(デザイン: 豚星 なつみ)
今年で第17回目を迎える「ゆふいん文化・記録映画祭」。西のノンフィクション系映画祭の雄として、多様な記録映画(ドキュメンタリー映画)・PR映画に加え、今年は金井勝監督の実験映画もラインナップ入りするなど、また一味違うアプローチで三日間の祭りが繰り広げられる。
今年の特徴は、まずは食べ物と動物に関わる作品が多いこと。食べ物の中でも、酒やしょうゆ、チーズなどの発酵食品にスポットを当てた作品が多い。動物を扱った作品も、動物と人間の営みの関わりに思いが向く作品が中心だ。そして「松川賞」受賞作2作の上映に、とちぎあきら氏と野村正昭氏による独立企画と、見逃すには惜しい作品が並んでいる。1日ごとに今回のラインナップとその概要を紹介したい。
1日目[前夜祭] 6月27日(金) 醤油・麹・薩摩焼酎
まず、前夜祭では中短編のドキュメンタリー・記録映画が3作連続上映される。『再起の一滴』(2013)は岩手朝日テレビによるテレビドキュメンタリー。湯布院とも縁の深い、陸前高田の醤油醸造・販売元「八木澤商店」が、2011.3.11後の困難を克服する姿を追いかけている。『むしろ麹』(2006)は同じく醤油醸造のドキュメンタリーだが、香川で続いている独特の麹作りにスポットを当てた、伝統産業記録の要素も含む作品だ。そして『杜氏たちの春』(1978)は、薩摩焼酎作りの杜氏を追いかけた1978年のドキュメンタリー。観賞後は、夜空に浮かぶ豊後富士こと由布岳を眺めて一杯呑みたい気分にさせられる、薩摩焼酎のように力強い映画だ。
2日目 6月28日(土) チーズ・生乳・牛肉
29日は朝食から昼食時間帯まで、観客は乳製品の波状攻撃にさらされ続けることになる。1本目『オイシサをつくる ~発酵の魅力~』(1996)は、2年ぶりの上映となる松川監督作品。タイトルそのまま、おいしさをつくる発酵の魅力を捉えている。そして2本目の『特別生乳はなぜ良いのか』(1937)は、現在の(株)小岩井乳業が後に買収した、かつて小金井にあった「小児牛乳」のPR映画。西武線で小金井へと向かうところから始まり、わずかな間に幻の牛乳と牛乳会社への関心が呼び起こされる、戦前の珍品映像だ。ちなみに「なまにゅう」ではなく「なまちち」と呼ぶそうだ。3本目の『チーズ ~その魅力とロマン~』(1983)は雪印と電通映画社の手による、ヨーロッパのチーズ作りを細やかに写し取った力作。チーズを味わうためだけに欧州旅行に出たくなるような一品だ。
上映後には湯布院のチーズ職人、上浦真理さんによるゲストトークもある。そう、湯布院では手練の職人が造ったおいしいチーズも食べられる。映画とトークでお腹をしっかり空かせて、終了後は昼食にピザでもチーズケーキでもたっぷり召し上がって頂きたい。
休憩を挟み、12時40分からは昨年大好評だった、とちぎあきらさん(東京国立近代美術館フィルムセンター)による「記録映画の保存と活用を考える」を行う。昨年に引き続き、開催地の大分県にも関連した貴重な記録映像4本が流され、さらに特別上映も計画されている。トークも含め、過去の映像作品を見るだけでなくその未来も考える、意義深くかつ見逃せないセクションになるだろう。
15時からは、いよいよ「第7回・松川賞」受賞作品の上映となる。今年も全国から寄せられた多くの作品の中から、2本が同賞を受賞した。1本は飯塚俊男監督の『宮戸復興の記録』(監督:飯塚俊男)。東日本大震災で大きな被害を受けた、宮城県宮戸島の復興を、丁寧に時間をかけてカメラに収め続けた秀作だ。そして、もうひとつは『調律師とピアニスト』(監督:上田謙太郎)。ある腕利き調律師の仕事ぶりを追った、言葉なく進むドラマと調律されるピアノの響きが印象的な映画だ。
17時50分からは、昨年の公開以来、全国各地で上映が拡がっている『ある精肉店のはなし』(2013)。先日はドイツ・フランクフルトの映画祭、ニッポン・コネクションでも観客賞に輝き、ヨーロッパでもこの作品が十分に受け入れられることを証明したばかり。纐纈(はなぶさ)あや監督を迎えてのトークもある。朝から夜まで牛の乳と牛肉で引っ張れば、上映後の懇親会はきっとおいしい豊後牛が出るのでは?と期待される来場予定の方もいらっしゃるはず。その期待が現実になるかは、当日までのお楽しみ…。何せ豊後牛もお高いもので…。
3日目 6月29日(日) 牛・馬・オオカミ
いよいよ最終日。朝イチ、10時からは「野村正昭さんと観るドキュメンタリー映画」。この映画祭の立ち上げ時から、継続してこの映画祭を支えてきた映画評論家・野村正昭さんによる初の独立コーナーだ。金井勝監督の『時が乱吹く(ふぶく)』(1991)と松本俊夫監督の『母たち』(1967)の2本が上映され、野村さんのトークセッションが開かれる。このごろ映画を観ても刺激を受けない、映画にあまり興味はないけれど特殊漫画は好き、という人にもおススメできる、必見の2時間20分だ。
13時からは、岩崎雅典監督の『福島・生きものの記録』(2013)。岩崎監督が東京電力福島第一原発事故後の、福島の動物の生態変化を追いかけたシリーズの第1弾。映し出される動物たちの生々しい姿は、観る者にその未来を深く考えさせる。上映後には岩崎監督と宇宙物理学者の池内了さんとのトークが行われる。
15時30分からは『祭の馬』(2013/監督:松林要樹)。競走馬として大成できずに引退した後、福島・南相馬で余生を過ごすミラーズクエストの物語。残念なことに松林監督の来場は無くなってしまったが、作家の森まゆみさん、全国各地で活動するホースインタープリター、寄田勝彦さんによるトークセッションも開かれる。
そして大トリ、18時10分からは由井英監督の『オオカミの護符』(2008)が上映される。この作品にオオカミは出てこない。映画のように、関東では信仰対象でもあったオオカミは、既に日本から消えてしまった。一方、この九州には古来より熊信仰が存在したが、九州の熊も絶滅したと見られている(くまモンだけは元気だが)。上映後、最後の懇親会は、湯布院を囲う山々の動物たちにも思いを馳せながら、別れを惜しむ夜となることだろう。ちなみに、『祭の馬』の後だからと、馬肉が供されるかどうかは定かではない。
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第17回 ゆふいん文化・記録映画祭
日程 2014年6月27日(金)―29日(日)
会場 湯布院公民館、乙丸公民館劇場(大分県湯布盆地)
公式サイト http://movie.geocities.jp/nocyufuin/home.html
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プロフィール
大塚 大輔 おおつか・だいすけ
1980年生まれ。大分県大分市在住。福岡インディペンデント映画祭、ゆふいん文化・記録映画祭スタッフ。韓国語通訳・字幕翻訳、企画立案、作品審査などを担当。召集がかかれば、時には県外や韓国にも飛び出し、裏方からトークMCまで、雑多な形で映画祭や自主上映会のお手伝いをしている。今年からは別府市役所で、海外交流のための外国語専門スタッフとしても働いている。
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