【連載】「ワカキコースケのDIG!聴くメンタリー」 第27回 『THE MANZAI』

ツービートの漫才・完全採録(Ⅱ)

たけし「しかしですね、これから暑くなりますともうね、スポーツのきん、シーズンですけども」
きよし「そう、スポーツはいい」
たけし「東京はダメですな埃だらけでね」
きよし「あ、その点山形はいいですよ。空気はいいですしね、水はうまいし」
たけし「じゃあ山形さっさと帰りゃいいじゃねえかこの野郎」
きよし(聞き取れず)
たけし「お前みたいなフォークシンガーで、ぎ、いつもいるんだ東京は水が汚ねえとか空気が汚ねえとか言ってんのは」
きよし「いいじゃねえか」
たけし「帰って『青葉城恋唄』でも歌ってりゃいいんだお前はこの野郎」
きよし「なにが青葉で」
たけし「並の山形じゃないですから、こいつの。お父さん東京来る時、鍬やら持ってきちゃった」
きよし「持ってくるかそんな」
たけし「はとバス槍で突っついた」
きよし(聞き取れず)
たけし(聞き取れず)の前からウンコまいた」
きよし「汚ねえな!」
たけし「すごい(聞き取れず)
きよし「汚ねえこと言ってんなこの」
たけし「ホントですよホント。やっぱり今、お前みたいなバカはいっぱいいるんだよ」
きよし「なんだオレみたいな」
たけし「今日はバカについて講義するか」
きよし「バカ(聞き取れず)」
たけし「いろんなバカいますから、こいつみたいな奴ね。例えば喫茶店に入って深夜喫茶」
きよし「うん」
たけし「何の用も無いのに二人で入ってるバカって(聞き取れず)
きよし「いいじゃない」
たけし「何も飲まない。ディスコで振られちゃったって感じなんですなあれ。あといる、いるでしょ、行列があるとね、なぜかね、とりあえず並んでるバカね」
きよし「あ、そういう人いるいる」
たけし(聞き取れず)バカだなあとね。それからね、よく男でいるのは、昔、あの、自分はグレてたって自慢気に話してるバカね」
きよし(聞き取れず)
たけし「『俺は悪かったんだよォ、喧嘩ばっかりして』 完全にコレなんですな。もお、(聞き取れず)
きよし「言いたいんだよそういう人は」
たけし「あと車と音楽の話しかできないバカっていますね、『俺、車でよ俺ジャズ聴いちゃってよ』(聞き取れず)こういうバカ(聞き取れず)。あとね、プロレスを見て真剣に怒ってるバカね。『おい、あぶねえ、猪木、(聞き取れず)! おい、(聞き取れず)凶器出した、大木!』 バカだ(聞き取れず)、『(聞き取れず)出した、逃げろ!』 こういうバカがいますなあ。あとね、甲子園で親のいれ、遺影持って観察してるこうやって、『ええ! 父ちゃんが見てるぞ』なんて」
きよし「みんなその、いいじゃないか」
たけし「『ナニナニくんの選手は、お父さんが二週間前に死にまして』なんて、ウソばっかり言って」
きよし「そん、」
たけし「『お父さんも、遺影になって見ております。あ、打ちました。お父さんが打たせたんです』、打つわけねえじゃねえか。てめえが打ったん」
きよし「みんなそういう話で持ってってんだからコラァ」
たけし「バカバカしいや」
きよし「いちいち人のこと傷つけることないじゃないかこの」
たけし「なんだこの野郎。お前はうるさいよお前は」
きよし「うるさいよじゃないよ」
たけし「お前は足立区だこの野郎」
きよし(聞き取れず)
たけし「絶対足立区だぞこの野郎」
きよし「ほっとけそんなものは」
たけし「ガタガタ言うんじゃない、しかし私はあのスポーツなんて万能ですからね」
きよし「なに」
たけし「最近弱いガキがいるでしょ」
きよし「多いですね本当に」
たけし「ボクシングなんか4回戦。十戦十キョウです
きよし「勝ったわけ?」
たけし「負けたんです」
きよし「負けたんなら偉そうに言うなお前」
たけし「相手がアマチュアだから」
きよし「よっぽど悪いわ! よっぽど悪いじゃねえかんなものお前」
たけし「でも男でもね、最近あーなんていうんですか、電車の中でねガタガタ騒いでる学生ってのい るでしょ」
きよし「あ、学生ってのタチ悪いの多いですよ」
たけし「私なんかこの前山手線乗ってまして」
きよし「どうした」
たけし「うるさい学生がいたんで」
きよし「はあ」
たけし「私が注意した」
きよし「あ、偉いね」
たけし「『静かにしろこの野郎、人の迷惑考えたことがあんのかこの野郎』」
きよし「そうだ言ってやれ言ってやれ」
たけし「『どこの小学校だこの野郎』」
きよし「待て! 小学生と喧嘩すんなバカ」
たけし「お前、バカ野郎。中学生と喧嘩して怪我でもしたらどうすんだこの野郎」
きよし「情ねえなあ」
たけし「お母さんに怒られてくんじゃ(聞き取れず)、ランドセルで頭ガンガン殴られちゃって。(聞き取れず)鼻血流して家に帰りました私は」
きよし「情ねえ男だ、」
たけし「お前みたいな奴がね、だけど東京来たら良くないよお前」
きよし「なにが良くない」
たけし「お前東京に憧れてる、大体」
きよし「いいじゃねえ、」
たけし「東京ってのはいろんなところがあるんだよ大体。例えば新宿ったってイメージがあるんだから」
きよし「なんだ」
たけし「新宿ってのはお前、やっぱり、都会人とカッペが仲良く肩を組める街ってのがあるんだ」
きよし「じゃあ池袋は」
たけし「池袋は、新宿に負けたカッペの街って」
きよし「高田馬場」
たけし「貧乏学生憩いの場だよお前」
きよし「水道橋」
たけし「貧乏で頭のい、悪い学生の憩いの場じゃん」
きよし(聞き取れず)
たけし「偽ディレクターが高校生を騙す街」
きよし「銀座!」
たけし「銀座。あーやっぱり田舎のホステスが待ち合わせる場所ですな」
きよし「なる、六本木」
たけし「もう、カッペにとってはアマンドだけが目印の街」
きよし(聞き取れず)
たけし「『アマンドアマンド、アマンドだー!』なんて」
きよし「じゃあ原宿は」
たけし「原宿やっぱ子ども騙しの街だ(聞き取れず)
きよし「浅草」
たけし「角刈りで、ば、わ、鰐皮のベルトが目立たない街」
きよし「錦糸町」
たけし「銀座で飲んだのが自慢できる街ね」
きよし「ほう、じゃあ北千住」
たけし「渥美二郎一色の街であり(聞き取れず)
きよし「バカだねー」
たけし「じゃあ亀有」
きよし「はい」
たけし「ツービートのたけしが出たところなんですよ」
きよし「いい加減にしろこの」

