【自作を語る】『愛国者に気をつけろ!鈴木邦男』text 中村真夕(本作監督)


私が鈴木邦男を撮影し始めたのは、2年ほど前の夏からだった。鈴木は父の友人で以前から知っていたが、なぜこの人は右翼のはずなのに右も左も関係なく、様々な人たちと仲良くできるのかを不思議に思っていた。そして以外にも彼単独のドキュメンタリー映画が存在していないことを知り、謎多き男・鈴木邦男を私は撮影し始めた。

撮影してきて見えてきたのは、教科書にはのっていない戦後の歴史だった。それは私の団塊世代の親世代の歴史だった。私は監督デビュー作のフィクション映画「ハリヨの夏」で、左翼で学生運動をやっていた親を持つ女子高生の鬱屈を描いた。そして今回の作品では、右翼の視点からあの60−70年代という時代が何であったのかを検証した。思えば団塊ジュニア世代として生まれ、あの時代を生きてきた鈴木、そして両親たちに憧れと愛憎を抱いてきたのかもしれない。だから私は映画を通して、この時代を考えたかったのだ。

そして見えてきたのは、鈴木邦男がテロリストに憧れながらも、テロリストになれなかった数奇な運命の政治活動家であったことだった。彼が政治に目覚めたのは、17歳の時、同い年の元大日本愛国党党員・山口二矢が社会党委員長・浅沼稲次郎を暗殺するシーンをテレビで見た時からだった。早稲田大学では生長の家の学生運動団体、全学協の代表まで登りつめたが、失墜した。もしあのまま残っていたら、今頃、日本会議の中枢にいたかもしれないと鈴木は語る。そして就職した1970年に、早稲田の後輩で、自らが運動に引き入れた25歳の森田必勝が、三島由紀夫と共に改憲を求め、自衛隊の決起を訴え、自決した。それに責任を感じ、会社を辞め、民族派団体・一水会を設立した。その後、左翼テロ集団・東アジア半日武装戦線を評価した本「腹腹時計と<狼>」を出版。左翼に共感する右翼として知られ、「新右翼」と呼ばれるようになる。その頃、鈴木が敬愛していたのが新右翼活動家の野村秋介だった。野村は経団連襲撃事件を始め、数々のテロ行為を行ってきた。そして最後には朝日新聞の報道に対して抗議して、本社の応接室で自決するという最後を遂げた。私は鈴木の人生を辿っていて、ベルトリッチの映画「暗殺のオペラ」を思い出した。ヒーローと崇められて殉死したと思われていた男は、実は偽物だったという物語だ。鈴木もテロリストに憧れながらもなれず、長々と生きながらえてしまった活動家だった。


しかし自分の思想や正義を貫いて殉死できなかったからこそ見えてきた世界が、鈴木にはあった。政治的な失敗や挫折を繰り返す中で、自らの「愛国心」や「愛や正義」に対して疑問を抱くようになった。そして「愛国心」や「愛を正義」を盾に戦争を起こしたり、人を傷つけていくことに懐疑的な目を向けるようになった。そうやって見えてきた世界は、一つの思想のために身を捧げることではなく、様々な背景や価値観を持つ人たちの話を聞くということだった。周りに「エセ右翼」や「どっちつかずの風見鶏」だと批判されながらも、鈴木は臆することなく、元赤軍や元オウム真理教の人たちに会い、話を聞きに行った。メディアで書かれている偏見に満ちた意見に流されず、社会から排除されてしまった人たちの声に耳を傾けた。私はそんな鈴木の姿に、本当の民主主義のあり方を見た。様々な価値観や政治、宗教思想を持つ人たちが、お互いを尊重しながら共存できる社会があるのではないかと思い始めた。いみじくも「右翼」と呼ばれ、社会から「危険人物」扱いをされている鈴木からそれを学んだのだった。

私は映画館で見せるドキュメンタリー映画は、テレビで見れないものを出すべきだと信じている。お金を払って見にきてもらうのだから、テレビでは見れない、知れない世界を提供するべきなのではないかと思っている。自主規制体制が強い今のテレビ業界では、鈴木邦男のような人物について取り上げるのは難しい。だからこそ彼の半生はドキュメンタリー映画でしか伝えられないのではないかと思う。最近、鈴木は体調が思わしくないが、なんとか連日上映後トークにも出てもらう予定である。2月1日からポレポレ東中野に、鈴木に会いに来て欲しい。

【映画情報】

『愛国者に気をつけろ!鈴木邦男』

生長の家の信者の家に育ち、早稲田大学では左翼と闘ってきた生粋の右翼活動家・鈴木邦男。17歳の時に初めて、同い年の元大日本愛国党党員だった山口二矢が、日本社会党の浅沼稲次郎委員長を刺殺する映像に衝撃を受け、愛国のために身を捧げることに目覚めたという鈴木。大学時代には、今の日本会議の前身となる全国学協の代表まで登りつめたが、まもなく失墜。

その後新聞社に就職するも、右翼運動に自らが引き入れた早稲田大学の後輩、森田必勝が25歳にして、三島由紀夫と自決したことに衝撃を受け、職を辞し政治団体・一水会を立ち上げることに。政治的・思想的な挫折と葛藤を繰り返す中で見えてきたのは、自らが訴えてきた「愛と正義」、「愛国心」でさえも疑い、そして異なる意見や価値観を持つ人たちの言葉に耳を傾けることだった。社会から疎外された者たちに向ける鈴木のまなざしは限りなく優しさに満ちている。そんな数奇な運命を生き抜いてきた鈴木邦男の素顔に密着した本作。加えて、麻原彰晃の三女・松本麗華、元オウム真理教の幹部・上祐史浩、元日本赤軍で映画監督の足立正生、作家・雨宮処凛、拉致被害者家族会の元副代表・蓮池透など多彩な人たちが鈴木について語る異色のドキュメンタリー。

出演:鈴木邦男、雨宮処凛、蓮池透、足立正生、木村三浩、松本麗華、上祐史浩 他
製作・監督・撮影・編集:中村真夕
共同プロデューサー:山上徹二郎
協力:椎野企画、ロフトプロジェクト、ウエイブ
制作・配給協力:シグロ
配給:オンファロスピクチャーズ
78分 /HD/カラー /2019年
写真はすべて©️オンファロスピクチャーズ

2020年2月1日(土)よりポレポレ東中野にて
トークショー付き2週間限定公開!

連日トークゲストあり。最新情報は公式サイトもしくは劇場HPをご覧下さい

【監督プロフィール】

中村真夕(なかむら・まゆ)
ニューヨーク大学大学院で映画を学ぶ。2006年、劇映画「ハリヨの夏」(主演:高良健吾、於保佐代子、柄本明、風吹ジュン)で監督デビュー。釜山国際映画祭コンペティション部門に招待される。2012年、浜松の日系ブラジル人の若者たちを追ったドキュメンタリー映画「孤独なツバメたち〜デカセギの子どもに生まれて〜」を監督。2015年、福島の原発20キロ圏内にたった一人で残り、動物たちと暮す男性を追ったドキュメンタリー映画「ナオトひとりっきり」を発表。モントリオール世界映画祭のドキュメンタリー映画部門に招待され、全国公開される。最新作、オムニバス映画「プレイルーム」はシネマート新宿で異例の大ヒットとなりアンコール上映され、全国公開中。脚本家としてはエミー賞ノミネート作品「東京裁判」(NHK)29年度芸術祭参加作品がある。

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