【Interview】「僕らの根っこはシュルレアリスムとアヴァンギャルド」〜『断食芸人』足立正生(監督)&山崎裕(撮影)text 小林蓮実


芝居している内容が信じられるものとして

観る者に見えるかどうか

——山崎さんには、撮影について、どのようにリクエストされたのですか?

足立 僕は、45年前の『略称・連続射殺魔』の風景論の延長戦とも考えていた。『略称・連続射殺魔』では、山崎は撮影監督で、彼の後輩がカメラだった。永山の見た目でなく、「いたであろう空間」を撮る。今回、僕は、世界的にも有名なカメラマンである山崎に、「情緒的な映像はいらん」と伝えた。「通常、ここは顔のアップの切り替え」といわれても、「これは『紙芝居』なんだから、絶対に使わない。でも、撮りたきゃ撮れ」といって。スタッフは僕らが映画論・映像論を闘わせているのがおもしろかったらしく、僕自身は互いに正面から受けて立っていたのが楽しかった。でも、山崎は結局、「反造形的・反情緒的といっても、反造形という造形が映像には必要となるんだ」と考えていたんだね。

——山崎さん独特の、すべてのカットが美しいが、こわさもある、カメラの視線を意識させられる映像にも魅入りました。

足立 主人公の不思議さとせつなさを表現するよね。

山崎 俺はドキュメンタリー出身で、ドキュメンタリーはカメラマンの視線そのものでしかない。是枝もTVドキュメンタリー出身なので、ともに手がけた時代劇『花よりもなほ』の出演者はラッシュを観て、「江戸時代の長屋にTV局が取材に来たみたいだ」と口にした。すべて三脚で撮影しても、俺たちが手がければドキュメンタリーだった。小津安二郎のように会話の真ん中でカットバックを入れることはできず、常に外側から撮っている。『ワンダフルライフ』でも、子どもたちがアンケートに、「この映画は誰かが見ているようだ」と書いていた。俺は、構図よりも撮る対象との関係で動いていて、対象との距離感を大切にしている。

足立 それがえもいわれぬ情緒をかもし出す。

山崎 俺は情緒でなく、人間の「存在感」を撮っているんだ。

足立 僕は、それを「ドライ」にしたかった。映画は「電気紙芝居」といわれ、つまらない映画に対する悪口としてしか「紙芝居」という言葉は使われないが、山崎にも「紙芝居でやるんだ」と伝えた。それを実現するには、ベタで、引いて撮ればいいというわけではないから、本当に大変だったとおもう。

山崎 今回のオーダーは難しかった。表現方法について考えなければならないし、照明含め準備が必要だし。「紙芝居」の実現は、スタジオでロケセットを用いるなら比較的、簡単かもしれない。でも、それでは、あっちゃんのおもう「紙芝居」にならない。そこで、「紙芝居」としての様式・形式やスタイルについて考えた。歌舞伎の様式や松竹新喜劇の舞台の書き割りにはルールがあり、「紙芝居」の世界に近い。本物と作り物がミックスされているときに、「紙芝居」として認識させるためには、卓越した技術が必要となる。俺は、劇映画もドキュメンタリー同様、「事実を撮る」という感覚で捉えている。とにかく、フィクションでもナンセンスでも、三文芝居だろうがドタバタだろうがフィクションだろうが、「芝居している内容が信じられるものとして見えているかどうか」。それが、撮影の担う役割のすべてだと考えているんだ。

足立 ドキュメンタリーもドラマもちがいはないからな。先日のオランダの第45回ロッテルダム国際映画祭では特集が組まれ、『椀』『銀河系』『略称・連続射殺魔』のほか、『性遊戯』『女学生ゲリラ』(いずれも69年)、『赤軍PFLP・世界戦争宣言』(71年)の6作品が上映された。会場には、(パスポートの発行されない)僕のかわりに、山崎に行ってもらった。国内の上映でも、大阪では過去の作品と、僕がかかわった若松孝二と大島渚の作品を合わせ20本程度が上映される予定だ。

『断食芸人』より ©2015「断食芸人」製作委員会


足立「次回作は葛藤する主人公をズドーンと描くエンタメ!」
山崎「今後も続々公開予定。チャンスあればまた監督も……」

——最後に、お2人の今後のご予定を、可能な範囲でお聞かせいただけますでしょうか?

