【Interview】『観ずに死ねるか!傑作ドキュメンタリー88』編集者・尾形誠規さんインタビュー

 『neoneo 02』と期を同じくして発売されたこの一冊の本に、私は正直、やられた!と思った。表紙のインパクトもさることながら、中身がとにかく面白い。執筆者たちが実に生き生きと、自分本位に作品への思いを語っている。この本自体がひとつのドキュメンタリーになっているから、ドキュメンタリー好きにとっては、まさに「読まずに死ねるか!」と言えるのだ。

同時にこのセンス、映画のプロの仕業ではないな、とも思った。これを手掛けた編集者は、いったいどんな男なのか。「会わずに死ねるか!」と思い、取材を強行した次第である。
(取材・構成 佐藤寛朗)

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——このような本を待望していました。面白いから観てみようぜ、というコンセプトでまとめたドキュメンタリーのガイドブックは、おそらくこの本が初めてなのではないでしょうか。なぜ、尾形さんが手掛けられたのか。そこを知りたいんです。

尾形:別に僕はドキュメンタリーに特別な思い入れがあるわけではないんですよ。ぶっちゃけドキュメンタリーって、地味じゃないですか。山形ドキュメンタリー映画祭なんかも僕、2回ぐらい行っているんですけど、20本に1本面白いものがあるかどうか。大半がもう寝たくなる(笑)。

だけど、やっぱり原一男監督の『ゆきゆきて、神軍』(1987)を見た、というのが、自分の中ですごく大きく残っているんですよ。その衝撃たるや、凄まじいものがありました。ドキュメンタリーといえども観ている者を楽しませようという仕掛けがないとダメだろうと僕は常々思っていて、『ゆきゆきて、神軍』に関していえば、奥崎謙三というキャラの立った猛烈なモンスターがいた、というのはあるけれども、まずこれに匹敵するか、近づきたい、という思いが、本を作る時の基準としてありました。

もうひとつは、ドキュメンタリーって地味な世界だから、なるべく派手な人に語ってほしい。執筆者も、なるべく作品と関係のある人に語ってほしい、と思ったんです。映画評論家の方も入っていますが、そういう方たちにも、何故この作品を描くのか?という個人的な視点を絶対に入れてください、というふうにお願いをしたんです。極端にいえば、僕は映画というよりは、映画を語ってもらうことで書き手のことを知りたいんですね。映画の面白さはこちらで概要を書きますから、むしろ自分自身のことを語ってください、という頼み方をしました。

——そもそも尾形さんは、それまでどのような本を手掛けられていたのですか?

尾形:大学の頃は、映画研究会にいたんですよ。8ミリフィルム全盛期の、ぴあフィルムフェスティバルみたいなね。そっちの世界に行きたいなあと思って、自分でも8ミリの映画を撮ってね。だけど、全く才能がなかった。映像関係の会社もけっこう受けたんですけど、どこも落ちてました。4月になってもどこにも就職が決まっていなかった。オレ、2年浪人して1年留年しているんですよ。だから親からおまえは死ねっ、みたいに言われてました(笑)。

たまたま新聞で見かけた三才ブックスという小さな出版社に入れてもらって、お寺の雑誌と無線の雑誌、2種類あるけどどっちがいい?と言われて。無線は全く興味がないので、お寺の雑誌に配属されたら、それが1年で廃刊になっちゃった。で、そのあといろいろな事をやって、いま「裏モノJAPAN」という雑誌があるんですけど、その元になる「裏モノの本」という雑誌を90年代に作った。

それまではアイドルを扱う雑誌を作っていて、アイドルの話をいろいろ聞いていたんですけど、全然面白くない。もっと自分発信のものをやりたいと思って「裏モノの本」を作ったら、それがバカ売れしたんです。で、それを年4回ぐらい出そうとした頃に社長と折り合いが悪くなって、仲間3人で15年前に会社を立ち上げた。それがいまの鉄人社です。そこで「裏モノJAPAN」という下世話な雑誌の編集長を10年間ぐらいやっていました。

