【Interview】「映画を作る」より「広河さんという人間を表現する」のほうが先なんです~『広河隆一 人間の戦場』長谷川三郎監督インタビュー

僕の場合はだが、neoneoで映画の記事を作る時に「若い人にぜひ見てほしい」はNGワードと決めている。どうしてかというと、負担になるからだ。政治、社会、歴史、戦争の傷跡、エトセトラ。どれもが「若い世代こそ必見」と求めている。いちいちマジメに受け止めていたら、ユースみんな死ぬぞ、と思っている。おじさんおばさんの中には自分の拘ってきた分野を認めてもらい、安心したい一心で言っている場合があるし。大体、ホネのある子は放っておいても自分からマイテーマを探すし。

ところが『広河隆一 人間の戦場』は見た後、若い人が見るといいだろうな、と素直に頭に浮かんだ。
僕の学生時代はノンフィクションの出版がまだまだ元気だった。自然とそれを思い出させる映画だったのだ。
近藤紘一を読んだからベトナム通になる。本田靖春を読んだから戦後の事件史マニアになる。そんな狭いことではなくって、ノンフィクションには自分と社会との接点を探るヒントが沢山ありそうだからよく読んだ、という節がある。『広河隆一 人間の戦場』の肌触りは、その感覚に近い。

別に映画を見た若い人みんながみんな、広河隆一のようにカメラマン/ジャーナリスト志望になり、パレスチナやチェルノブイリ、福島、沖縄で起きていることに(最低限の認識は持ったほうがいいが)真摯に取り組む必要はない。でも、そうか、広河さんのような生き方もあるわけかと、マイテーマ見つけのいい参考にしてもらえる感じ。

監督の長谷川三郎さんとは、本サイトで『ニッポンの嘘 報道写真家 福島菊次郎90
歳』(12)のインタビューをして以来のごあいさつだった。ずいぶん頭が白くなったので、そんなに本作に苦しんだのか?……と驚いたのだが、「実はもともと若白髪で、染めていたんですよ。最近はもういいかなと」とのことです。
(取材・構成=若木康輔/構成協力=リンリンコリンズ凛凛)


『広河隆一 人間の戦場』より ©2015 aureo

広河さんは福島菊次郎さんとは対照的でした


 劇場映画第2作目になる『広河隆一 人間の戦場』も、主人公はカメラマン。しかし
『ニッポンの嘘 報道写真家 福島菊次郎90歳』とは、微妙に感触が違いました。今日はそこを中心にお聞きします。

その前に感想を。自分には珍しく、若い人が見るといいな、と思った映画です。そこをよく考えると、
結局、広河隆一さんを通して、見る人に跳ね返って来る作りになっているからでしょうね。
パレスチナやチェルノブイリへの取材にしても救援活動にしても、広河隆一という人間が自分の人生を生きてきたなかで、そのこだわりで続けているのだと映画は押さえています。
つまりそれは、映画を見て何か啓発されるものがあるとしたら、それは自分の目の前にあること、心に引っ掛かりがあることに対して頑張ってみなさいよ、と言われたのと同じ意味になりますよね。出し方はさりげないけど、そこがこの映画のヘソではないかな。

長谷川
 
そう言って頂けるとすごく嬉しいです。実は、若い人に見てもらいたいと思いながら作る気持ちは『ニッポンの嘘 報道写真家 福島菊次郎90歳』の時以上だったんですよね。
『ニッポンの嘘 報道写真家 福島菊次郎90歳』では、福島菊次郎さんと同じ時代を生き抜いてきた人たちを意識していました。それに、どうやって個人が時代と戦うのか、という点では菊次郎さんの人生を全ての日本人に届けたいとも思っていました。

『広河隆一 人間の戦場』ではそこに少し違いがあります。そもそも、なぜ広河さんを取材することにしたかにも幾つか理由があります。たくさん話すことになるので、よろしくお願いします。

 
『ニッポンの嘘 報道写真家 福島菊次郎90歳』は、菊次郎さんがDAYSフォトジャーナリスト学校で、若者たちの講師をつとめる場面から始まりましたね。当時、広河さんが編集長をつとめていた月刊誌「DAYS JAPAN」の出版社が主催する講座。

