【Pickup】特集★山形国際ドキュメンタリー映画祭2013 「生きる意欲をくれた映画祭」藤岡朝子さん(ディレクター)インタビュー 聞き手=萩野亮

それぞれの「アラブの春」部門『悪意なき闘い』

それぞれの「アラブの春」部門『悪意なき闘い』

|アラブが来る!

――藤岡さんは映画祭などを通じて、世界各国のドキュメンタリーをご覧になられてきたと思いますが、いま注目されている国や地域、作家はいますか。

藤岡 うーん、何の裏づけもないですけど、わたしはドバイ映画祭に通訳としてここ5、6年くらい毎年行っているんですが、「アラブが来る」と思います。まだ来てはいないんですけど(笑)。あの映像・文化事業に対する関心の高さとお金の注ぎ込み方、あるいはアブダビ映画祭なんかが中東で盛り上がっているのを見ていると、きっと何か突破口が見えてくるんじゃないかなと。フランスの資本がたくさん入っているということももちろんあります。

いま商業映画、劇映画のほうが進んでいるけれど、まさに「アラブの春」のような民主化運動が高まりを見せるとどうなるかはアジアと同じ。「アラブの春」を見ていると、「すでにネットで映像配信を始めているのだから、ここから映像作家がでてくるんじゃないか」という思いがします。

アラブ以外で面白い動きを見せているのはインドですね。配給と上映をする中心的な人が出てきているので、そうすると作り手も発表しやすくなるし、目指すようになりますよね。インドはいま熱そうですよ。ドキュメンタリーだけのDVDをハンドリングしている会社なんかもあったりして、当初始めたときは周りの業者から白い目で見られていたんだけど、商いを始めたらどんどん売り上げが伸びていて、そこには確実にマーケットがある。あれだけ巨大な国だから、インディペンデントの映画をもっと見たいという声があちこちにあったということですね。ヤマガタでも紹介してきたアナンド・パトワルダンは、自主上映をつづけて全国を周って、ひとつの模範というか、ヒーローのように見なされてきたんですが、それを補うようなシステムがいま生まれようとしています。

――逆に、日本のドキュメンタリーは世界でどんなふうに見られていますか。

藤岡 みんな期待するんですよね。「アサコ、新作はないのか?」といろいろな方が聞いてくれますね。でもいろいろ応募してもなかなか世界には出て行けないですね。欧米ではアジア各国のなかで日本のものがいちばん紹介されていないんじゃないかな。日本から山形映画祭200~300本ほど応募があるんですが、一年間で海外映画祭に行っているのは5、6本ですね。先ほどもお話ししましたが、日本の作り手があまり海外に興味を示していないということがありますね。

――日本ではドキュメンタリーの興行価値がかつてに比べて確実に高まっています。映画祭と興行との距離感はどんなふうにとらえていますか。

藤岡 実はそこにも少しジレンマがあって、配給がつけばつくほどヤマガタのライブラリーに残る作品が少なくなっていくんですね。たとえば映画祭のない年に「山形in東京」なんかをやっても、いちばんの目玉作品が上映できなかったりする。多少引き裂かれる気もちはあります。でも作品にとってはもちろん劇場公開してたくさんの方に見てもらったほうがいいと思っています。コミュニティシネマ賞の受賞作品含め、一般公開はもちろん応援します。

一方、配給が決まることがすべての映画にとって幸せかというと、そうではないとも思いますが。

|見どころは「参加しどころ」

――最後に月並みですが、山形国際ドキュメンタリー映画祭2013の「見どころ」を聞かせてください。

藤岡 見どころは、「見るところ」じゃなくて、「参加するところ」ですね。上映のあとのトークがとにかく充実していて、今年は通訳者さんが忙しいんですよ。シンポジウムも多く企画していますし、「ヤマガタ・ラフカット!」も「倫理マシーン」も参加して語るプログラムだし、「語る映画祭」というのがいちばんの参加しどころですかね。ヤマガタでしか経験できないことというのは、ライブなことでありインタラクティブなことです。質疑応答の展開の意外性は、むかしからヤマガタは有名ですしね。

――前回2011年は、震災のすぐあとということもあって、海外からのゲストや観客がものすごく少なかった印象をもちました。今年は世界各国から監督さんたちがいらっしゃるのでしょうか。

藤岡 もうそれは、ゲスト予算がオーバーするほどです(笑)。アベノミクスのおかげでホテル代が上がっていることなんかもあるんですが、海外プレスのリストを見ても、ジャーナリストなどが自費で来てくれる方が今回すごく多いんですよ。想像するに、グローバルにネットワーク化された映画祭のルートに入っていないから、謎めいていて興味をもってくれているんじゃないかな。

――今年も新しい出会いが生まれそうですね。

藤岡 そうですね。観客の世代交代も進んでいます。むかしは違ったんですが、いまは学生とか若い方たちが観客の中心になってくれています。ヤマガタの精神を変えずにいままでつづけて来られたから、いい感じで世代交代も進んでいるのかな。(了)

yidff2013|開催情報

山形国際ドキュメンタリー映画祭2013
期間:2013年10月10日(木)―17日(木)
会場:山形市中央公民館(アズ七日町)、山形市民会館、フォーラム山形、山形美術館ほか
主催:特定非営利法人 山形国際ドキュメンタリー映画祭 共催:山形市
公式サイト:http://www.yidff.jp/home.html 

 

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|プロフィール

藤岡朝子 Asako Fujioka
山形国際ドキュメンタリー映画祭東京事務局ディレクター。幼少期より13年間米国とドイツで育つ。映画配給会社、写真家事助手を経て1993年より山形国際ドキュメンタリー映画祭スタッフ。2003年までアジアの新進映画作家を紹介する「アジア千波万波」プログラムのコーディネイターを務める。1997年来、ベルリン国際映画祭などで日本映画を海外に紹介するさまざまな事業に関わる。また、映画関係の通訳や字幕翻訳を多く手がけ、国境を越えて映画と観客をつなぐ仕事を中心とする。2006年よりアジアのドキュメンタリー製作を支援するプサン国際映画祭内のAND(Asian Network of Documentary)立ち上げに参加し、製作助成プログラムのアドバイザーを務める。

萩野亮(聞き手・構成) Ryo Hagino
本誌編集委員。批評。立教大学非常勤講師。編著に『ソーシャル・ドキュメンタリー 現代日本を記録する映像たち』(フィルムアート社)。ヤマガタへは大学時代の2005年より毎回通っている。今冬刊行予定の『アジア映画の最前線』(仮題/作品社)にアジアのドキュメンタリー映画について論考を寄せている。

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