【Interview】その男、人間か妖怪か~36歳、独身契約社員が抱く「超・途方もない夢」―『加藤くんからのメッセージ』綿毛監督、“主演”加藤志異氏インタビュー

絵本の出版という事件

――ひとつの映画のポイントでもあると思うんですけど、加藤さんが両親の前で語って聞かせた、「とりかえちゃん」という絵本を出版するという事件が起こりますよね。あれは、映画を撮り始めた後で決まったんですか。

綿毛 そうです。撮り始めてからしばらくして出版が決まったんです。

――本の内容については、映画内でもある程度言及されていますが、改めてここで、説明していただいてもよろしいでしょうか。

加藤 「とりかえちゃん」は、ママをとりかえようという不思議な子どもが出てきて、主人公であるブータンのママをとりかえるんですね。でも、ブータンはやっぱり本当のママが恋しくなって、大声で「ママー!」って叫ぶんです。そうしたら、ブータンのママ以外でも、いろんなママが助けに来てくれるんですよ。オバケママとか、フジサンママとかね。それで、最後にはブータンのママが戻ってくるという、そういう話ですね。「叫ぶ」ことが中心になるという点では、まさに自分が現れていると言えるかもしれません(笑)。

――またそれが、「ママー!」というところが面白いですよね。

加藤 そうですね。僕はもう、本当に泣き虫だったんですよ。子どもの頃は、明日注射があると言ったら、前日から泣いているようなことがあったくらい。でもそうすると、母親がいつもにこっと笑って、慰めてくれたんですね。だから、自分の子どもの頃を思い出すと、自分にとって一番大きかったのは母親かなあと思って。この本には、そうした母への感謝も込められています。

――なるほど。そのお母さんも、いっぱいいるっていうのが面白いですよね。

加藤 やっぱり叫ぶと、いろんな人が集まってくる気持ちがするんですよ、逆に言えば、叫ぶくらいしかできなくて(笑)。頭をひねっても、面白いアイデアが出てこないんです。綿毛さんが「叫ぶしかないのか?」っていうんだけど、本当にそれぐらいで(笑)。

――でもある意味、叫び続けた結果が絵本の出版につながったわけですよね。そこに対しては、綿毛さんも感慨深かったのではないですか。

綿毛 そうですね。でも、決して加藤さんが1人でここまで作ったわけじゃなくて、編集者の方とか周りの人のアドバイスによって初めてできたんですね。だから、加藤さんが1つの作品を作り上げたとは私は思わないんですけど…(笑)。

加藤 いや、本当にその通りなんですよ。だから、改めてわかったことが、僕は本当にダメなやつで、1人では何もできないのだと。妖怪を目指すまでは、漫画家になることが夢だったんですけど、その漫画に関しても、1人でやると修正液があっちこっちに飛んだり、線が曲がったり、失敗ばかりしていました。でも、人と協力したら、何かができるかもと思ったんですよね。綿毛さんもそうなんですけど、まわりの人がいたおかげで、自分という存在は少しずつ広がっていったんじゃないかと思います。

「とりかえちゃん」

映画祭で指摘された、監督と被写体の関係性

――『加藤くんからのメッセージ』はイメージフォーラム・フェスティバルで観客賞を受賞していますが、映画祭に出すということは、目標としてあったんですか。

綿毛 それは全然なかったんですけど、90分の動画ができて、これをどうにかしたいなと思って。それで、映画祭にでも申し込もうかなと思ったら、1週間以内に締め切りのところがイメージフォーラム・フェスティバルで、最初に応募したんですね。そうしたら、なんとノミネートされたと。それからコンスタントに、いろんな映画祭で評価してもらえるようになって。

――なるほど。映画祭での評価はいかがでしたか。

綿毛 「座・高円寺ドキュメンタリーフェスティバル」の時は行けなかったんですけど、でも後で聞いた意見としては、私と加藤さんが恋仲にならないのが、なんか物足りないと。こういう内容だったら定石として、監督と被写体が付き合うのだと言われて…。

――言った人いるんですか、そんなこと()

綿毛 はい。ドキュメンタリーって定石なんてあるのかと思ったし、びっくりしました(笑)。でも、私はあくまで加藤さんを客観的に撮ろうと思ったので、そういうことはあり得ないとは思ったんですけど。

――綿毛さんとしては徹頭徹尾、監督としてのスタンスを貫いたんですね。加藤さんは綿毛さんに対して、恋心を抱いたことはなかったんですか。

加藤 以前は少しありましたが、今はないですね(笑)。やっぱりなんか、遠い距離があるんですよね。友達としては本当に、親友という感じなんですけれども。

綿毛 
私もすでに結婚していたので、恋愛という形にはならなかったですね。あくまで友達として。YouTubeで公開したときは、女の子が撮っているじゃないか、彼女なんだろうと、そういう冷やかしはありましたけど(笑)。

ただ養老天命反転地に行ったとき、翌日にご両親に会うことにして、加藤さんのおばあちゃんの家に泊まらせて頂きました。同じ部屋にお布団を並べられて、加藤さんと並んで寝ていました。で、熟睡していたら、加藤さんが突然、私に抱きついてきたんですね (笑)。

加藤 いやいや、抱きついてないから!本当に綿毛さんにも言ったけど、寝ていて寝相が悪くて、綿毛さんの方に行っちゃっただけ。そんな気はかけらもなかったからね(笑)!

▼Page4  人間としての「加藤くん」が感じられる に続く