化ですね。

WL そうなんです。さらにその決定後、それまでドキュメンタリー映画を応援してくれていた台湾文化部長(日本では文化庁長官にあたる)だった龍応台さんが辞職してしまったんです。正確な時期は忘れましたが、政府から届いた通知には「毎年開催を支援したいが予算がない」と書かれていました。でも、もう今回の開催を決めてしまったあとのことです。今後、毎年開催になるかどうかはまだわかりませんが、2016年5月は予定通りに開催することにしました。それまでにもTIDFは台中で開催されるなど紆余曲折があったのですが、台北で開催できるようになったのも、事務局が台北に戻ってこれたのも、龍応台さんの方針だったんです。彼女の辞職は映画祭に大きな影響を与えたといっていいですね。

——前回から今回までの間に行われた「巡回上映」の目的を教えてください。

WL TIDFはこれまで、偶数年に映画祭を、奇数年に巡回上映を行ってきました。背景には、台北以外の地域ではドキュメンタリー作品を見る機会が少ないため、優秀な作品がまんべんなく各地を巡回して回り、ドキュメンタリーの文化を養っていく意味合いがあります。政府の予算ですのでチケットは無料です。その意図もまた、もっと大勢に観てほしいということですね。 

——お客さんの反応はいかがでしたか。

WL 全体的によかったと思いますが、地域による温度差はありました。たとえば台中、花蓮など、独自に映画祭を持たない地域では関心が高かったです。反対に、高雄(南部にある台湾第二の都市)では、ほかの映画祭も開催されている地域だからか、関心が低かったように思います。次は高雄ではなく、台湾中部の雲林県あたりに変更するかもしれません。

——TIDFの各プログラムはどのようにして決めているのでしょうか。

WL 先ほども触れましたが、開催1年前に文化部に、おおまかな企画書を提出します。それから、事務局スタッフで意見を出し合っていきます。少し抽象的な言い方かもしれませんが、どんなプログラムをどういう目的でやるのか、スタッフの話し合いによってコンセンサスを得ていきます。スタッフは6〜8人いて、中には大学で映画に関連することを学んでいる人もいます。私は、スタッフよりも作品や監督のことをよく知っているので、みんなに議論させて意見を聞いた上で、プログラムの良し悪しを決める感じですね。

——どのようなプロセスで作品を選んでいますか。

WL 今回は117の国と地域から1,700本の作品が寄せられました。それを、ドキュメンタリー映画界関係者16人が手分けして観ていきます。その上で、ある程度、ふるいにかけられた作品をさらに絞り込んでいきます。選定のポイントは、ドキュメンタリー映画として新しい境地を開いたものであるかどうか、またテーマの深さやオリジナリティを持ったものかどうかです。山形国際ドキュメンタリー映画祭では部門によってはキュレーターがいるそうですね。TIDFでも外部の関係者に協力をあおぎますが、基本的には自分たちで選ぶようにしています。

プログラムディレクター・林木材(ウッド・リン)氏

——では、今回の特集について伺います。監督特集では、オーストリアのフーベルト・ザウパー監督を取り上げますね。日本では『ダーウィンの悪夢』(05)以降、決して注目度が高い監督とはいえないのですが、なぜ彼を紹介しようと考えたのでしょうか。

WL 10年ほど前に『ダーウィンの悪夢』を観て、なぜこの監督はこんなダークなところに行くのだろう、なぜここに興味を持ったのだろう、と強い印象を持っていました。その後、監督が撮影前にアフリカに行っていたこと、一昨年には新作を撮ったことを知りました。監督はアフリカに多くの問題があることを知っていて、それを撮ろうとしていることがハッキリとわかったんです。監督の手法は一般的なドキュメンタリーのものとはかなり違っていて、先に特定のテーマがあるわけではありません。行った先でいろんなことが起こり、それを撮影していく。そうして撮られた作品は、オリジナリティという意味でも、作品の深さという意味でも、ものすごく高度なレベルにあると思います。台湾では、アフリカに関心を持つ人は多くないので、ぜひ紹介したいと考えました。それに、アフリカと台湾はよく似ていると思うんです。

——どういう点で似ているのでしょうか。

WL アフリカという場所は、植民地支配を受けていましたよね。このことは、台湾のこれまでの歩みとよく似ています。1895年から1945年まで日本から統治され、その後は中国大陸から国民党が来て政治的な支配を受けた。こうした歴史を「二度も植民地にされた」という人もいます。その上、今の台湾は経済的に中国を頼っているという意味で、経済的な植民地支配を受けているといっていい。アフリカの現状は確かに悲惨ですが、彼の作品を通じてアフリカの現状を見た台湾の人たちに、今度は台湾が今後歩むべき道を考えてほしいと思っています。

特集上映される『ダーウィンの悪夢』のフーベルト・ザウパー監督

——TIDFで、中国インディペンデント映画の扱いが大きように感じますが、中国作品を上映する理由を教えてください。

WL 今回上映する中国作品は23本あります。これは、ゆくゆくはTIDFを、中国語ドキュメンタリー映画のプラットフォームにしたいと考えているからです。というのも、まず中国ではドキュメンタリー作品を上映する機会がありません。けれども、素晴らしい作品もたくさんあるので、少なくとも彼らの作品を見てもらう機会にしたい。そう考える理由は、非常に苦労して撮影されているだけでなく、中国人でなければ見られないことばかりだからです。ともすると、中国に対する見方は偏りがちです。でも作品を見てもらえれば、中国の状況だけでなく、中国政府と中国の人たちは決して同じではないことがわかると思うんです。

——特に推薦する作品をあげてください。

WL そうですね。『沒有電影的電影節(映画のない映画祭)』ですね。これを観れば、中国でドキュメンタリー作品を上映する難しさが理解できると思います。映画祭がつぶされるプロセスを描いていて、警察に殴られたり、まあ、いろいろされるんです。観終わるときっと、なぜTIDFが彼らを手伝おうとしているかがよく理解できると思います。それから呉文光監督の『調査父親(父を調べる)』ですね。この作品では、監督自身とお父さんの関係が描かれています。ぜひ観ていただきたいですね。

——呉文光監督といえば、「メモリープロジェクト(民間記憶計畫)」の扱いも大きいですね。

WL 呉監督の撮影プロセスそのものが行動につながっていて、さらに、なんらかの変化をもたらしているところが興味深いと思っています。映画を撮ることを通じて、自分の置かれた環境に何らかの影響を与えて、何かを変えている。つまり、重要なのは映画を観るだけではなく、「あなたが何をするかだ」と問いかけている点です。プログラムのテーマに「我的行動(私の行動)」と掲げているのもそういったことに由来しています。特に若い世代の人たちに、自分たちのこれまでを理解し、政府の言うことだけを信じないようにしてほしい、と思っています。

メモリープロジェクト作品『満腹の村』監督:鄒雪平(ゾウ・シュエピン)

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