【Interview】ドキュメンタリー・フォトグラファーの肖像 #01 友となり、隣人となり、暮らしのなかでシャッターを切る――藤元敬二さん

『Instant Gamble』より © Keiji Fujimoto.

|友となり、隣人となること――『Instant Gamble』(タイ)

――次に行かれたのがタイですか?

藤元 2012年の暮れですかね。実は当初は他に撮影予定のものがあり、ムエタイにはぜんぜん興味がなかったんですよ。格闘技自体もあまりまじめに見たことがなかったし。そんな中、バンコクで知り合ったムエタイを専門で撮られている写真家の方に、「一回くらい見てみれば」と勧められました。行ってみたらその雰囲気にびっくりして。大都会暮らしの中で、夢や生き甲斐を見失った人々の感情の吹きだまりのような感覚を覚えました。

――藤元さんの写真には一貫した、とても冷静な距離がありますね。

藤元 同性愛者として育ったぼくは、生まれつき孤独と背中合わせで生きていました。世の中では性別が 不安定なことで差別はされるのに、起業が開発を理由に成す自然破壊に対してのお咎めはない。常々、一般社会で認識されているルールとは、権力者や多数派の都合のいいようにできているものが多いと感じていました。そういう日々の葛藤が、一歩引いて物事を観察するクセを付けたのかもしれません。

――このタイのシリーズでも、ネパールの人身売買のシリーズでも、紙幣が生なましく写されています。そこにさっきいったような冷静さ、冷徹さをとくに感じます。

藤元 現代社会には泣いても喚いてもどうにもならない人生がたくさんあります。お金や権力で社会は動き、社会が動けば人の感情もつられます。その様な動きの中で常識が構築されると、常識外を非常識としてしか捉えなくなる風潮ができあがります。ネパールの山奥、バンコク、東京など、土地柄に関係なく、世界中どこでも似た様なことがみられると思います。

 

『Instant Gamble』より © Keiji Fujimoto.

 

――この写真(上)はとても親密な空間で撮られていますね。この選手とは親交を深められたのでしょうか。

藤元 トレーニングや試合にお邪魔しているうちに仲良くなり、実家に遊びにも行きました。バンコクの北へ車で8時間ほど行ったところなんですけど。彼は結婚して子どももいます。今年ムエタイを辞めて軍隊に入りました。ムエタイのことは好きなのですが、あくまでも仕事として捉えている部分があって、勝ち負けに収入が左右される選手として暮らしていくよりは、安定した収入の入る軍隊として生活することは悪くないと言っていました。それは決して間違ったことではないのだけれど、夢の全てが生活の継続に注がれていく過程に立ち会い、少し寂しいなと感じたことを覚えています。だからオレも、選手側に一方的に感情移入をしている訳ではないのだと思います。観客である中年男性達の姿にも注目をしたことにはそんな理由もあったと思います。

――藤元さんの写真は、「きな臭い」ところへ行きながら、けれどもショッキングな写真では決してなく、 人びとの生活感のなかで撮られていますね。

藤元 ニュース性だけが優先される分かりやすい写真ではなく、何気ない生活の中にこそドラマがあるのではないかと思っています。それを切り取る為に、友となり、隣人となり、彼らの生活に入り込むことに尽力しています。

――一貫してモノクロで撮られています。

藤元 もちろんカラーでも素晴らしい作品はたくさんありますし、今後そういった作品も発表していきたいなと考えてはいるのですが、人の感情を切り取る時、光と影に焦点をあてるモノクロ写真の方が集中しやすいと感じています。

――今後はどういったプロジェクトを?

藤元 ケニアのナイロビで暮らすセクシャルマイノリティー達の日常を撮影したいと思っています。やはりセクシャルマイノリティーの気持ちが一番分かるのは、その当事者でもある僕の様な人間なので。今までのプロジェクトでは、自分の核心から遠い部分にある影を追うことで、自分の中に渦巻いている影を間接的に表現していた気がするのですが、去年30歳という年齢を超え、もっと直接的に自分の核心に渦巻く 影を反映できるシリーズを撮りたいと感じる様になりました。同じ土俵の上に立ち、彼らと、そして自分自身と向き合うことで、美しい瞬間を切り取ることができたらと考えています。(了)

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小特集「Unknown Marker:知られざるクリス・マルケルの世界」

巻頭写真構成:藤元敬二 『Instant Gamble』 
特別対談:佐々木俊尚+渡邉大輔
連載:春田実・土居伸彰・金子遊

A4変型版96ページ 953円+税
ISBN 978-4-906960-02-6
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|プロフィール

藤元敬二 Keiji Fujimoto 
1983年生まれ。広島県出身。米国州立モンタナ大学卒業後、ネパール、中国、北朝鮮、タイなどでドキュメンタリー撮影を決行、国内外の媒体へと発表をしている。現在はナイロビをベースとし、アフリカの都市部 に暮らすセクシャルマイノリティー達の日常を追っている。主な賞歴にゴードンパークス国際写真コンテスト・グランプリ、上野彦馬賞・グランプリなど。
http:www.keijifujimoto.net

萩野亮 Ryo Hagino
1982年生まれ。映画批評。本誌編集委員。編著に『ソーシャル・ドキュメンタリー』(フィルムアート社)、共著に『土瀝青――場所が揺らす映画』(トポフィル、近刊)など。