【Interview】 今を考えるための映画監督・佐藤真——「日常と不在を見つめて ドキュメンタリー映画作家 佐藤真の哲学」編集者・清田麻衣子さん

佐藤真の視線を通じて問われる“日本のいま” 

——お話を聞いていると、清田さんにとって佐藤真監督との出会いは、9000年代を生きる上で一縷の希望のようにも思えたのですが、2016年の今、その仕事を本にまとめられた事の意味を、あらためて最後に聞かせていただきますか。

清田 私たちが多感な時期を過ごした90年代後半から2000年代というのは、何だかよく分からない時代でした。バブル後のロスジェネ世代とか言われていますけど、つかみ所がなく、もやもやして鬱屈したものだけが堆積するなかで、震災や原発事故で、平和の残滓がリセットされた。そこでは戦後の価値観がもう通用しなくなっているんだけれども、その流れで日々を過ごしてきたことをどう捉えるかが、佐藤さんにいま問われていると思うのです。

象徴的なのが、本書に収められた、佐藤さんが撮られた写真の存在です。佐藤さんがある種期待を持たれて取り組まれた未完の仕事は『トウキョウ』なのですよ。構成をお願いした飯沢耕太郎(写真評論家)さんが「バブル崩壊以降の東京に、癌細胞のように不気味に増殖していく非寛容的で閉塞的な空間の様相が、的確に、批評的な距離感を保って定着されている」と評されていて、そのひとことに凝縮されています。

あの時代って、今を考える上でのヒントが詰まっていて、佐藤さんが撮った日本や東京にそれが現れているはずだと思います。昨今のメディアに対する圧力なども、佐藤さんが生きていた時代には思いもよりませんでしたが、今や画一的な空気が蔓延して、それが当り前になってきている。その萌芽が見えるんですね。佐藤さんが『トウキョウ』をやりたかったのは、おそらくそういう日本の変容にいち早く気づいていたからだと思うんです。

——この本の帯にも「震災前の[見えない世界]と格闘した映画作家と書かれていますよね。

清田 「その闇は、私の、この、日常の・ただ中にある」と書かれていますが、闇と言うといろいろ想像しちゃうと思うんですけど、ひとことでいうと、いま顕在化してきている問題が佐藤さんの映画や文章から見えていて、その意味でも佐藤真という作家は重要なのではないかと思います。

本著に収められた、佐藤真撮影『1990‘s トウキョウ・スケッチ』より(構成:飯沢耕太郎)

【書誌情報】

『日常と不在を見つめてードキュメンタリー映画作家・佐藤真の哲学』

四六版 並製本 カバー帯あり
372頁(カラー別丁4頁+16頁含)
本体価格3,500円+税
ISBN 978-4-907497-03-3

 

※単行本刊行記念特集上映 「佐藤真の不在を見つめて」開催中!
3/24-26 東京・アテネフランセ文化センター 
5月には京都・立誠シネマでも開催します

佐藤真 プロフィール
1957年青森県生まれ。東京大学文学部哲学科卒業。大学在学中より水俣病被害者の支援活動に関わる。1981年、『無辜なる海』(監督:香取直孝)助監督として参加。1989年から新潟県阿賀野川流域の民家に住みこみながら撮影を始め、1992年、『阿賀に生きる』を完成。ニヨン国際ドキュメンタリー映画祭銀賞など、国内外で高い評価を受ける。以降、映画監督として数々の作品を発表。他に映画やテレビ作品の編集・構成、映画論の執筆など多方面に活躍。京都造形芸術大学教授、映画美学校主任講師として後進の指導にも尽力。2007年9月4日逝去。享年49。

 


【編集者プロフィール】

清田麻衣子(きよた・まいこ)
1977年福岡県生まれ。里山社代表/編集・ライター。出版社勤務を経て、2012年10月、出版社「里山社」設立。2013年11月、田代一倫写真集『はまゆりの頃に 三陸、福島 2011〜2013年』、2014年7月『井田真木子著作撰集』、2015年3月『井田真木子著作撰集 第2集』を発売。本著が4冊目。フリーランスの編集者として「文藝別冊 田原総一朗」なども手がける。

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