【記録文学論】第9回 須藤洋平『あなたが最期の最期まで生きようと、むき出しで立ち向かったから』text 中里勇太
500mlのペットボトルの重さくらいの 暴力を内包して みな、何かを伝えたがっている ――「現状」 宮城県南三陸町在住の詩人・須藤洋平。2011年3月11日以降、彼が七
【記録文学論】第8回 井上光晴『地の群れ』 text 中里勇太
曇天の空の下、ひどく短い咆哮が耳をつんざき、獣なのか、地を這い駆けるひび割れなのか、気づいたときにはもう取り囲まれている。 『地の群れ』という表題から、思い浮かべた光景だった。物語は、長崎原爆の被爆者が身を寄せて暮らす「
【記録文学論】第7回 石原吉郎『海を流れる河』text 中里勇太
「いつの頃からか私には、海を流れる河というイメージが定着し、根をおろしてしまった」(石原吉郎「海を流れる河」) 敗戦後、ハルビンから旧ソ連領へ移送され、その後8年あまりのあいだ収容所での日々を送った、詩人
【記録文学論⑥】姜信子『棄郷ノート』text 中里勇太
「一九九八年八月一〇日。わたしは「故郷」を棄てる旅に出た」。 故郷を棄てる、という衝撃的な宣言からはじまる本書『棄郷ノート』(作品社、2000年)は、作家・姜信子が韓国、上海、満州を巡る旅の記録である。 横浜で生まれ育ち
【記録文学論⑤】 桐山襲『未葬の時』 text 中里勇太
都市は、未だ葬られていない時のただなかにいる。 小説家・桐山襲の遺作『未葬の時』。その表題は、いま、おそらく桐山も意図しなかった意味を重ねて、幾重にも響きわたる。 記憶のない都市そのものを描いた『都市叙景断章』をはじめ、
【記録文学論④】『パウル・ツェラン詩文集』 text 中里勇太
8月、東日本大震災からもうすぐ1年半を迎えようとする南三陸町を訪れた。町内のいくつかのまちが震災時に津波でのみこまれた。仙台で生まれ、大学入学を機に東京へ出た僕にとって「南三陸」という地名にあまり馴染みはなかった。そこは
【記録文学論③】『アメリカの黒人演説集』 text 中里勇太
トニ・モリスン「ノーベル文学賞受賞演説」 (荒このみ編訳『アメリカの黒人演説集』所収) Once apon a time———(むかしむかしのことでした……) 1970年に小説
【記録文学論②】『内部の人間の犯罪』 text 中里勇太
文学において、ことばにおいて、岩盤を蹴る、その瞬間の沈黙へ抵抗することばをわたしたちは持ち得ていないのか。あるいはそれを獲得することは、わたしたちにとってひとつの未来の身体、新たな身振りへとなるのだろうか。昭和33年(1
【記録文学論①】 『ピンチランナー調書』 text 中里勇太
「――ピンチランナーに選ばれるほど恐ろしく、また胸が野望に湧きたつことはなかった! あれは草野球の受難だ。いまあの子供らは、ピンチランナーに呼びかけないが、たとえこのような場合にもおそらく……」。一ページ目に置かれた原