【Interview】福島の“不安”と向き合う――『A2-B-C』イアン・トーマス・アッシュ監督インタビュー

 

福島の現状と、今後に向けて

——いま国の話がでましたが、除染をはじめ、日本政府の原発事故対応についてはどう思いますか?

イアン 今も国は、福島の人たちを元の土地に戻そうとしていますよね。除染が本当にできるなら、そこに住んでもよい、ということになりますが、福島第一原発は完全に収束としたわけじゃないから、何があってもおかしくない、というのは事実として言えると思います。今度何かあったらまた避難させないといけないのに、なんで無理に人を戻そうとするんですか?

——福島県内の論理として、どこかで故郷に帰りたい、帰さなくちゃいけない、という意識があるのではないでしょうか。

イアン そりゃあ皆、帰りたいでしょう。自分の故郷だから。僕も帰りたい。でも帰れませんと言い切れば、諦めるしかない。リスクのある土地に、帰れるかもしれない選択ができるように思わせて、戻るという選択をしたらお金も払わない、補償金も出さないというのは、皆さんの気持ちが国に利用されている、ということになりませんか?

——つまり、国が責任を自己責任に転嫁させていると?

イアン そう。道路に速度制限がありますよね。あなたはもっとスピード出したいと思っていても、危ないからここは60キロまで、と決めるのは国でしょう? 私は運転が人より上手いから80キロまで大丈夫って、自分で決めてもいいんですか?

このことは本当に腹が立つんだけど、例えばお米を作る農家の人たちに風評被害などがある中で、国は福島のお米を買って応援しましょう! と言いますよね。それで皆さんが買わなかったら、農家の人たちの生活はどうなるんですか? お金の問題もあるけれど、要は、国は国民に責任を取らせているわけ。あなたたちが買わないと、この人たちがかわいそうだよって。そうではなくて、国が起こした問題なのだから、そこは責任を持って国が守るべきだと思います。

——そのような話を聞くと、この映画は、本来は日本人が撮るべきテーマだったのかも、と思ってしまいましたが、「日本在住のアメリカ人であるイアン監督が撮った」と言われることについては、どう思われますか?

イアン 日本人がやるべきかどうかは分からないけど「なぜこの映画を撮ろうと思ったんですか?」と言われたら、本当は撮りたくなかったと答えます。この映画を撮らなければいけない日本の状況を、僕は好きではないから。でも残念ながらこういう状態になっているから、撮るべきだと思いました。誰かがやらなければいけない、という時に、僕は奥さんも子どももいないし、責任が何もないから行けるんです。

『A2-B-C』より

——少し映画の内容から外れますが、映画を観て思ったのは、例えば水俣病の故・原田正純さん(1934-2012)のように、たとえ自分だけでも子どもたちを守りたいという思いで、独自に活動をしている医師というのはいなんですか?

イアン いらっしゃいます。実はそういう方も取材しているんですが、取材によって活動ができなくなると困るから、明かしてはいません。水俣病のときと全く同じです。国がどういうふうに被災者をコントロールするかを学んで、今、福島で実行しているから。

例えば、子どもが病気になった時に、普通の病気ならサポートグループという、他の同じ病気を持つお母さんと一緒にカウンセリングをするグループを作るんだけど、福島県は検査を個別に実施して、お母さんたちが情報共有をできないようにしている。自分だけがこうなったと思わされて、娘が結婚できなくなると困るでしょと言われてしまうと、子どもたちのために黙りましょう、静かにしましょうという空気になりますよね。広島・長崎の後もそうでした。差別されるから静かにしなさい!? 逆でしょ?

——今後も福島の問題を追い続けますか?

イアン 分かりません。自分の心の中にこれをやりなさいという声がある限りはやらせて頂きますが、僕じゃないといけないとは思っていません。僕は他の映画も撮るし、アクティビストとしては作ってないので。「イアン、映画を作ってくれてありがとう、次もまたよろしく」って言われるけど、よろしくってどういうこと? これは皆の問題なんだから、皆でやりましょうよ! 一緒にやらないと面白くないし、楽しくならないですよ!(了)


【作品情報】

 『A2-B-C』
(2013年/日本/71分/日本語&英語)

監督:イアン・トーマス・アッシュ
配給:A2-B-C上映委員会
©Ian Tomas Ash 2013

 2014年5月10日(土)より、ポレポレ東中野ほか全国順次公開

映画公式サイト:http://www.a2-b-c.com/index.html
監督サイト:http://www.documentingian.com(英語)

【海外の映画祭での上映実績】

*2013ウクライナ人権映画祭ドキュメンタリー グランプリ
*2013グアム国際映画祭 最優秀賞
*2013フランクフルトニッポン・コネクション映画祭 ニッポン・ビジョン賞

ロードアイランド国際映画祭(アメリカ)/シンシナティ映画祭(アメリカ)
ぴあフィルムフェスティバル(日本)/グローバル・ピース映画祭(アメリカ)
ニューベリーポート映画祭(アメリカ)/カメラジャパン・フェスティバル(オランダ)
シャグリン・ドキュメンタリー映画祭(アメリカ)/台湾国際民族誌映画祭(台湾)
レインダンス映画祭(イギリス)/山形国際ドキュメンタリー映画祭(日本)
国際人権ドキュメンタリー映画祭 ドキュメント11(スコットランド)
国連協会映画祭(アメリカ)/ファイブ・フレイバーズ映画祭(ポーランド)
広島平和映画祭(日本)/CMSヴァタバラン環境&ワイルドライフ映画祭(インド)
レインダンス・ベルリン映画祭(ドイツ)/GCAA映画祭(台湾)
シンライン映画祭(アメリカ)/DC環境映画祭(アメリカ)
グローバル・ビジョンズ・フェスティバル(カナダ)/ウラニアム映画祭(ブラジル)

【監督プロフィール】

イアン・トーマス・アッシュ(Ian Thomas Ash
1975年生まれ。アメリカ・ニューヨーク州出身。初めて撮った長編ドキュメンタリー『the ballad of vicki and jake』(2006)が、スイスのドキュメンタリー映画祭 Nyon Visions du Réelでグランプリを受賞。2000年に英語教師として来日して以来、日本滞在歴は13年にも及ぶ。福島第一原発事故以降、福島県内の避難区域周辺で生活する人々を追ったドキュメンタリー『グレー・ゾーンの中(In the Grey Zone)』(2012)がロードアイランド国際映画祭にて新人監督賞&観客賞をダブル受賞。さらに福島の子どもたちを追った本作『A2-B-C』(2013)でも世界各国で絶賛される。最新作にガンにかかった友人の最期を記録した『—1287』(2014)が控えている。

【聞き手プロフィール】

鈴木規子(すずき・のりこ)
1976年生まれ。横浜市出身。ドキュメンタリー映画愛好家。個人的な映画感想を随時つぶやき中。

Twitter:@kamaqusa
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