【特別企画】対談「東京・TOKYO 日本の新進作家vol.13」より 田代一倫(写真家)×倉石信乃(写真評論家)〜いま 肖像写真を撮るということ〜

現在、東京都写真美術館で開催されている「東京・TOKYO 日本の新進作家vol.13」(〜1/29)では、6人の新進写真家による「東京」をテーマにした写真が展示されている。その一人に「はまゆりの頃に」の田代一倫さんが選出され、さる12月4日に、倉石信乃さん(写真評論家・明治大学教授)とのギャラリートークが行われた。以下はその採録である。
あえて「スナップではなく、ポートレート」とご本人が言い切る、背景と人物のフレーミングが独特な田代さんの写真には、「撮る−撮られる」の関係性や「自己と他者」あるいは「個人と社会」の距離感といったドキュメンタリーの根源を問い、揺さぶる要素が充満している。今回の対談でも、“撮る”という行為を通じてその問題に真正面から向き合ってこられたご本人の姿勢が、端々から伝わってくる。
「ドキュメンタリー」の“原点”を考えさせてくれるお二人のお話や、田代さんの作品世界を、ご自身がセレクトされた写真(スライドショーの抜粋)と共に、ギャラリートークの“再現”のような形で味わっていただけたら幸いである。

(neoneo編集室・佐藤寛朗)


田代 田代一倫と申します。今回、「新進作家 Vol.13 東京 TOKYO」に出品しています。この展覧会の企画者である学芸員の藤村里美さんから、展覧会に関連する企画として、対談をするということと、相手は私が指名するということをお聞きした時から、今、横に座っていらっしゃる倉石信乃さんと、「お話させていただきたいなぁ」と思っていました。倉石さんとは、面識は10年くらい前からあるんですが、これまで直接二人で話す機会が、二度か三度くらいしかなく、ただ、その二度の中でとても鋭いことをおっしゃっていただいて、作品制作に大きな示唆をいただきました。そういう私の視界が開かれたような体験を、皆さんにもしていただけたらなと思いつつ、実は私にとって一番良い機会だと思って、今日は倉石さんをご指名させていただきました。

倉石 これまで何度か田代さんとお目にかかって、比較的長い時間地方などをご一緒することもあったんですが、一度2013年に、サンフランシスコの郊外を田代さんを含め何人かで旅する機会がありまして、ほとんどひと気のない、モノ湖という、非常に特異な風景が広がっている場所を訪れたことがあります。そこで、たまたま通りかかった外国の観光客の女性に田代さんが声をかけて撮影しているところに遭遇しました。その時初めて田代さんの撮り方を拝見することになったわけです。田代さんはこういう非常にジェントルで物静かな青年なんですが、撮影する時もそのままジェントルマンとして声をかけるんですが、かなり喰らいついて撮るんですね。細心に相手との距離を測りながら、非常に礼儀正しく接しながらも、自分が撮りたい写真については容赦しないという、二つの面があるようにその時感じました。今日は、私がお話しするよりは、出品作家としての田代さんのお話をなるべく多くお聞きしたいと思っています。田代さんの作品は、今展示されていて、ご覧になった方もいらっしゃると思うんですけど、私は、田代さんの写真に教えられてきたことがたくさんありますので、具体的に作品を見ながらお話を聞いていきたいと思います。

田代 はい。今日は、いくつかのシリーズの作品を見ていただこうと思っていますが、まずひとつ目は「椿の街」というシリーズです。韓国の南と、私の故郷である福岡を含む九州の北が撮影範囲です。タイトルの由来ですが、博多港と釜山港を繋ぐ連絡船に「ニューカメリア号」という船があって、私も何度か乗っています。その元祖である「カメリア号」の名前の由来は、福岡、釜山、お互いの市のシンボルの花である「椿」(Camelia)から来ていまして、二つの都市の友好の証として名付けられたらしいんです。花には国境とか関係なく、気候の繋がりで様々なところに分布している。そういう緩やかな繋がりのように捉えてみようということで、「椿の街」としました。

(プロフィール)

田代一倫 (たしろ かずとも)
1980 年福岡県生まれ。九州産業大学卒業。2006 年より、福岡市にて、写真家自身で運営するギャラリー< アジア フォトグラファーズ ギャラリー> の設立、運営に参加。2010 年に活動の拠点を東京、新宿にある<photographers’ gallery>に移して活動している。2013 年に写真集『はまゆりの頃に 三陸、福島 2011〜2013年』(里山社)を出版。同年、さがみはら写真新人奨励賞を受賞した。2016年には、「歴史する! Doing history!」(福岡市美術館)にも出品した。

倉石 信乃(くらいし しの)
1963年生。明治大学教授。1988〜2007年横浜美術館学芸員としてマン・レイ展、ロバート・フランク展、中平卓馬展などを担当。1998年重森弘淹写真評論賞、2011年日本写真協会賞学芸賞を受賞。主な著書に『スナップショット—写真の輝き』(2010年)、『反写真論』(1999年)、『失楽園風景表現の近代 1870-1945』(共著、2004年)など。『沖縄写真家シリーズ[琉球烈像]』(全9巻、2010-12年)を仲里効と監修。2001年、シアターカンパニーARICA創立に参加、コンセプト・テクストを担当。

▼page2 『椿の街』に続く