【連載】「ワカキコースケのDIG!聴くメンタリー」第31回『1975 4.13.』キャロル


解散するのに(するから)こんな活きのいい演奏

「最後だから乗ろうな、オーケー?」と永ちゃんはお客に向かって言っている。でも、ホントにこれが解散ライブだろうか?
バカっぽい言い方しかできないが、4人のプレイは、最高だ。永ちゃんのベースとユウのドラムはグイノリで、ウッちゃんのギターはバリバリ。スライドを弾きまくる「エニタイム・ウーマン」なんて、頑固に日本のロックを嫌う古手の洋楽ファンにも聴いてみてもらいたい。
こんなに覇気のある、4人揃っていっせーのせ、みたいな全力疾走のステージができてるのに……と、どうしても。演奏と会場の空気、どっちもしっかり拾うマルチトラック録音のバランスが、僕にとっては理想的なのもある。

しかし、解散に至る事情もよくは知られている。『矢沢永吉激論集 成りあがり』(1978・小学館)を久しぶりに開くと、ストイックな永ちゃんと他の3人との間に次第に、しかし急速に隙間風が吹いていたことは、つまびらかに語られていた。(しかし思い入れは無かったはずなのに、『成りあがり』もちゃんと読んでいたんだ自分)

当初は楽しかった。4人でよくディスカッションもした。だんだん、自分はメンバーとメシ食う時間があったらスタッフやレコード会社の人間と会うようになった。4人じゃなくて「厳しいオトーサン対3人」になっていった。

ここらへん、初めて読んだ時よりも生々しくてチクチク来る。バンドに限らず、映画や演劇のように仕事だけど仲間としての息が大事な活動をしている人は、誰でも覚えがあるところじゃないでしょうか。
フリーランスの僕の場合だと、打ち合わせや収録の後、誰とお茶/酒を飲みに行くか、行かないか、行かなくなるか、は露骨にハッキリしてくるもの。

大人になってからの付き合いならいいんだけどさ。当時のキャロルは、20代前半だもんね(一番年上の永ちゃんで25歳)。俺が次の仕事を考えて動いてる時に、3人は俺抜きで飲みに行ってる……これは響くだろう。バンドの中にあるズレは、見えないからこそ余計に痛いだろう。
こうなってしまうのが辛いから、最初から誰とも等しく距離を置く人の気持ち、前よりよく分かる。

この日比谷野音も、解散が決まったからにはすぐにでも身軽になりたい3人を、「解散ツアーまでやるのがファンに対するスジだ」と永ちゃんが説得しての実現らしい。
「いまのうちに、キャロルで可能なかぎり高くまで引っ張っていかないと、次にオレがスタートする時に、えらい困難になると思ったから」と、ソロ活動も見据えた判断だったのがこの人らしい冷徹さなのだが、その強いリーダーシップに3人が腹を決めて付き合うと、解散するけどこれが俺達のピーク、と言い切れる音が出せる。そして、そんな緊張感のある関係ゆえに3年しか持たなかった、とも言えてしまう。


「ゲスト紹介」起こし(1)

以上の、音楽的な聴きどころがたくさんってポイントを踏まえたうえで、聴くメンタリーとして面白い部分の話に入る。
C面のトラック3「ゲスト紹介」。以下は全部の書き起こし。

(感傷的なバラードのC2「夏の終り」がおわって)

矢沢「みなさん、紹介します。あの、今日ほんとキャロルの、あのう、ラストのショーということで、えー僕らのいろんな友達があのう、駆け付けてくれましたので」

 人をステージに呼び込む、少しの間。この間も客席からの歓声は断続的に。

矢沢「オーケー。……ちょっとなんか、いっぱい出てきた、出てきたので順番に紹介していきます。ヨロシク。……こっちから行こうかな、ちょっと待って。頼むよオトーサン。……あの今日、今日この日比谷のステージで最初にやってくれました、ハニーズってグループの連中です。あのう彼らと知り合ったのはね、みなさんご存知だと思いますけど、1月19日、日大講堂で演ったグループですけどね。このう、ほんとに、日本のロックンロールということでがんばってくれる、期待できるグループです。どうぞヨロシク」

 拍手。

矢沢「それでね、こちらに来まして、もう言うまでもなく、あのう有名な、実はガロのボーカルです。えー、彼はですね、もう、かなり昔からキャロルを、あのう最初にデビューした時にですね、もうみなさん知ってると思いますけど、ミッキー・カーティスさん、ともと一緒にですね、キャロルを見に来たひとりです。もうその時からずっと僕らキャロルとは付き合ってる、もう唯一の友達、ガロのボーカルです。どうぞヨロシク」
ボーカル「解散というのはすごく残念です。すごくさびしいです。でも、これからもがんばってほしい」
矢沢「なんか聞こえなかったんで、もうちょっと大きな声で」
ボーカル「これからもがんばってほしい。解散するのはすごく残念……(聞き取れず)これからもさらに(聞き取れず)……」
矢沢「どうもありがとう。えー、こちらはですね、フフフ、(聞き取れず)あのねえ、なぎらけんいちと言いまして。えー、もうみなさん知ってますね。フォークの、フォーク界の唯一の友達のなぎらけんいちです。後はもう言うまでもないと思いますので、ヨロシク。なんか一言」
なぎら「おめでとう。あのね、これをね、あのう。キャロルの真似。これを一度勉強したいと思う」

 やや、戸惑った(すべりかけた)ざわつき。

なぎら「あのう、あのね、あのう、キャロルっつうのはね、それはね。腰を引く。それで、この瞬間、手をもう後ろに持っていく。……失敬」
矢沢「おわかりですか」
なぎら「ハッハー。これがキャロルです」
矢沢(聞き取れず)本当にどうもありがとう。拍手、おねがいします」

 拍手。

矢沢「こちらは僕の……あ、これはもうメンバーですね」

 歓声。

矢沢「あの、もうみなさん知ってますね。あのねえ、キャロルとどういうつながりなのかなってみんな不思議がってると思うんですけどもね……おい、チャック、なんかチャックあいてるぞほら。バンバン、チャック開いてるじゃん」

 笑い。「なんばしよっとー」とヤジ。

矢沢「今日はほんとにあのう、(武田)鉄矢くんです。ほんとに駆けつけてくれまして。後は彼に一言言ってもらいたいと思います」
武田(政治家の講演風に)えー、ワタクシはあ……」

 ドッとこない。すぐ切り替えて、

武田「この体形ながら、今日はキャロル・ルック、カロル・ルックで来たわけでありますが、ぜんぜん似合わないねという結論に達しましたので、ひたすら今日はキャロルということで。どうも、おめでとうございます」

 拍手。

▼Page3「ゲスト紹介」起こし(2)に続く