【連載】原一男のCINEMA塾’95 ③ 深作欣二×原一男×小林佐智子×荻野目慶子×金久美子「エロス篇」  

『忠臣蔵外伝 東海道四谷怪談』(94)

    そうですね。もうちょっとしつこく粘りますけどね。荻野目さんがいろいろやってみますよね。で、1回現場を見せてもらえれば僕なりに、あーそうなのかと理解できる、まあそれなりの理解ができるだろういうふうには思ってますが、実際に拝見してないので、言葉で根掘り葉掘り聞くしかないんですが、テストをかなり何回もおやりになるっていうふうに、私読んでます。で、いろいろやらせてみせる、監督の側から言えばね。で、何か探ってるわけですよね。その探るっていうあたりを、深作監督の口から、もう少し言葉で聞きたいんですね。具体的に今のケースの場合ですね。

深作  金さんのお仕事はお芝居で、お芝居というのはいきなりセットも何もないところで衣装もつけてなくて、本読みから始まって、だんだん立ち稽古に移っていきますよね。どの段階で衣装が決まるのかということは千差万別であるにしても、まずは当分決まりませんわね。それで何ていうのかな、僕も芝居は何度かやった経験はあるんですけれども、その楽しさっていうのはね、お互いにその世界を肉体化していくプロセスとしては一番有効な方法だろうと思ってるんですよね。

ところが映画の場合にも、荻野目くんなんかにも随分事前から踊りの練習はしていただいたし、それでもまだ、なおかつフラッシュバックのイメージは僕の中で決まらないものだから、ワンカットで撮れるような状況を作りたい。それで俳優さんなかなか集められませんから、荻野目くんの踊り、それに対応して今度はスタンドインでいいから踊れるお師匠さんとお弟子さんを向こうに据えておいて赤穂浪士たちの踊り、それをワンカットで私の見えるところでやってもらわないと、いいのか悪いのかわからない。バラバラではね。繋いだときにはちゃんとそれがトータルなイメージになってないと困るわけですから、そんなことで随分この肉体的な労働というかな、そういうことを踊りに関しても荻野目くんにもそれから向こうの赤穂浪士の人たちにもしてもらったわけですが。そういうことだけでもまだわからない。この踊りのためには、その効果のためには衣装をつけて、メークをつけて、その周辺に、渡辺さんがいたり、石橋くんがいたり、それから三味線弾いてる腰元がいたりしないとわからんと。わからんと言い出したら何もわからなくなっていく、いやわからないんですよね実際には。

それでさらにややこしいのは四十七士がそろっていて大石が見てる、それを主税と岡野金右衛門が踊ってるなんていうことまでね要求しだすと、それはパーフェクトなんですけども、できることとできないこととありますよね。そうすると自分の中でイメージが、全然イメージも固まってないのかと言われると、攻撃されると一言もないんですが、全くイメージ固まってないんですよ、そんなもんです。固まるはずがない。それで大概は、今までどうだったのかというと、イメージ固まっているふりをしたりなんかして切り抜けてきたわけですがね。

    (笑)。そうですか。

深作  うん。こういうしつこいのがいますとね、異能なタレントがいると、その嘘がね(笑)、嘘がつけない状況が出てくるわけですよね。だから、俺にだってわからねえと、もうこっちがふて腐れるしかない。とにかくやってみてくれ。それで、重い衣装で重いづらで、もう肉体的には限界だなということはわかるんだけれども、それでわかるわかる言っててね、自分の気持ちが萎えたり優しくなっちゃったりしたら、これはどうにもならないんで、知らん顔でそっぽ向いているしかないわけですよね。

もう本当に、何度か泣いたり、ステージの外へ行くときも、もう本当に転びそうになって四つんばいみたいな格好で出て行く。ああ、かわいそうだなとは思いますけどもね、手を貸すこともしない、何もしない、見てるしかない、てなことですね。私が、例えば荻野目くんがやったあのシチュエーションにどう監督として関わったかといえば、ひたすら動いてもらう。動いてもらいながら自分のイメージを固めていく。それで、あと、ぶっ倒れられちゃ困るんだけれども、そっから先は荻野目くんの役者根性といいますかね、それに賭けるしかない。ひたすら待つということでしたね。

    ひたすら待つ…。それでいくつか、ねちっこくしてすみません。もう一つだけ。それでね、いろいろやってみてくれます。いくつか見て、ああ、これだなって、だんだん、多分、近づいてきますね。でOK出しますね、これでいいよ。これでいいよっていうそのOK出すときの、何でそれがOKなのか、ちょっと本当にちょっと屁理屈こだわるようですけれど、それは結局いったい何なんだろうと。