長谷川
 はい。
広河さんとは『ニッポンの嘘 報道写真家 福島菊次郎90歳』の撮影で初めて知り合いました。第一印象は……。広河さんをよく知る人々は皆おっしゃることだけど、あまり多くを語る方ではないので。

 映画を見ているだけでも、とっつきにくい印象を受けますが、実際そうなのですか。

長谷川
 寡黙で独特のオーラがあり、軽々と声をかけられないというのが正直な印象です。物静かだし、常に何か深く考えていらっしゃるようですし、簡単に近づけるような方ではなかったですね。

でも、DAYSフォトジャーナリスト学校を取材した時の広河さんの姿はとても印象的でした。講座では菊次郎さんが生徒たちに挑発的な言葉をぶつけ、生徒たちは驚き、でもやりとりしていくうちにだんだん空気が柔らかくなって、ディスカッションが活発になっていきました。
そうしてすごく場の雰囲気が高まった、まさにその時に広河さんがスッと立ち上がって、菊次郎さんと生徒たちに向けて静かにシャッターを切ったんですよ。1枚だけ。そして、またスッと座って、ニコニコしながらディスカッションを聞いているんです。

その時の佇まいというか、本当に場の空気に馴染んでいて、なんか風が吹いたみたいな。
僕もドキュメンタリーを撮っている人間ですから、どうやって被写体と向き合うのか、どういう距離感で向き合うのかを日々意識しています。だからそのカメラの撮り方には、只者じゃないなと少なからぬショックを受けました。

撮り方に、その人の個性は出ると思うんですよね。福島菊次郎さんは、権力に肉薄して真正面から挑みかかる。被爆者の苦悩を真正面から、至近距離で受け止める。その激しさこそが菊次郎さんだとしたら、広河さんは、被写体の存在を包み込むように、優しくシャッターを切る。その距離感は全く違うな、何なんだろうと。


 それが、広河さんを取材したいと考える動因に?

長谷川
 いえ、
『ニッポンの嘘 報道写真家 福島菊次郎90歳』の公開の時はずいぶん応援して頂いたのですが、広河さんとの接点はそれっきりになっていました。
実は『広河隆一 人間の戦場』は、かねてから広河さんの救援活動を支援されている守屋祐生子さんから頂いた企画です。本作のプロデューサーである橋本佳子は古くから広河さんと交流があり、そのご縁もあって「広河さんの人生を残してほしい。映画にしてほしい」と打診を頂いたんです。
その時に思い出したのが、静かに立ち上がって、優しくシャッターを切った広河さんの姿なんですよね。それで、フォトジャーナリスト・広河隆一を、自分なりにしっかり見つめてみたいと。

それに、お話を受けたいと思ったもうひとつの理由に、前作の〈ニッポンの嘘〉に続いて、世界の様々な問題に目を向けることができるということがありました。
実は僕は、海外のロケの経験があまり無かったんです(笑)。

 それはお仕事柄、意外です。だってドキュメンタリージャパンに入ったのは1996年で、それから何本もドキュメンタリー番組を演出されてきたでしょう。

長谷川
 こんな仕事をしていてナンですけど、僕自身、すごくドメスティックな人間なんですよ。世界に目を向けるよりまず、日本のこと、自分の足元を見たいと考える。それで釜ヶ崎の日雇い労働者の街に入ったり、コメ作りを追ったり……とやってきた人間なので、恥ずかしながら今の世界の様々な問題に、取材者として積極的に向き合う機会を持たずにきました。
なので、お話を受けた時、広河さんを通して、今度は〈世界の嘘〉を暴けるんじゃないか、という思いはありました。広河さんが現在も世界の最前線に行き、様々な問題を取材されていることは存じ上げていたので、広河さんの取材に同行させて頂ければ、そういった世界の現実に向き合うことが出来るんじゃないかと。

結果としては、それだけにとどまらず、もっと大きな問いを投げかけられました。広河さんを取材するうちに、表現者として人に伝えること、そして人間としての生き方を深く考えさせられました。いい意味で裏切られましたね。

▼page2  広河さんが見てきた現場(世界)を、僕らも見たかった に続く