以上で、約7分。噛んだりつっかえたリを気にしている暇なんか全く無い、という前のめり具合。しかし、文字起こししてみると、意外なほど漫才らしい漫才なのに気付く。


ツービートの漫才を吟味する(Ⅰ)

ナンセンスな毒舌の飛躍が次々と浮かんで止まらないたけしの才能は、漫才の枠を超えていた。凡庸な相方との限界を感じた結果、ひとりの活動が増えていった―半ば定説化した当時のプロフィールだ。
際どいジョークを連発した伝説的なピン芸人、レニー・ブルース(前回の連載でレコードを取り上げている)を目標にしていたことは、ブレーンの一人だった作家の吉川潮などが公言している。

でも以前から、〈ビートたけし=日本のレニー・ブルース〉という切り口には、何か乗り切れないものがあった。ちょっとカッコ良過ぎるというか、好事家の当てはめの収まりがキレイ過ぎるというか。
風刺の内容に関してもアメリカとの風土・社会環境の違いがある。テレビを売れる足掛かりにしようとしている男が、まんま影響されるような素直なマネをするだろうか。ブルースの在り方への憧れと、実践的なお手本は冷静に分けていたのではないか……と薄々思っていた。

それがこの漫才を吟味して、僕なりにハッキリした。たけしの基本はやはり漫才師なのだ。しかも、今に至るまで。ビートきよしの存在感は大きい。これは僕にしても初めて気付いた事実。かなり驚いた。

いや、採録した漫才で畳みかけるようにリードしているのはあくまでたけしで、きよしは気の利いたことを一つも言っていないのは確か。対等な掛け合いにはなっていない。だが、きよしのツッコミというより合いの手が、たけしのしゃべくりを一本調子から防いでいるのも明らかだ。


たけしは、きよしのツッコミとも言えないような、特に発展性の無い合いの手に「うるせえなこの野郎」と毒づく。きよしは「何を言っているバカ」などと、さらに意味の無い返しをする。
ここが重要なのである。
もし、きよしまで頓智のある言葉を発したら、たけしはそれに対応しなくてはならなくなる。B&Bを直接のお手本にした一方的なしゃべくり漫才(掛け合い漫才とは違う、ひとりが一方的にぼやき続ける「ぼやき漫才」の型の改良)のテンションはたちどころに崩れる。きよしのリアクションが平凡な合間に、たけしは一息ついたり次の話題に切り替えることが出来て、観客にもリラックスできる隙間が生まれる。

たけしのしゃべくりは、「この野郎」を通してきよしを頼り、律儀に「なんだこの野郎」と反駁するきよしに支えられて成立しているのだ。レニー・ブルースとは似て非なる形式どころか、これはほとんど、近年の北野武の監督作『アウトレイジ』の原型ではないか。

よくネタにされているようにきよしは山形県出身で、時折、語尾がズルッと沈む。語尾の高い大阪の漫才勢と比べると、東北人の粘りみたいなものが余計に出て、荒い言葉のキャッチボールになると、たけしよりも迫力が出る瞬間が時々ある。
東京の下町っ子の、おっちょこちょいな悪ガキトークでいくたけしと、きよしの垢抜けない重さが噛み合ったところが、何ともいえない面白さ、芸の怖さだ。

コンビ結成には相性、呼吸、互いの才能の差が離れていない、などの様々な条件があると思うが、ツービートの場合は、最初から合わない同士が漫才を始めた。コントラストを一番に大事にしたことが、結局は今でも解散せず、たまに楽しそうに共演する長持ちの要因かもしれない。

▼pare5 ツービートの漫才を吟味する(Ⅱ)につづく