【Interview】嘘のない感情を描くために演出を仕掛けた―『わたしたちに許された特別な時間の終わり』太田信吾監督インタビュー

映画『わたしたちに許された時間の終わり』より

 
彼の人間性はなにかしら反映させながら生きていきたい

――お話を伺っているうちに、さっきの、3人の関係についてだんだん気が付いたことがありますので、もう一度、路上の場面について。

太田が、壮太が乗り移ったかのように荒ぶる。カメラマンの岸さんがカメラを坂田さんに預け、太田を殴りつける。あの時、構図上は、死んだ壮太と同じ世界にいる(そして「自殺の才能なんて無い」と否定した)、自殺した少女がカメラを持っていることになります。そして岸さんは、過去の素材ではカメラを回していた太田と同じポジションに相当します。つまりあそこは、現在の危うい太田を、過去の太田が入り込んで殴っている、そう意味合いとして取ることができる。

こうなると、あの場面で初見から微かに感じていたカタルシス、浄化されるような感情が理解できる気がするんです。

生者がカメラを持ち、死の意味を探していた映画が、転じて死者(を演じるひと)のほうがカメラを持ち、現在と過去の生者同士が葛藤をぶつけ合うことでクライマックスを迎える。見事に、ひとつの儀式になっているんですよね。

あの場面は、考えて用意されたものだと伺いましたが、どれ位、即興の要素が強いのか。ひょっとしたら、入念にホンまで作られていたのかも、という気もしてきます。

太田 殴り合いそのものに関しては、突発的に起きたことなんです。ただ、シナリオに対する、こう……これでいいのか、ラストをどうするかという迷いは、撮影当日の現場まで続いていました。丸く終わっちゃっていいのかな、と凄く思っていて。その苛立ちが余計、周りの人に当たるところに出てしまった。

――岸健太朗さんは、カメラを停めて(撮影を中断して)太田のところへ行く、ではありませんよね。カメラをONにしたまま、坂田さんに渡す。あれは、岸さんの判断?

太田 いや、僕がプチンと来た時に、同時に岸さんだけには、今はカメラを回してくださいと伝えたんです。それから、みんなにけしかけていった。プチンと来た瞬間、あ、これを撮らなきゃと思ったんです。それに岸さんも乗ってくれて。役者もやっている人なので。こんな、スタッフの醜態みたいなものは撮りたくないと言うカメラマンもいると思うんですけど、彼も彼でいろいろやり出して。

――監督と撮影がともに俳優でもある座組ならではのお話です。じゃあ太田さんは、あそこは混沌とした感情さえ撮れれば、場が破綻したままでもよかった?

太田 うん。そうですね。あの状況を嘘なく伝える、という意味では。

あらかじめ想定して同じ場面をやるにしても、紙に書いたものをみんなが読んでから演るのと、ああなった時にカメラを回しているのとでは、伝わるものが全く違うはずなので。

岸さんが坂田さんにカメラを渡したことは現場での偶然だと思いますが、どこかしら……彼は、壮太はもう亡くなっていないんですけど、彼の存在を引き受けて生きていくって部分は、最低限でも。彼の人間性はなにかしら反映させながら生きていきたいって気持ちがあったので。

シナリオを書く段階では思いつかなかったけれど、結果としてああいう形になることは、無意識には望んでいたと思います。

――撮った素材のなかにいる壮太さんを繰り返し見ながら、時間をかけて編集し映画を作った。そこには、自分の記憶の中にある壮太さんを描くのとはまた違った厄介さがあったのでは? 作業しなければいけないマテリアルの中に、生きている壮太さんがいるわけですから。

太田 はい。うん。

――完成させることで、初めて忘れられる。壮太さんのことを相対化できる。ものをつくる行為には、そういう面も確かにあると思います。

太田 僕は忘れたいというよりは……決着をつけたい、です。映画にしようということで撮り出したものだったので。それ(素材)をプライヴェートなものから公のものにしていく時に、意味づけをしてその上で出していくことは、どんな形であれ、やるべきだと思っていたので。

――映画は壮太さんがいた時と、いない時とではガラッと雰囲気が違うのですが、実はもともと太田さんが描きたかったもがき、夢を持ってしまった人間の苦しさのようものは、壮太さんがいなくなった後も変わらなかったのかな。テーマにブレは無かったから完成させられたというか。今、お話を伺いながら気が付いたことですが。

太田 そうですね。壮太と蔵人、2人に向きあいたい気持ちは、映画を3人で始めてから今まで一貫していると思います。

亡くなった後も、壮太だったらどうするかとか。壮太が生きていたら、今どんな生き方をしているのか、とか。そういう形で生きている人間に影響を与え、ある意味、乗り移っている。決して死が全ての終わりを意味するものではないと思っています。

映画『わたしたちに許された時間の終わり』より

 【作品情報】

『わたしたちに許された特別な時間の終わり』
(2012 / 日本 / HD / カラー / 119分)

製作・監督・脚本・撮影・編集:太田信吾
出演:増田壮太、冨永蔵人、太田信吾、増田博文、増田三枝子、坂田秋葉、平泉佑真、有­田易弘、井出上誠、坂東邦明、吾妻ひでお、安彦講平、他
フィクションパート撮影:岸建太朗
録音:落合諒磨
音楽:青葉市子 (制作)曲淵亮、本山大
共同プロデューサー:土屋豊
製作:MIDNIGHT CALL PRODUCTION

 ※山形国際ドキュメンタリー映画祭2013アジア千波万波部門正式招待作品
※ニッポンコネクション2014(ドイツ)正式招待作品
※台湾国際ドキュメンタリー映画祭2014(台湾)正式招待作品

 公式HP http://watayuru.com/

8月16日(土)より、ポレポレ東中野ほか全国順次ロードショー

今秋公開予定

神奈川:横浜シネマジャック&ベティ 
愛知:名古屋シネマテーク
大阪:第七芸術劇場
兵庫:神戸アートビレッジセンター
京都:立誠シネマプロジェクト


 【CD情報】

増田壮太『命のドアをノックする』 好評発売中

増田壮太、初の全国流通音源にしてベストアルバム。

映画『わたしたちに許された特別な時間の終わり』エンディングテーマ「僕らはシークレット」、および映画内使用曲「落日」など、増田壮太を語る上で外せない全14曲を収録。

 

「僕らはシークレット」PV(演出:太田信吾)