【連載】ドキュメンタリストの眼18 ジョージア(グルジア)映画祭 はらだたけひでインタビュー text 金子遊


上映作品『あぶない母さん』(2017)

ジョージア映画祭への道

 

はらだ 映画祭自体のアイデアは、2015年ころからありました。岩波ホールのラインナップを作るにあたり、現代の新しい作品だけではなく未公開の過去の名作も紹介してゆきたいと思うようになり、なかでも今年公開したテンギズ・アブラゼ監督の『祈り』(67)のように、ソ連時代の未公開のグルジア映画を上映したいと思うようになりました。そして上映したいリストも秘かにつくってみました。

2016年春にギオルギ・シェンゲラヤ監督に紹介されて、トビリシでマリナ・ケレセリゼさんという映画史家にお会いして相談しました。しかし彼女の話では、ソ連時代のグルジア映画のプリントの多くが、90年代初頭から続いた不安定な時代のなかで失われてしまったという話でした。特に劇映画のフィルムは、2004年に起きたビルの火災でかなりの部分が損傷し、ネガ・フィルムはモスクワに保存されていますが、ロシアとの関係がよくないので困難が予想されます。プリントを上映するための映写機もすべて壊れてしまって、グルジアには1台も存在しません。DCPなどにデジタル化して、ロシアから1本1本買い戻していきたいという要望を文化大臣にするつもりです、といいました。ぼくはがっかりしましたが、ケレセリゼさんは「あなたのような遠い国の人が、グルジア映画について熱心に語ってくれるのは、その気持ちだけでもとてもうれしい」と喜んでくれました。

日本に帰ってから、新聞社と組んでクラウドファンディングで資金を集めようと検討したこともあったのですが、ロシア側に打診してみると、ネガ・フィルムからDCPにすると、90分の映画1本で300万円以上かかるという答えでした。これでは難しいということになり、実現しませんでした。


あきらめかけていたんですが、2017年初夏に金子さんたちとグルジアを訪れたとき、友人のテムカがひらいてくれた夜中の歓迎パーティを憶えていますか?あのパーティでジョージア国立フィルムセンターにいるダヴィド・ヴァシャゼ氏と出会ったことから、急に道が開けてきました。先方もソ連時代のグルジア映画をデジタルでロシアから買戻し、さらにそれらを外国で紹介しようと考えていました。こちらの意図と合ったんですね。それから同じパーティにエルダル・シェンゲラヤ監督の孫がいて、彼から祖父の久しぶりの新作だとDVDを渡されました。それが、12月に公開する『葡萄畑に帰ろう』(2017)なのです。ですからあのパーティはぼくにとっては大きかったです。
 

その後、ヴァシャゼ氏に会って、ロシアから戻ってきたグルジア映画のリストを見せてもらいました。その時は10本もなかったのですが、そのなかから日本での未公開作品に絞って上映することにしました。新しい作品については、ヴァシャゼ氏からそれぞれの監督の連絡先を教えてもらい。児島さんの協力をえて、一人ひとりにお会いして話し合い、上映許可をもらい、上映素材を提供していただきました。時間や手間はかかりましたが、彼らと信頼関係を作ることができたのは本当によかったと思っています。予算も限られていたので、児島さんに全作品の日本語字幕をお願いし、大谷和之さんにDCPを作ってもらって、少しでも経費の削減を心がけ、大変なこともたくさんありましたが、時間をかけて文字通り「手作り」で少しずつ準備してきました。

——今度の映画祭での見どころを教えてください。

はらだ わずか19作品ですからおおまかではありますが、サイレントから今日まで、110年のグルジア映画史を俯瞰できるということです。そして上映作品では、昨年、世界的に評価された若い女性監督の2作品をあげたいと思います。

1990年生まれのアナ・ウルシャゼが27歳のときに完成した『あぶない母さん』(2017)は、新しい感覚で作られていると思います。家庭を省みずに小説家になろうとする主婦マナナの姿からは、表現をすることの痛みが伝わってきます。創作のためには、内面により深く、危険を顧みずに非日常的な世界に入りこまないと見えてこないものがある、という芸術を表現することの果てしなさがよく描かれています。ラストシーンで、マナナと彼女の父がテーブルをはさんで対面する、グルジアを代表するふたりの俳優の「対決」に、演技の凄みを感じます。この監督は、日本でも劇場公開された『みかんの丘』のザザ・ウルシャゼ監督の娘で、日本が大好きで日本語を勉強しているそうです。

もう1本がマリアム・ハチヴァニ監督の『デデの愛』(2017)です。グルジアでは90年代の厳しい時期に映画を勉強していた人たちは「失われた世代」と呼ばれ、近年になって彼ら/彼女らは、90年代の社会をテーマにしていくつもの映画をつくりました。それが『みかんの丘』『とうもろこしの島』『花咲くころ』のような作品です。いま、社会情勢が落ち着いてきて、グルジアでは多様な映画が生まれようとしています。しかし、女性にとっては、グルジアは家父長制が強く、女性はまだまだ抑圧されています。宴会でも男性は大いに盛り上がる一方で、女性は一生懸命料理をしています。そのなかで女性監督たちは映画をとおして社会を改善しなくてはならないと考え、誘拐婚のテーマを扱ったり、社会の問題に対してしっかりした発言をするようになりました。ハチヴァニ監督は自分が生まれ育った、ヨーロッパでは一番標高の高い地域ですが、コーカサス山脈のスヴァネティ地方を舞台に、伝統や因習のなかで女性の置かれた地位を一代記として描いています。まさに傑作といっていいでしょうね。

※インタビューの言葉づかいを尊重し、本文ではジョージアの国名は「グルジア」を使用しています。


『グルジア映画への旅—–映画の王国ジョージアの人と文化をたずねて』
はらだたけひで著 
2018年4月 未知谷刊
2376円(税込) 
ISBN 4896425480


ジョージア[グルジア]映画祭 コーカサスからの風
2018年10月13日(土)~26日(金)  
岩波ホールにて

https://www.iwanami-hall.com/

【執筆者プロフィール】
金子遊(かねこ・ゆう) 
neoneo編集委員。近刊に共編著に『半島論 文学とアートによる叛乱の地勢学』など。プログラム・ディレクターをつとめる東京ドキュメンタリー映画祭が、12月1日(土)から新宿K’s Cinemaで開催。
公式サイト tdff-neoneo.com