【Review】南北分断の下に暮らす女性の「生き様」とらえた『マダム・ベー –ある脱北ブローカーの告白-』 (ユン・ジェホ監督)text 小林蓮実


平壌の風景は「自力自強」目指しエネルギッシュ、かつ穏やか

さて、今回は2016年7月、2年ぶり3度目の際の訪朝記を。最近の脱北者から「朝鮮の景気はさらによくなった」と聞いてもにわかには信じがたいという監督の話とは異なり、個人的には平壌をみる限り「高度経済成長」とすら感じた。年々、車やビルが増えているが、この時には工事のためのトラックがしきりに行き交っており、プロパガンダ的な看板は減ったように思ったのだ。

水曜日の昼食は、青流館にて冷麺をいただく。その後、2015年10月の朝鮮労働党創建70周年に向けて推進された建築物の1つである科学技術殿堂を見学。未来科学者街などものぞく。たしか、この日に生協的なシステムからなる屋台で買い食いもしたと思うが、出資金を集めて仕入れるという仕組みではないそうで、よく理解できなかった。車のショールームをめぐったのもこの日か翌日か。「朝鮮ではこれまで中国産などの車を扱ってきたが、朝鮮産の自動車を多く扱うようになった」そうで、車の看板がみられるようにもなった。そして、河畔でバレーボールを楽しむ人々や射的を見物したり(バレーボールは人気で、企業などのコミュニティにチームがある)、釣りをするおじさんに声をかけていただいたりして遊んでいた。夕食は船上レストランのムジゲ号で。

木曜日の午後は、学生少年宮殿を参観。外国人観光客への公開の日が決まっているそうだ。音楽、ダンス、絵画、理系など、各人の才能などに応じてクラスが分かれており、わたしは天才少年少女に圧倒される。記念撮影時、少女に腕をとられ、胸が「キュン」とする。ヨーロッパなどの人々と朝鮮の人々で観客席が埋め尽くされた少年少女たちの公演のラスト、花束も贈らせてもらった。夕方より民俗食堂にて、音楽公演を楽しみながら、焼肉をいただく。朝鮮の方とアカペラで、「四季の歌」のデュエットもさせていただいた。夜のルンラ遊園地に立ち寄り、3Dにイスの動きや振動が加わった4D映画にて、爆撃機に乗った戦闘を体感。少人数ごとの貸し切りシステムだ。わたしは興奮し、後からシアターに入ってくる仲間を目にするだけで、現実と仮想の並行の感覚がおもしろく、大笑いしてしまった。

金曜日の午後には、射撃体験も。わたしの両手を包みながら「チョンチョニー チョンチョニー(ゆっくり ゆっくり)」と繰り返すおねえさんに合わせ、わたしも「チョンチョニ〜」。すると、「初めてなのに外さず、才能がある。別の銃も体験したら、10(ど真ん中)が出る」といわれ、調子に乗って再挑戦。見事(!?)命中させ、「思いのほか楽しかった!」と通訳の方に伝えてもらったら、「記念ノートに記入して」といわれた。その後、外貨ショップに立ち寄る。土曜日に帰国の途へ。

朝鮮では現在、「自力自強」のスローガンが掲げられ、制裁に打ち克つための国づくりを進めている。まさに印象としては「制裁などどこ吹く風」で、自給率が低くグローバリゼーションの影響を強く受けている国に暮らす立場としては、その力強さに朝鮮の魂をみる。わたしは、朝鮮半島分断は日本と米国、飛翔体の継続的な発射は米国が対話に応じないこと、が原因と考えている。標的として「在日米軍基地」にも言及した際には驚きはしたものの、知人によれば「朝鮮は絶対に先制攻撃はしない」という。朝鮮はシンプルな国ではないけれど、まあ、ここでこれ以上は語らない(すでに長文、あしからず)。

朝鮮に関心のあるすべての方は、知識を広げるきっかけにもなるので、本作をご覧になってみてほしい。休戦状態が解かれ、分断の問題が一部でも解決されるなら、マダム・ベーや中国と韓国に暮らす家族たちの未来に陽は降り注ぐだろう。

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【映画情報】

『マダム・ベー –ある脱北ブローカーの告白-』
(2016年/72分/韓国・フランス/DCP)

監督:ユン・ジェホ
撮影:ユン・ジェホ、タワン・アルン
プロデューサー:ギョーム・デ・ラ・ブライユ、チャ・ジェクン
音楽:マシュー・レグノー
編集:ナディア・ベン、・ラキド、ポーリーン・カサリス、ソフィ・プロー、ジャン=マリー・ランジェル
配給:33 BLOCKS(サンサンブロックス)

公式サイト:http://www.mrsb-movie.com/

2017年6月10日〜東京:シアター・イメージフォーラム、8月19日〜神奈川:シネマ・ジャック&ベティ/愛知:名古屋シネマスコーレ、大阪:第七藝術劇場は今秋公開(詳細は
公式HPをご覧下さい)

【執筆者プロフィール】

小林蓮実(こばやし・はすみ)
 1972年千葉県生まれ。フリーライター、エディター。友人・仲間に映画・映像業界関係者が多く、個人的には、60〜70年代の邦画や、ドキュメンタリーを好む。近年、『週刊金曜日』『紙の爆弾』『労働情報』や業界誌などに映画評や監督インタビューを執筆したり、映画パンフレットの制作をおこなったり、上映イベントの司会を担当している。知人からの声がけをきっかけに、かなう年には訪朝。