【Interview】小川プロの映画にはじめて“映像のアジア”を見た! 石坂健治さん(東京国際映画祭アジア部門ディレクター/日本映画大学教授)インタビュー

2014年 それでも小川プロの映画はよみがえる


——2014
年の現在と小川プロを切り結ぶ視点、というのは、どのようなものが考えられますか

石坂 最近観た映画でいうと、ジョシュア・オッペンハイマーの『アクト・オブ・キリング』(現在公開中)とか、リティ・パニュの『消えた画 クメール・ルージュの真実』(7/4より公開)が話題になっているけど、これらを観ながら小川プロのことを想起していました。両者をつなぐ回路があるということです。

アジア各国にはまだ政治的なタブーがいっぱいあって、これまで語られてこなかった虐殺の記憶が語られる、という意味で両作品は共通するのですが、はじめて明かされる真実というものを映像としてどう表現するか、というところで、『アクト・オブ・キリング』の場合は演劇的な要素を入れたり、再演というか、もう一回芝居として「演じ直し」をしている。かなり露悪的だけどね。まあ好き嫌いは別にして、そこが『アクト・オブ・キリング』の新しさだと思うんですが、実は『1000年刻みの日時計』や原一男の『全身小説家』(94)で、すでにそういう表現の萌芽がうかがえます。小川紳介が最後に辿り着いた『1000年刻みの日時計』のなかで、役者と村人が一緒になって江戸時代の百姓一揆を再現するエピソードがあるけど、あれはいったいなんだったのか、というところまで行き着く。そういう見方も面白いと思います。

『消えた画』はすごいですよ。ポルポトの虐殺をあらわすのに、大量の土人形を彫って、コマ撮りみたいにして映画を進めていく。記録映像が失われていて、わざわざ土人形を使って表現しないと語れないことが、まだまだアジアにはたくさんある。アピチャッポンにもそういうところがあって、『ブンミおじさんの森』の中で、70年代の民主化運動が挫折したあとに森に逃れたアクティビストたちをブンミおじさんが虐殺した、というのがポロッとセリフで出てくる。「昔、いっぱい殺したんだよ」というのは『アクト・オブ・キリング』の主人公と同じなんですね。アビチャッポンはそのひとことで慎み深く収めるけど、『アクト・オブ・キリング』は露悪的に再演までさせて、全部出しちゃう、その違いはありますが。

『ニッポン国古屋敷村』で地形図の立体模型を作ったり、そこにドライアイスを流して山の冷気の進路を追ったりするのは、『消えた画』の手作り人形ともつながっていきますし、小川作品が2014年の今よみがえってくるとしたら、表象とか代行とか、英語で言えば「Representation」なんだけど、その問題がインドネシアやカンボジアやタイの虐殺を扱った映画を通じて出てきているときに、われわれの身近にあってまず参照すべきなのは、小川プロが80年代に到達した『ニッポン国古屋敷村』『1000年刻みの日時計 牧野村物語』にみられる技法や思想ではないでしょうか。

——−「演じ直す」ということは、映画的には、歴史を表現することと別の熱情が生まれてきますよね。

石坂 そうですね。『1000年刻みの日時計』では、牧野村の村人が自分たちの先祖を演じるわけです。大澤未来・岡本和樹共同監督による『帰郷』(05)という、ゼロ年代の牧野村を若い世代が取材した映画がありますが、村人に『1000年刻みの日時計』が撮影された当時の話を聞いていくくだりがあって、興味深かったのは、ある男性が「百姓一揆の場面の撮影が近づくにつれて、村中が熱病みたいに浮かれて怖いと思った」と言っていることでした。たぶんキャメラの前で「演じ直す」というのは、フィクションが混じる、狂気も混じる、そういうことだと思うんです。じゃあ舞台でそれを演劇として見せればいいかというと、そんな単純な話ではなくて、再演させて、それを映像に撮って映画に挿入して見せる。それはどういうことなのか。『1000年刻みの日時計』もそう。今『アクト・オブ・キリング』が出てきていることを考えると、そこは大事なテーマかもしれないですね。

『1000年刻みの日時計 牧野村物語』


 小川プロ全作品特集上映

【日時】2014年6月21日(土)~7月11日(金)
【会場】渋谷・ユーロスペース(http://www.eurospace.co.jp
【料金】当日 一般1600円 学生1200円(1000円になる割引券配布中)
    シニア・会員1000円 高校生800円 中学生500円 当日3回券 3600円   

【主催】アムール+パンドラ

各作品詳細(パンドラ内特設ページ):
http://pandorafilms.wordpress.com/tokushu/ogawapro/

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【プロフィール】

石坂 健治(いしざか・けんじ)

1960年東京生まれ。早稲田大学大学院で映画学を専攻。国際交流基金を経て、東京国際映画祭「アジアの未来」部門プログラミング・ディレクター。日本映画大学教授。専門はアジア映画史・日本ドキュメンタリー映画史・芸術行政。共著に『原一男 踏み越えるキャメラ―わが方法 アクションドキュメンタリー』(フィルムアート社)、『ドキュメンタリーの海へ─記録映画作家・土本典昭との対話』(現代書館)、『アジア映画の森―新世紀の映画地図』『アジア映画で<世界>を見る―越境する映画、グルーバルな文化』(いずれも作品社)など。

※7月5日(土)「映画鼎談 稲妻は万物の舵を取る 第3回 もうひとつの映画史」に出演します。よろしく!
詳細はhttp://2014.tiff-jp.net/news/ja/?p=25133