——「裏モノJAPAN」の編集長だったんですか!時々読んでいましたよ。

尾形:5年前にひとりになって、さて、何をやろうかと試行錯誤している時に、今回の本にも書いている北尾トロという知り合いのライターがいて、彼と一緒に裁判の傍聴をやっていたから、傍聴の本を一回出したんですね。ムックみたいな形で。袴田事件という、冤罪だと言われている有名な事件があって、その一審の裁判官で、死刑判決を出した3人のうちのひとりが「実は私は無罪だと思っていた。2対1で負けたんだ」ということを言い出した。ふつうはそんなこと言う人、いないんですよ。俺、凄い感動しちゃって、その人のことを取材した「美談の男」という本を、自分で書いたんです。

これが、ドキュメンタリー映画になったら絶対に面白い、というぐらいのネタで。オレが感動したその裁判官は、実はとんでもない奴だった、というオチなんです。それこそ『全身小説家』みたいな話で、離婚して子供とはもう何年も会っていないし、酒乱で、女たらしで、家族に取材すると「は?あなたは何を知ってらっしゃるの?」という感じで、化けの皮がはがれていく。それがとても面白かったんですね。もともとそういうものに対しては興味があったし、情熱を向けられるな、というのはありました。

「裏モノJAPAN」は、今はエロの匂いが強くなっているんですけど、いろいろなところに潜入するのが強みの雑誌だったんですよ。怪しげな新興宗教に入信させて、偽の信者になって暴いてこい、とか。実際に通信販売のものを買って、ほんとうに効果があるか自分たちで試してみる、とかね。僕はどちらかといえばやらせる立場の人間だったんですけど(笑)、そういう雑誌感覚というか、現場にいって体験する、というようなものづくりに、身体が慣れちゃっているんですね。

尾形誠規さん

それとは別に、好きな映画の本を一冊作りたかったんです。俺、韓国映画が好きで、特に『オアシス』(2002)という映画に琴線が触れた部分があって、2年前に「韓国映画 この容赦なき人生 ~骨太コリアンムービー熱狂読本~」という本を出しました。ふつうの作品評みたいなものを作っても面白くないので、なるべくメジャーな人に語ってもらう本を作ろうと思って、三池崇史さんなんかにお願いしたんですよ。でも三池さん、映画のことを全然語っていなくて(笑)。そういうのもありだろうと思って、同じノリの原稿を集めて作ったんですね。今回ほどには徹底していませんが。

 ——では、その第2弾としての、「ドキュメンタリー映画篇」ということなんですね。

尾形:ええ、その本もバカ売れはしていないけど、第2弾をやっても良いだろう、というぐらいの売れ行きだったんです。それがあって、よし、もう一回映画の本が作れるぞ、という喜びから始まったんですよ。そりゃあ嬉しいですよ。好きなことで飯が食えるんだから。今でも映画は、年間100本ぐらいは見ていますからね。

 直接的には、その韓国映画の本で松江哲明監督にも書いてもらって、出版記念のイベントで、松江さんに韓国映画の面白さをガイドしてもらったんですよ。そのあとの飲み会で「ドキュメンタリーにも、けっこう面白いものがありますよ!」という話が出たのがきっかけだったのかな。僕の中でも『ゆきゆきて、神軍』とか『精神』(2008)とかには、結構頭を殴られたところがあったんで、じゃあドキュメンタリーの本を出そう、と。

デザイナーは韓国映画の本と同じ人でしたが「ドキュメンタリーなんて、誰も食いつかないよ!」と言われました。逆に僕は、「観ずに死ねるか」というのも重要だけど「ドキュメンタリー」が重要だから、と思っていたので、そこは議論がありました。デザイナーも中身を見た上で、熱心に意見してくれたんだけれども。

『観ずに死ねるか!傑作ドキュメンタリー88』の表紙

 ——それにしても、ただならぬインパクトのある表紙ですね。

尾形:韓国映画は「暴力と愛」というイメージだから、あんな感じの焼き肉屋みたいな表紙で良かったんですけど、今回は「オシャレにいきたい!」という体ではじめは作ったんですよ。だけど、何かが違う。中身としっくり合わないと唸っていて、ビジュアルに関しては、最終的にデザイナーの意見を取り入れました。「観ずに死ねるか」というのをドーンと持ってきた、というのは彼のアイデアです。その意向に引っ張られた感はありますかね。 ただ表紙に奥崎は持ってくることは決めていました、ほんとうはその隣りに『DOCUMENTARY of AKB48』シリーズ(2011−2013)のAKB48を入れたかったんだけど(笑)。

そもそも「裏モノJAPAN」出身の僕が作るんだから、おとなしい作りの本にはなれっこないんです。原一男監督がフェイスブックで「決してお行儀のいい、アカデミックな本でもないが、その下世話感がいい」みたいな事を書いてくれたんですけど。最高の誉め言葉です。


 ——それでは、具体的な本の作り方を聞いてみましょう。まず選定は、何から始めたのですか?

