【Pickup】特集★山形国際ドキュメンタリー映画祭2013 ヤマガタもぎたてレポート[4日目:10/13 SUN]

neoneo編集委員+αによる山形映画祭の即日特集『山形もぎたてレポート』。いよいよ佳境の4日目です。映画祭の雰囲気をお楽しみ下さい。

【Pickup】特集★山形国際ドキュメンタリー映画祭2013 ヤマガタもぎたてレポート[初日:10/10 THU] 
【Pickup】特集★山形国際ドキュメンタリー映画祭2013 ヤマガタもぎたてレポート[2日目:10/11 FRI]
【Pickup】特集★山形国際ドキュメンタリー映画祭2013 ヤマガタもぎたてレポート[3日目:10/12 SAT]


山形イラスト 001b初体験  ヤマガタつれづれ  若木康輔

「みんなが行くんなら、ボクはいいよう。宿の手配とか面倒だし……」とギリギリまでグズッていたのだが、3号の物販こそが目的ということで、やってまいりました。山形。

「夜行バスで早朝に着いても、駅前で開いているのは松屋だけだから注意を」と言われて、てっきり冗談だと思っていたら、ほんとに松屋だけでらっしゃる……。パラッパラッと天気雨が降るなか、アメリカ産らしいお兄ちゃんとチョーカタコトで駅の周りをウロウロしたり、つまんないイラストを描いたりして時間をやり過ごした。でも、おしりを描くと朝からドキドキした。

同じバスに乗っていた初対面の川上拓也さんは、うまいこと時間をつぶしたという。

さっそく聞いて唸った、通の早朝ヤマガタ入りの過ごし方。

「蔵王行のバスに乗り、銭湯でゆっくり朝風呂に入ってもじゅうぶん朝イチの上映に間に合う」

朝から編集の秦さんとやはり初めてお会いすることが出来た。安岡卓治さん、岩波の渡辺勝之さん、大久保賢一さん、上野昴志さんに久しぶりにごあいさつ。ほかにもいろいろと。会場の前で3号を売っていたら、ポレポレ東中野の石川多摩川さんに「ビッグイシューの人かと思ったら若木さん!」。

「あんたもヒマだな」と言い返したら、石川さんは『ある精肉店のはなし』の配給ということで来ていて失礼……。で、この映画は「neoneo web」でも寄稿してくれる細見さんの、イチオシだった。

加藤孝信さんにはここぞとばかりにしっかり軽口を叩き、そしたら小野さやかに、「若木さんは文章よりイラストのほうがマシ」と甘噛みされて、ほっぺた引っ張ってやろうかと思った。とまあ、僕ですらこんな集中度でひとと出会って楽しいのだ。毎回来て、ゲストの監督さんとも交流のある常連さんや、neoneoの他のメンバーにとってはさぞかし、めくめるくような数日間だろう。

それでもって、朝に見たコンペティションの『空低く大地高し』が、またフシギで見応えのある映画だったので、昼のうちにもう「ああ、ヤマガタを味わった!」となった。スケールの小さい人間なので、これ以上おもしろいことがあると熱を出しそう。

と言いつつ、少しだけ感想を。

『空低く大地高し』

タイのノンタワット・ナムベンジャポン(83年生まれ)監督によるタイ=カンボジア=フランス作品。

数年前のタイ・バンコクの政治騒乱。当時、軍の兵士として反政府(南部の分離独立支持、新聞などではタクシン派と紹介される)派勢力を抑えるひとりだった若者が、除隊してふるさとの南部に帰って……。

村のおっとりと静かな暮らし、淡々と打ちあけられる兵役当時の思い出が、非常に美的意識の強いカメラと編集によって綴れ織りされている。

アビチャッポン門下生ってホントか! 実際そうだとしても、まるで違和感なし。

前々回のヤマガタで『稲作ユートピア』というのを見て、デジタルカメラで撮られるアジアの農村風景がサラッと乾いていること、フィルムの頃の東南アジア映画らしい湿気・潤気がこもったのとは違う風景であることに驚いたのだが、この映画ではさらに画質の精度が高い。

何より、タクシン派(主に南部、カンボジア国境近くの農村地帯)と反タクシン派(主にバンコクの都市生活者)の間の断絶はここまで深いのかと知り、驚いた。南部とカンボジアの国境も同様。

全体に「アートっぽい」スタイルがとても魅力的なのだが、スケッチの断章を通して監督は、タイの内政不安の歴史が自然と、ヒタヒタと立体的に感じられるように作ってくれている。例えば、「国境線いうてもよ、もともと戦後にフランスが勝手に引いたもんじゃけの」(勝手に意訳)などといったことばひとつで、言わんとしていることがバーッと見えてくる。こういうところが、うまいのだ。

その上で、両国の領地権争いの当該地を撮るラスト・シークエンスが、アートっぽいどころか、一気に観念へ行く。恒常的な、形而上のなにものか(祖先のファントマかはたまた歴史そのものか)をカメラがうまく捉えた、気がする瞬間にスーッと終わる。クレジット・ロールのT-POPがまた、けっこうカッコイイのが心憎い。

コンペの評判はもう、会う人会う人『殺人という行為』でもちきり、なのは昨日のレポートにもある通り(ちょうど今、2回目の上映の最中だが、宿のチェックインがありあきらめた)だが、この『空低く大地高し』も、