深作  これはね、荻野目くんに限らず、どの俳優さんにも言えることなんですけども、違う違うというのは、これはもう本能的にというか、わかるわけですよね。何で違うのかというと、それは脚本書いてたイメージからずーっと自分の頭の中に一つのリズムを基調としてある世界ってのは、私の場合には、どうしてもリズムがまずははっきり確立されないとね、OK、NGが出せないんですよ。

そのリズムにかなっているかいないか、なぜそうなのかというと、これも困るんですがね、せりふのリズムにしても、アクションのリズムにしても、それがそうできあがってないと、ほかのことはどうでもいいんですわ。その間を詰めてくれ。その間を詰めてくれというせりふしか私は聞いた覚えがありませんと吉永小百合に言われたり(笑)、緒形拳に言われたりしますけれども、ほかの注文は一切出さない、間を詰めてくれ、間を詰めてくれ。しかしそれはリズムを探ってるんだと思うんですよね。それに対するこだわりだけだと思うんです。

それで、何だっけ? つまり、OKを出せないわけですよね。それで、夜がどんどん、夜とは限らないんだけど、1日で撮影が終わらなきゃ、次の日もなるわけです。それで次の日もどんどんどんどん夜が過ぎていく。それで、夜の9時か10時頃ですね。うん、いいかな、いいかなと思う瞬間がふとある。ちょっとそのカットはキープしといてくれ。ほんで、さあ、また次も、次っていうか同じカットをまた次。よくなってきた、よくなってきた。そうすると、よくなってくりゃあいいんですけどね、悪くなってくることもありますよね、疲れるから。俳優さんだって。スタッフだって疲れる。それでね、さっきキープしたのをOKにしようかなという瞬間もあるわけですよね。ところが、そのキープした段階からさらに、3時間も4時間もたってるとしますね。そこで、「もうやめた。あのキープ使う」と言ったら、これはスタッフの立場もなきゃ、俳優さんの立場もありませんよね(笑)。そうすると、だめだ、だめだ。そんなことではだめだ。続けよう、続けよう。そうすっと、12時過ぎ、夜中の2時3時になるわけですよ。

そうするとね、いったい俺、何やってんだろう? このOKも本当に僕が自信を持って出せる瞬間ってのは来るんだろうかという、ものすごく怖くなるわけですよね。怖くなるけれども、あと戻りできない。ほんでそのうちに、本当に今までのあれからすれば、天の助けのように、3時を過ぎて4時5時頃の段階になって、それだ、OK!という場合があるわけですよ。ほんでそれはね、私だけがそれだ、OK!と言ったってだめですわね。本当にOKでなきゃ。俳優さんもスタッフもOKでなきゃ。何を1人で勝手なことを(笑)。

ところがそんときにね、それだ、OK!って僕が乗ったときにはね、俳優さんも乗ってるし、それからスタッフも乗って、みんなが一斉にわーっとこうなる瞬間があるわけですよ。これが明け方の4時5時ってのが、少し気違い沙汰なんですけれども、そういうふうに前の日がだめで次がだめで、OKが出るのか出ないのか、その根拠が僕ん中にもないわけですから。ひたすら奇跡に(笑)すがるしかない。ただ、それが訪れるということがね、割と今までの経験則に基づいていえばあるものですから、ついつい無理を重ねちゃうというか、ということなんですがね。だからOK、NG、そんでそれを今度はラッシュ見ますわね。そんでキープも焼いておきましょかってスクリプターが言うから、それはまあ必要ないと思うけれども、まあ一応焼いといてみる。ほんで見ると、僕にははっきり違いがわかるわけですよ。ほんで俳優さんにはその意見ってのあまり求めたことないんだけど、ほかのスタッフはね、どこが違うのや?と。

原    (笑)

深作  (笑)、同じやないかと言うわけですよ。しかし僕にはハッキリ違う。それが違うのがわかってるからいいんだと。それで、おまえさんたちだって、そら照明のあんちゃうんだろうと、撮影部の助手だろうと助監督だろうと、その気になりゃ監督なんてのはいくらでもやれるわけですから。おまえが監督やりゃわかるよと、いう一言ですわね。

    なるほど。一言ね(笑)。

深作  それで納得させてしまうことの繰り返しが、何かこの、しんどい無駄な労力を俺たちはさせられてるんじゃあないかとスタッフもぼやき出すような私の現場であるわけですが、まあ、つながって見ればね、なるほどこういうリズムを意図していたのかと。そんなの口で言やあいいのにと言っても、リズムってのは口で言えないんですよね。それでまた芝居のあれにしても、ほいじゃあどうやればいいんですか?と荻野目くんなんかにしても誰にしても、癇癪を起こして詰め寄ってくる場合がありますけれども、どうやればいいのかわかるぐらいだったら僕は監督なんてやってない、役者やってるよということになるわけですがね。僕は役者ができないから、できないからひたすら見て注文をつけるだけなんだということですね。

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