尾形:基本的には作品からですね。これは入れるべき作品、というのを百何十本かあげて、自分の想像できる範囲で、誰に当てたら良いだろう、というのを考えた。松江監督にアドバイスを頂いたりしながら、それにプラス、なるべく作品と関係が強い人を選んだ。つまり、その映画を語る必然性がある人。誰でも良い原稿にはしたくない、というのはあったので、それは誰か?という発想ですね。『ドコニモイケナイ』(2012)でいえば、同じ時期に渋谷で歌っていたミュージシャンはいないか?とか、『隣る人』(2011)では、児童養護施設出身の人であるとか。『隣る人』は、最終的にはポレポレの大槻貴宏さんに、劇場支配人という全く別の角度で良い原稿を頂けたんですけどね。

 ——びっくりしたのは、『ビヨンド・ザ・マット』(1999)のマッスル坂井さんみたいに「実際に映画と同じようなことをしてしまった人」が結構いたことです。実体験がある人や、相当に思い入れて書いている人もいますよね。

尾形:それこそが理想なんですよ。『デート・ウイズ・ドリュー』(2004)の有村昆さんとか、原稿を読んだこっちがびっくりしちゃったぐらいで。あんなに説得力のある人、いないでしょ?マッスル坂井さんも、そんなこと書いていいのか? と思うぐらいの体験を書いている。どんな作品でも語れる人はいると思うんですよ。でも、その人じゃないと絶対ダメ、というのがありますよね。基本はそこです。

——一方で、いわゆる定番もきちんと押さえていらっしゃる。佐藤真監督の『阿賀に生きる』(1992)とか、フレデリック・ワイズマンとか。

尾形:まあ、それも考えました。入っていっていないとまずいだろう、というのは入れていますよ。計算はあったかもしれませんね、このへんも押さえていますよ、チャラチャラしたものだけではないですよ、というのはね。

——こんな人がこんな作品を取り上げるのか!という意外性もありましたね。例えば二階堂ふみさんが『意志の勝利』(1934)を選ぶとか…

尾形:何でもいいから自分の好きなものを1本あげてください、と二階堂さんに伝えたら、マネージャーさんから「本人がナチの映画をあげているけど、いいですか?」という返事が来た。半信半疑でインタビューをしたら「なんでそんなこと聞くんですか?私が語るの、変ですか?」って意外そうに言うから、いやいや、意外過ぎるだろ!って(笑)。ネタではないです。一番緊張しましたよ。インタビューの中で。眼力があるというか…一番意外なのはどれですか?

——やっぱり二階堂さんとか森下くるみさんとか、女優が選ぶ作品ですかね。あとは安彦良和さんの『アルマジロ』(2010)とか。

尾形:僕が意外だったのは久保ミツロウさん。「モテキ」のきっかけが、松江さんの『童貞。をプロデュース』(2007)だった、という話は人づてに聞いてはいたんだけど、松江さん自身がそれを知らなかった、というのはびっくりしましたね。

 ——和田ラジヲさん(漫画家)なんかもびっくりしました。「この人、松山に住んでいるんだ」みたいな単純な驚きからですが。漫画家さんも、けっこういらっしゃいますよね。

尾形:なるべくいろんなジャンルの人がいる方が面白いとは思っていましたね。人によっては、何でこの作品が入っていないんだ!というのはあるでしょうし、そこを突っ込まれたら自分の中で明確な線引きはないんですけど。ひとつだけ、今回3・11関連の作品はいっさい外しているんですよね。いろいろ観たけど、僕の中ではどれも正直ピンとこなかった。取捨選択が自分の中でできなかったので、だったら一切止めようと。一本だけあるかな、AVですけどね。

——われわれの『neoneo 02』との関連でいえば、小川紳介監督も取り上げていますね。

尾形小川プロの映画は、ずっと昔に『どっこい!人間節』(1975)だけ観ていて、それはそれで面白いなと思って書けそうな人を調べたら、山本政志さんが出てきた。でも俺は『どっこい!人間節』はあまり好きじゃないんだよね、と言われて、彼の好きな『1000年刻みの日時計』(1986)になったんです。映画のことではなくて、小川紳介との交流のことを書いてくださいというお願いはしました。小川紳介ってどういう人なのか、僕は知らないし。結果的にとてもいい原稿だったと思いますけどね。