足立 僕は「長期海外出張」前から、「こういう映画が作りたい」といい合っていたものがポケットいっぱいにありすぎるんだけど、1つひとつやるほど若くない。でも、次回作は、『断食芸人』とはまったく異なる、普通の主人公が葛藤して闘う内面をズドーンと描く、まさにエンタメを作ろうとおもって、準備している。ハイスピードで追っかけ続けるような、熱い映画を撮る(笑)。その前に、1回コラボレーションした経験のあるフランスの若い監督とともに、どこに行くかわからない「あみだくじ映画」を作ろうと話している。互いに5分くらいずつ撮って、それを交換して相手の作品を反映させながら次を撮ることを繰り返す。

山崎 俺は、撮影を終えた是枝監督作品『海よりもまだ深く』が2016年5月21日公開予定。西川美和監督の『永い言い訳』も現在仕上げ段階で、9月に公開予定だ。『トルソ』(10年)に引き続き、チャンスがあってアイディアが出れば、また監督作品も手がけてみたいね。

——足立監督の次回作が本気かはさておき(笑)、今後ますますのご活躍、お2人のファンとしても楽しみにしております。興味深いお話、本当に、ありがとうございました。

【映画情報】

『断食芸人』
(2015年/104分/DCP/日韓合作)

監督・編集:足立正生
企画・脚本:足立正生、小野沢稔彦
撮影:山崎裕
照明:山本浩資
録音:志満順一
出演:山本浩司、桜井大造、流山児祥、本多章一、伊藤弘子、愛奏、岩間天嗣ぐ、井端珠里、安部田宇観、和田周、川本三吉、吉増剛造(特別出演)、田口トモロヲ(ナレーション)

制作:小野沢稔彦、古川嘉久、坂口一直、大高彰、Asian Culture Complex – Asian Arts Theater

音楽:大友良英+ライブ演奏者たち
スチール:荒木経惟
配給:太秦
協力:テトラカンパニー

公式サイト→https://danjikigeinin.wordpress.com/

2016年2月27日(土)より、渋谷ユーロスペースほか、全国順次公開(詳細は公式HPをご覧ください)

3/19−4/8 大阪シネ・ヌーヴォにて特集上映「足立正生と断食芸人」開催!
http://www.cinenouveau.com/sakuhin/adachi/adachi.html

【プロフィール】

足立正生(あだち・まさお)
1939年生まれ。日本大学芸術学部映画学科在学中に自主制作した『鎖陰』で一躍脚光を浴びる。大学中退後、若松孝二の独立プロダクションに加わり、性と革命を主題にした前衛的なピンク映画の脚本を量産する。監督としても66年に『堕胎』で商業デビュー。71年にカンヌ映画祭の帰路、故若松孝二監督とパレスチナへ渡り、パレスチナ解放人民戦線のゲリラ隊に加わり共闘しつつ、パレスチナゲリラの日常を描いた『赤軍-PFLP・世界戦争宣言』を撮影・製作。74年重信房子率いる日本赤軍に合流、国際指名手配される。97年にはレバノン・ルミエ刑務所にて逮捕抑留。2000年3月刑期満了、身柄を日本へ強制送還。06年、赤軍メンバーの岡本公三をモデルに描いた『幽閉者 テロリスト』で35年ぶりにメガホンを取り、日本での創作活動を再開。

山崎裕(やまざき・ゆたか)
日本大学芸術学部映画学科卒業後、フリーの撮影助手を経て、65年長編記録映画『肉筆浮世絵の発見』(中村正義、小川益夫)でフィルムキャメラマンとしてデビュー。以後ドキュメンタリー、CM、記録映画などで活躍。主な作品にネイチャリングスペシャル『印度漂流』(94年/演出兼務/文化庁芸術作品賞、ギャラクシー奨励賞)、『20世紀黙示録 ものくう人々』(名古屋テレビ/深作欣二演出/ATP97グランプリ受賞)、『なぜ隣人を殺したのか ルワンダ虐殺と扇動ラジオ放送』(NHK/五十嵐久美子演出/98イタリア賞グランプリ、ATP98優秀賞)、映画では是枝裕和監督作品で『ワンダフルライフ』(99年)、『ディスタンス』(2001年)、『誰も知らない』(04年)、河瀬直美監督作品で「沙羅双樹」(03年)、「2つの窓」(14)。自身でもメガホンをとった「トルソ」は第33回香港国際映画祭国際評価連盟賞にノミネートされ、第28回トリノ映画祭インターナショナル・コンペティション部門に正式出品された。

 【執筆者プロフィール】

小林蓮実(こばやし・はすみ)
 1972年千葉県出身。フリーライター、エディター。フリーランスのための「インディユニオン」書記長で、組合員には映像やWeb制作者も多数。友人にも映画関係者が多く、個人的には、60〜70年代の邦画や、ドキュメンタリーを好む。近年、『週刊金曜日』『紙の爆弾』『労働情報』や業界誌などに映画評や監督インタビューを執筆したり、映画パンフレットの制作、上映イベントのトークの司会などもおこなっている。『週刊金曜日』2016年2月26日(1077)号に
 「今ある『自由の牢獄』 突破のマスターピース」のタイトルにて映画評も掲載。

【このコーナーの写真撮影】

馬込伸吾(まごめ・しんご)
1978年名古屋出身。映像ディレクター。RIFFILM映像製作所代表。主に企業や官公庁のVPを手がける。本作品にはメイキングとして参加。一方で日本全国から北朝鮮、レバノンに「赤軍派」のその後を追ったドキュメント映画を制作中。監督の足立正生とはその過程で知り合う。

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