「都市部の映画ファン名物、『あ、それ、ヤマガタで見たよ』とことさらさりげなく自慢」

できる1本だと思います。

で、3号販売がんばりましたので、自分へのごほうびにもう2本目。

今回の目玉企画、クリス・マルケル特集から。

『空気の底は赤い』

4時間以上だった、1977年の初めての発表版を、93年になって本人が再編集したという、3時間版だった。苦言というわけではないけども、「これを選ぶと、『殺人という行為』の2回目に間に合わない。どうしよう……」と悩む声を、2人以上から聞いた。

3時間バージョンの上映になること、もうちょい大きくアナウンスしてくれると、一人ずつが組む時間割がさらに有効になっただろうと思う。

見ず知らずのお兄さんが、「さっぱり面白くなかった。延々、政治演説を聞かされて……」と話しかけてきた。見たところまだ若いので、イデオロギーが有効だった時代を知らないのなら無理もないでしょ、と答えると、「いえ、そんなことは分かっています」と鼻を膨らませた。いい大学のいいゼミの子らしい。かえってプライドを傷つけてしまったらしい。

政治の季節―1968年を節目に置いた、戦後の政治思想のクロニクル。それは構図として分かるとして、お兄さんは、そういうことをマルケルがやる必然・理由を掴み損ね、もどかしい気持ちでいたらしい。

ただ、こっちもneoneoを売るのに忙しいのである。ちゃんと相手にできず、ちょっと悪いことをした。「3号に、『空気の底は赤い』論が載ってるよ。それを読んでよ!」と勧めたのだが、お兄さんはいつのまにか去って行った。

実際、金子遊による3号収録『空気の底は赤い』論は、僕のように、あんまりにも高密度な内容なので(パリの五月革命、プラハの春、カストロ、チリの民主革命、毛沢東、ボリビアに渡ったゲバラ、さらにアルゼンチンの都市ゲリラ、マルゲーラの話などなど、あのー、それ1本で見せてくれませんかというフッテージの千本ノック状態)、唖然、ほとんど頭に入らないけどでもすごく面白かった、という人にオススメです。

連関し、同時多発もした事象を大胆かつ堂々と、ひとつの大きな歌が奏でられるようにモンタージュし、「新左翼運動の十年の歴史をひとつの塊として提示する」(74P)マルケルの意図を、うまく解いてくれているので。(それに金子氏のマルケルへの愛着は、見ることでようやく、やっと分かってきたなー)

ただ、僕でも肌身で分かるような気がして、ホロッとくるのは、クリス・マルケルが、左翼思想に理想を抱く青年時代を過ごし、成熟とともに共産主義の世界的な退潮を体験した年代にあたることだ。

ソ連が消滅し、ベルリンの壁が崩れた後には、かつて信じていたユートピアは存在していなかった。例えばテオ・アンゲロプロスは、真摯に傷つき、迷ったひと。1990年代に入ってしばらくは、しつこく追ってきたギリシア現代史と政治のテーマから一時離れた。マルケルはどうだったか? その答えが、こんな長大なアーカイヴ・政治アンソロジーをさらに再編集することだった。「オオカミはまだ生き残っている」というコメントの変更は、背景の事情を知ると鳥肌もの。

で、結局はなにが言いたいかというと、今まで『ラ・ジュテ』ぐらいしか見てなくてゴメンナサイ! クリス・マルケル、よいわ~、である。

今回のヤマガタで押さえておかないと見ないと、もう滅多に見られない、はもったいない。今回の特集が反響を呼んで、ようやくクリス・マルケルがいろいろ見られるようになる……になると、いいですね。


食べ歩きがはかどる映画祭  小林和貴

1

この日は大規模なお祭り(『最上義光公祭り』)も催されていた。御神輿担ぐ人、戦国武将の格好をした人で、町中が溢れていた。

2

お祭りと言えば出店。中央公民館AZの前は歩行者天国となり、たくさんの出店が出ていた。食べ歩きがはかどる。 

3「サンティアゴの扉」イグナシオ・アグエロ監督によるロビートーク。  4−1 会場ロビーで行われている、チャリティーお茶会。前回からの試みで、300円以上の募金をすると参加する事ができる。
4−2
美味しいお茶と着物に癒された。
 
5「共通の敵」上映後のシリア人ジャーナリスト、ナジブ・エルカシュさんによる質疑応答。イスラム教の話からチュニジアの政治事情まで、丁寧な解説が行われた。終始真面目な話をしていたが、実は冗談を言うのが大好きだとか。
6フォーラムにいたガ●ャピン。意外とシャイな方で、親近感を覚えた。
7本当に至る所で目にした猫。もはや少し怖い。
8
山形の美味しいものが食べたくて、蕎麦を食べた。個人的に、寒い地域の蕎麦は、美味しいと思う。
9クリス・マルケル「サン・ソレイユ」上映後。さすが名作とだけあって、会場は満席だった。
10香味庵オープン前に披露された、南京玉すだれ。なぜ?とも思うが、こういうのも映画祭の醍醐味。
11

neoneo2号のイベントに、ゲストとして来て頂いた清水浩之さんと再会。一緒にいた編集委員の若木と写真を撮らせて頂く。二人とも映画祭をとても楽しんでいるのがわかる。良い写真が撮れたと酔っぱらいながら思った。

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