——小川紳介監督は、ドキュメンタリー好きの人間の中では、ある意味神格化されている部分がある。

尾形:でも、知らないですよね。若い人は誰も知らないんじゃないかな。だから『neoneo 02』はスゲエ特集だな、と思いましたよ。業界紙なんじゃないかな、と(笑)。

——そうですか…そういうこともどんどん話して下さい(笑)

尾形:続けていくことを考えれば、そういう選択になる、というのも当然あるだろうし、僕の本は1回きりの特集だからできた、というのはありますよね。発想もスタートから違うと思います。やっぱりねえ、これは1回きりだからできたことであって、ドキュメンタリーで2冊目は絶対にないです。

——ドキュメンタリーを知らない人でも、手に入れたくなるような本にしなければいけませんよね。

尾形:この本で、『フラッシュバックメモリーズ3D』(2012)を矢田部吉彦さん(東京国際映画祭プログラムディレクター)に依頼して、実に感動的な原稿をいただいた。でも、この作品、実は最初、前田敦子さんに語ってもらおうと思ってたんですね。『フラッシュバックメモリーズ3D』を好きだとは聞いていたから。前田敦子がこの本に参加しているって、違和感を覚える人はいるかもしれないけど、やはり注目はされる。「え!?何で入っているの?」って思いますよね。

とにかく、死ぬほど断られましたよ。最終的にこの人選に落ち着くまでに、結構時間がかかりました。ここだけの話、ビートたけしさんにも話を振ったりして…途中から僕、気がふれていたんですね(笑)。断られても何も怖くないぞ、という高揚した気分でオファーを続けていたから。とにかく「コイツが出ているの?」というところでびっくりさせてやろう、という気持ちは強かったです。映画を良く知っている人に頼む、という発想とは、ちょっと違いますね。

——AVのガイドとワイズマンのガイドが同居しているとか、成海璃子さんと川本三郎さんが並んでいるとか、十分面白いと思います(笑)。作品として、尾形さん的に絶対に入れたかった、というのはありますか?

尾形:NHKの『映像の世紀』(1995−96)。これは上映でも是非見せたかったんだけけど、権利の問題があってできませんでした。映画だけではなくて、テレビでも面白いドキュメンタリーはあるでしょう?それを出せたのは嬉しいですね

 

——ドキュメンタリーを取り上げる、ということで、何か特別な苦労みたいなことはありましたか?

尾形:今言った人選の部分では自分でハードルをあげていったので、それが苦しかった、というのはありましたが、断られるというのは普通にあるんでね、それは構わないんですけども。ひとつ思ったのは、ドキュメンタリーを本で扱うというのは、思った以上に神経質にならなくてはいけないな、ということです。被写体には、今生きていらっしゃる方もいれば、遺族の方もいらっしゃる。家族に嫌と言われたら、それは説得できないですよね。そういう部分は、劇映画とは全然違ったものがありましたね。非常に気を使うというか。

——今回は特集上映(『観ずに死ねるか!傑作ドキュメンタリー88』出版記念上映会』)も手掛けられていますが、それに関してはいかがですか?

尾形:いやもう、これは全く初めての経験でして、こんなに大変だとは思いませんでしたよ。素材を揃えるのから何から、全く分からなかったですから。なんとなくドキュメンタリーだから、ポレポレさんにお願いしてみようか、ぐらいの感覚でしたから。しかも本と同時進行ですからね。一度、これは自分のキャパを越えてるから、もうナシにしましょう、というところまでいったんですけれど、その後、本当にそれで良いのか?みたいなことが自分の中で生まれ(笑)、やっぱりやろう、と。

当初は特集上映が終わってから本を発売する予定だったんですが、それは違う、と途中で思いだした。印刷屋にギリギリでいつまで待てますかとかけ合って、発売を2週間前倒しにしたんですね。自分で決めたことなのに、そこからはもうパニックでした。今までの人生でこんなに忙しい1ヶ月はなかった、と言うぐらい。イベントの準備に関しては、映画好きが集まっている飲み屋の仲間なんかにも手伝ってもらったりして。やるとなれば、失敗はしたくないので。

