【連載】「ワカキコースケのDIG!聴くメンタリー」第31回『1975 4.13.』キャロル

「ゲスト紹介」起こし(2)

矢沢「どうもありがとう。……ええと、あ、ロックンロールの親分は? ちょっと、ちょっとみんな拍手で迎えて、お願いします」

 拍手。

矢沢「あのね、もう、知ってるね。ゴールデン・カップスの」

 デイヴ平尾。「ボーカルだよ」という男の子の声、「誰、だれ?」と聞く女の子の声がマイクに。

矢沢「今はなんつうのかな、今でこそこうやって話が、口がきけるんだけどね。昔は逆に、僕達キャロルが横浜でちんぴらやってる頃に、すごく尊敬したグループです。今日はそういうわけで、なにしろほんとに、ほんとにどうもありがとう、来てくれて」
平尾「えー、ほんとにあのう、今日は雨のなかを。僕は一応、アニキみたいな恰好でいますけど、えー、キャロルのためにわざわざありがとうございました。あのう、これからも一本立ちするそうですから、彼らをよろしくお願いします。どうも。センキュー」

 拍手と歓声。


矢沢「ああ、ほいでね、キャロルのすごい親友をちょっと。音楽は関係ないんですけども、すごく親友、紹介します。ヒロシちゃん……あのねえ、クールズっていうグループなんだけどね、グループで、バンドでもなんでもないんだけど、いかしたグループね。あそこに俺の友達がなんかいるみたいだけど、顔がよく(聞き取れず)……ほいで、クールズのみなさんであのう、ヒロシちゃんとコーちゃん。よろしくお願いします。どうもほんとに、ありがとう」

 拍手。

矢沢「ほいでね、まあ、えー、紹介したいと思うんですけどね。最後に、やっぱり、なんといっても忘れてはいけない親分をひとり、紹介します。今日はあのう、忙しいなかをね、駆けつけてくれました。えー、ロックンロール、内田裕也」

 ひときわ大きな歓声。

内田「よお、乗ってるか!」

 歓声。

内田「俺と矢沢もいろいろあったけど、えー、今日は最後だということで非常に、残念だと思う。……これでロックンロールが終わったわけじゃねえからな。4人のメンバーに温かい拍手を送ってくれ!」

 大きな拍手。

内田「それでは、(聞き取れず)もともとこの曲があってキャロルも生まれたと思います。みんな一緒に歌ってくれよ、いいか?」

 歓声。

内田「レディース&ジェントルマン、スウィートハート(聞き取れず)ジョニー・B・グッド、メン!」
矢沢「ウェイ、ワンツースリー、フォー!」

 (C3「ジョニー・B・グッド」が始まる)

起こしている間、しあわせだった。かなり精緻な戯曲を模写したような気分になった。

約6分30秒の間に詰め込まれている情報量が凄い。
まず、音楽界注目のバンドの解散ライブに顔を出した人達の思惑。
矢沢はどう考えても今後も何かやる奴だ、そんな男の節目の日に立ち会っておきたいと考える嗅覚。
実際に仲が良かったから来ただろう人と、計算が働いて来た人との、読めるようで読めないグラデーション。
そして、人気のピークを過ぎた人と、これから出てくる人が交差する綾。
遠慮、虚勢、衒い。男のいろんな感情が煮込まれている。

前座~ガロのメンバー~なぎらけんいち~海援隊の武田鉄矢

ハニーズ。ガロのボーカル。なぎらけんいち(現・なぎら健壱)。武田鉄矢。デイヴ平尾。(永ちゃんはクールズと発音しているが)クールスのヒロシちゃんとコーちゃん。内田裕也。
1組ずつ、順に確認しよう。

ハニーズは……あいにく、どんなバンドか分からない。メジャーデビューには至らなかったみたい。ともかく当日、前座は何組か出ていてそのうちの1組。
前座陣にはバッド・ボーイズがいて、同じ場に立っていた。74年には東芝EMIからアルバムを出したザ・ビートルズのコピーバンド。僕は未確認なのだが、本盤にはバッド・ボーイズのメンバーの挨拶まで収録された、「ゲスト紹介」が少し長いプレスが実在するそうだ。
ちなみにこのバンドのベーシストは、後にオフコースに参加して全国区の人気を得ることになる。清水仁。

ガロのボーカル。大野真澄のこと。「ボーカル」とはニックネームなので(他のメンバーもマーク、トニーと名乗っていた)、決して永ちゃんが名前を忘れていたわけではない。
72年に「学生街の喫茶店」を大ヒットさせた、あのガロのメンバーなのに、客席はそんなに湧かず、本人も遠慮がち。なんというか、スターになりきれなかった才人独特の押しの弱さ。ちょっとキュンとしてしまう。

『矢沢永吉激論集 成りあがり』に登場する大野は、この印象通りの気のいい人だ。キャロルのデビュー前の音源を聴いて気に入ったのをすぐ伝え、前宣伝のライブの司会を買って出てくれたという。永ちゃんの彼に対する感謝はマジなのだ。だから「(デビュー前からの)唯一の友達」と強調している。
ただ、強調には善し悪しがある。スポットライトが当たった後に近づいてきた奴らとは違う、とあんまり言外に匂わせば、そうでないほうの居心地が悪い。永ちゃん、そこはハラハラさせる。

続いて、なぎらけんいちと武田鉄矢。フォーク勢2人。
音楽の畑が違うので仕方ないのだが、まさにキャロルにスポットライトが当たった後のつながりなので、どちらも何ともぎこちない。
だが、明らかにウケがよくないのに「キャロルの真似」芸を通してしまうなぎらさんのメンタルと、尊大ぶるポーズがシャレで通じない、その空気を察した瞬間にかしこまる武田鉄矢のスピードに、サバイバーの強さを見る。僕はこの2人が好きだ。

にしても2人とも、意外なゲストなのに変わりない。リサーチしてみたが、なかなかその場にいた理由は見つからない。
そういえば去年(2018年6月22日)、THE ALFEEの坂崎幸之助さんがパーソナリティのNACK5『K‘s TRANSMISSION』が、このアルバムを特集すると知っていそいそと聞いたのだが、やはり分からず。音楽界随一のフォーク通である坂崎さんですら、「どうしてなぎらさんや鉄矢さんがこの場にいたんだろうね」と不思議がっていたっけ。

ただ、昔のコンサートは事務所単位の開催が多く、ロックとフォークの同居が多かった事実を考えれば、それほど難しい謎でもないようだ。
同じ番組で坂崎さんは「キャロルとチューリップを同じステージで見たことがある」と話していたし、なぎら健壱の『日本フォーク私的大全』(1999・ちくま文庫)にも、デビュー間もないキャロルとコンサートの楽屋で会った逸話が出てくる。

▼Page4 ロックとフォークでは客層が分かれる時代のはじまり に続く