【連載】「ワカキコースケのDIG!聴くメンタリー」第20回


A面からいきなりワン&オンリーの世界

以前、ジャニーズ事務所所属のタレントや若手人気男優に定期的にロング・インタビューする、女の子なら羨ましくて倒れそうな仕事をされている編集者と、少しお話したことがある。

「今や芸能界は安定産業ですからね。彼等はみんな礼儀正しくて頭が良い。昔ならまっすぐ省庁に入っていたような人材ばかりですよ。その上で、きれいなマスクと素質があるならば、試しにモデルになったりオーディションを受けたりするのは当然なんです」

そう伺って唸ったものだ。良くも悪くも、芸能界がクリーンな建前を通した末に、今がある。その転換期の象徴がひばりバッシングであり、渦中に行われたコンサートが、なんとデジタル・レコーディングの第1号。ちょっと出来過ぎだ。僕が思っていた以上に本盤は、ドキュメントの精彩が強いものだった。

 
【A面】第1部/これがヒットだ!メドレー

「悲しき口笛」
「東京キッド」
「私は街の子」
「ひばりの花売娘」
「角兵衛獅子の唄」
「リンゴ追分」
「ひばりのマドロスさん」
「波止場だよお父っあん」
「港町十三番地」
「花笠道中」
「哀愁波止場」
「ひばりの佐渡情話」
「哀愁出船」
「柔」

【B面】第2部/想い出の歌
「津軽のふるさと」
「伊豆の踊子」
「風が泣いてる」
「流れのギター姉妹」
「天竜母恋い笠」
「娘道中伊達姿」

 【C面】第3部/恋の唄・人生の唄
「熱禱」
「思い出と一人ぼっち」
「母」
「悲しいお話」
「人生将棋」
「人生一路」

【D面】第4部/女心の唄
「悲しい酒」
「涙」
「それでも私は生きている」
「ある女の詩」
「思い出の鞄」

演奏は、昔の音楽番組ではおなじみだったダン池田とニュー・ブリード。それにコロムビア・オーケストラ。構成は、やはり音楽番組や歌手のショー構成をよく手掛けていた保富康午。おもしろいことに、「大きな古時計」の訳詩もこの人の手による。

初期のメドレーからもう楽しい。ヒット曲を全部歌い切れない制限からの、逆転の発想だと思うが、走馬灯のように次々と歌われる懐かしさの求心力に、客席がみるみる引き寄せられていくのが、空気で伝わる。

ひばりも、実に立派。少女時代の曲も崩さずいじらず、当時のように歌っている。ファンが何を求めているかに、おのれを合わせている。すると自ずと、30代半ばの円熟味によって曲のエッセンスが抽出されていくわけで、「東京キッド」の、堂々たるジャズ・ソング振りは痛快。切れ目のないメドレーのなかで、裏声の「哀愁波止場」にすぐ切り替わるあたりは、惚れ惚れする。


「ファンと一体化したMC」の、魅力とエゴ

第二部は、矢島正明(あの、声優の矢島さんだ)のナレーションを挿みながらの望郷ソング特集。これまた自分のファンに、出稼ぎや集団就職などの地方出身者が多いことをよく踏まえている。

そして第3部、第4部では一転、ひばり自身のナレーションとともに新しめの曲を歌う。前半でたっぷりとお客をもてなし、味方にしてから、後半で初めて今の自分を表現していく。心憎い展開だ。

今聴けば、そこまできめ細やかに計算しなくとも、お客さんは付いて来ただろうことも分かる。

すでにアイドルの時代は過ぎ、ファンの年齢層は高くなっていた。黄色い歓声や、調子はずれの大声は客席からはほぼ聞こえない。歌が目的の人達ばかりだ。ここが録音物のフシギさで、ひばりの歌に黙って耳を傾ける、その集中力みたいなものが、確かに聴こえてくるのだ。

「私がこの世に生を受けてから、もう何年になったでしょう? その間には、いろいろなことがありました。苦しいこと、悲しいこと。でも今では、それもみんな私の心の思い出を彩る、1ページです」

(「思い出と一人ぼっち」のイントロへ)

「人生ってなんでしょう? 自分だけが幸せであれば、それでいいのでしょうか。人生って一体、なんなのでしょう?」

(「人生将棋」のイントロへ)

こんな具合に、ひばりが語りながら歌う第3部は、コンサートの山場。6曲全てが、騒動のキーとなっていた弟、かとう哲也が作曲を手掛けた曲なのだ。

ここに、ひばりの意地と、線の細さが剥き出しになっている。あくまで身内を守り、お上の高圧や世間の風に屈しない宣言。その、自分の筋を曲げない侠気が魅力であり、そして叩かれる原因となった古い依怙地であり。つまり、ここでひばりは、観客を試している。あなたたちは、私の身内なの……?

「先ほども申し上げましたけど、私の人生にも、いろいろなことがありました。あなたにもきっと悲しいこと、苦しいことがあるでしょう。でも、私達は負けてはいけないと思います。明日に向って、明日を夢見て、力強くご一緒に生きていこうではありませんか」
 

ここから、ドーンと「人生一路」が始まる(一度決めたら 二度とは変えぬ これが自分の 生きる道)あたり、僕は何度聴いても、ザワザワとなる。

「力強く生きていきます」ではなく「力強くご一緒に生きていこうではありませんか」。非難されている真っ最中の自分に巻き込む壮烈なエゴイズム。

これは、青春の夢も女らしい幸せも、全て諦め捨てて、歌をファンに捧げ続けてきたという自負、確信が、ひばりに確固としてあるから可能なのだ。美空ひばりの歌は、すべてあなたの歌。だからクライマックスのこの場面で、乾坤一擲、ひばりはファンに甘えた。そして、身内になってくれない者を鋭く峻別した。

女王とファンとの一体化という意味では、神がかった最高の瞬間だし、あくまでそんなことは言うべきではなかった、という気もする。なかなか判断がつかない。あまり耳にできない質のMCだ。

▼page4  美空ひばりについての、おすすめの3冊 につづく