ゲストの人選も、作品は過去のものだから、普通に上映をしても客が来ないので、この本と同じコンセプトで、なるべく関係のある人を呼べれば面白いな、と思って、上祐さんと森さんをぶつけてみたり、とか、いろいろ試してみています。

—— 本も映画もそうですが、どういう反応があるのか、実際にふたを開けてみなければ分からないところがありますからね。特にドキュメンタリーは。

尾形:本ってやっぱり、いくらゲラなどを見ても、実際にできたものをみてみないと分からないんですよね。現物を手に取った瞬間に「なんか違う」ということはあるんですけど、そういう直感で言えば、今回は、それほど違和感はなかったです。

ドキュメンタリーって、作品自体は面白いんですよ。だけど、それが本を作る上で売りになるのかというと、僕はならないと思っています。だから、それを誰が語るのか、どういう内容で語るのか、というのを明確にしないと、本でインパクトを作れない。表紙の奥崎謙三だって、ドキュメンタリー好きならみんな知っていますけど、普通の人はもう知らないですよ。ここに出ている人を誰も知らない人、結構いると思いますよ。『フラッシュバックメモリーズ3D』のGOMAさんだって、僕は映画を観るまで知らなかった。だからAKB48を出したかった、というのはありますよ。何度も言うけど、本当は奥崎がAKBを見ている、という表紙にしたかったんです(笑)。

水道橋博士も言っていましたけど、ドキュメンタリーも誰かヒーローを作らないといけないと思いましたよね。マイケルムーアみたいに、全面的に出ていくみたいな人…テリー伊藤みたいな人がいると良いんじゃないですか?ドキュメンタリーをやりながら、テレビにバンバン出て、キャラクターが立っている人。スター性のある人を育てた方がいいですよ。あるいはドキュメンタリー好きのアイドル。ドキュドルとか。

——今のお話は、編集を終えて、あるいは観客として、尾形さんがドキュメンタリーに求める欲求のような気がします。そのあたりを、もう少し詳しく聞かせていただけますか。

尾形:僕自身は、面白ければ何でもいいじゃん、みたいなところはありますね。ドキュメンタリーって、そんなにお金をかけずに作れるところが強みでもあるんでしょうけど、それに千何百円払うんだったらハリウッドを観たい、というのがふつうの観客じゃないですか。予算や規模で勝負はもちろんできないだろうけど、少なくとも面白くする努力をしてほしい、というのは凄くありますね。皆さん、対象者に遠慮して撮っているなあという感じは、今回たくさん観て思いました。悪くいえば、自分のマスターベーションで作っているんじゃないの?という作品も正直ある。主張は正しいとしても、もうちょっと楽しませてほしいというのはあります。

ドキュメンタリーというだけで見る気がしない、という人は結構いると思いますよ、でも、観たら、面白いんだよねえ…分からないなあ。僕も『監督失格』(2011)なんかは、山形で観た時はピンとこなかったのに、今回あらためて見直したら、びんびん琴線に触れましたからねえ。

本って、いいものを作ってもなかなか売れないじゃないですか。ドキュメンタリーだって、いくらいいものを作っても、イコール客が入るとは限らない。率直に言って今回は、事前の反応は悪くないですよ。でももしこれが売れなかったら、もはやドキュメンタリー映画のせいで、俺は悪くないと思う(笑)。

 途中から俺は、ひょっとしてドキュメンタリー映画界に何かしら貢献するようなことをしているのかもしれない、という気がしてきたんだけど、いやいや、やっぱりそれはない。映画は映画、本は本、これがひとつの作品だと思っていますから。結果的に、この本がきっかけでこんな面白いドキュメンタリーがあるんだと思ってもらえたら、それに越したことはありませんね。 

【書誌情報】

『観ずに死ねるか!傑作ドキュメンタリー88』
~総勢73人が語る極私的作品論~

発行:鉄人社
 2013年4月6日発売
A5版256頁
 
定価:1,800円(税抜)

ISBN978-4-904676-72-1

http://mizushinedocu.com/book/

 

【上映情報】

『観ずに死ねるか!傑作ドキュメンタリー88』出版記念上映会
4/13(土)〜4/26(金) ポレポレ東中野にて

連日:20:00〜(4/14.15.22は19:30〜)
※連日ゲストあり、詳細はこちら→http://mizushinedocu.com/schedule/

料金:当日券1500円
特設サイト:http://mizushinedocu.com/