【Pick up】発表! わが一押しのドキュメンタリー2015

例年200本以上、テレビを含めるともっとたくさんの本数が上映・放送されているドキュメンタリーの中から、皆様の「ベストワン」をうかがう企画、「わが一押しのドキュメンタリー」。今年も劇場公開作品から一般には知られていない作品まで実にバラエティに富んだ回答が寄せられ、ほぼ全員が違う作品を推している事から「オンリーワン」の様相も呈してきた。
ありがたいのは、選定作品もさることながら、皆様の「目のツケドコロ」がまことに鋭く、こちらも「みてみよう!」という気持ちが湧く回答になっていること。作品のポイントを、的確に押さえて書いてくださっているのだ。これら作品の上映機会を紹介することはもちろん、作品に対し気軽に「モノを言える」場や空気をつくるのも「neoneo web」に課された重要な役割だとあらためて思い直した。掲載が遅くなりすみません。ご回答いただいたみなさま、誠にありがとうございました。(neoneo編集室 佐藤寛朗)

【参考】2015年の劇場公開ドキュメンタリーの予告編(清水浩之氏 作成)
劇場公開ドキュメンタリー 2015年(1/3)
劇場公開ドキュメンタリー 2015年(2/3)
劇場公開ドキュメンタリー 2015年(3/3)

※到着順、順不同
※  作品名の青地をクリックすると、neoneo webの紹介記事にリンクします


◇石坂健治(東京国際映画祭アジア部門ディレクター)

 作品:『Night and Fog in Zona(天堂の夜と霧)』(監督:チョン・ソンイル=韓国)

去る10月の釜山国際映画祭で視聴(日本未公開)。雲南の精神病院で『収容病棟』を撮影中のワン・ビン(王兵)に韓国人監督チョン・ソンイル(評論家として有名)が密着した、王兵なみ237分の長尺メイキングだが、そういう言い方が陳腐に思えるほど面白い。王兵作品におけるキャメラと対象の独特の距離感(=撮影者など存在しないような不思議な自然さ)がいかに醸成されるのかが垣間見られる。小柄な王兵が小動物のように施設内を歩き回り、患者たちの語らいの場に近づくやジャンパーのフードを被ってうずくまり、自らの気配を消し去って耳を傾けるくだりの凄絶さ。原一男に倣うなら「ドキュメンタリー作家が魔道冥府に入る」瞬間がここにある。

◇たかはしそうた(会社員)

作品:『こぼれたミルクに泣かないで』(監督:山田隼人)

「イメージフォーラム映像研究所2014年度卒業制作展」で上映された作品。意中の女性(ホリ坊)を射止めるために、監督が”撮影”という名目のもとにデートを重ねる、セルフドキュメンタリー映画。魅力はなんといっても、監督がキモいこと!笑 こんなに自分自身をさらけ出すことに無頓着なのは誰以来だろうか。映画の終盤に映る、ホリ坊とそっくりな人物の写真には、もうゾッとしてしまう…。もう一度見たい!

◇安田 樹(公務員)

作品:『はての島のまつりごと』(監督:土井鮎太)

日本最西端の島沖縄県与那国島。古くから神々のやどる島として独特の信仰を守り平和に暮らしてきた人口千人弱の小さなこの島。この島に5年前突如起こった町長の自衛隊誘致問題。離島振興か島の平和で割れる賛成派と反対派。ヤマトの政治に揺さぶられる島民たちと神々と対話する祭礼「マチリ」を織り交ぜながら島の空気が香ってくる長編映画。

◇東野真美 (編集者)

作品:『戦場ぬ止み』(監督:三上智恵)

沖縄・辺野古新基地建設準備のために資材を運び込む車両の前に身を投げ出す85歳のおばあは「私をひき殺してから行きなさい」と叫ぶ。それは「ブルドーザーの下になっても闘う」と言った三里塚闘争のときの大木よねとイメージが重なってしまう。いつの時代も国家の暴力は酷たらしく、闘う者の悲壮感が哀しい。監督の三上智恵氏は『標的の村』に続く国家の白色テロリズムを余すところなく暴き出した。どこまでも続けてほしい営為だ。

◇  清水浩之(映像制作業・短篇映画研究会)

作品:

◆映画

未来をなぞる 写真家 畠山直哉(畠山容平)

日本と原発 4年後(河合弘之)

犬に名前をつける日(山田あかね)

みんなの学校(真鍋俊永)

週末全国デモ動画(秋山理央)

放蕩息子(横山善太)

風和里~平成の駄菓子屋物語(田中健太)

妻の病 レビー小体型認知症(伊勢真一)

いのち探検 ミクロちゃんと行く宇宙の旅(武田純一郎)

アラヤシキの住人たち(本橋成一)

「映画」の真ん中に、秋山さんがYouTubeに発表し続けている週末デモの動画を。特に6月から9月にかけての、各都市での安保法案反対デモの広がり方がよくわかって、毎週楽しみにしていました。

◆テレビ

10億人が愛した高倉健(BS1/増田浩)

南京事件 兵士たちの遺言(日本テレビ/清水潔・境一敬)

戦後ゼロ年(BSプレミアム/正岡裕之・伊東亜由美)

ヤクザと憲法(東海テレビ/?方宏史)

わが家にやってきた脱走兵(毎日放送/津村健夫)

ロボットより愛をこめて(Eテレ/橋本唯)

デモなんて(朝日放送/白木琢歩)

手(ティー) 沖縄空手 本当の強さ(BS1/新倉美帆)

撮影監督 ハリー三村のヒロシマ(WOWOW/佐々部龍太)

フシギな同居(BSプレミアム『極私的ドキュメント にっぽんリアル』/北川帯寛)

Eテレの「人生デザイン U-29」や、BS1の「Asia Insight」にも面白い番組が多かったです。

◆恒例の「短篇映画研究会」個人的ベストテン

紺の制服(堀内甲)

記録なき青春(阿部孝男)


女の生きがい(長田紀生)


青年(金子精吾)


悲しき暴走(山口昇)

酸欠 その恐ろしさと対策(笹川弘三)

ある旅立ち 二年B組田村洋子の場合(川島啓志)

みんなのカーリ(内川清一郎)

二人の少年(向井寛)


古代の奈良(石田民三)

◇江利川 憲(フリー編集者) 

作品:『ルック・オブ・サイレンス』(監督:ジョシュア・オッペンハイマー=アメリカ)

 主人公アディの顔が忘れられない。撮影当時44歳。その表情には、怒り、悲しみ、無念さ……などなどの想いが押し込められているように見える。だが彼は、兄を虐殺した男たちと対峙するときも、糾弾や非難はしない。短い質問を重ねていくだけだ。その寛大さと勇気に打たれた。復讐ではなく、できれば「許したい」という希求が素晴らしい。

◇岡本和樹(ドキュメンタリー演出)

作品:『今日の風なに色?』(演出:高山明)

トルコ系クルド人が、難民認定裁判の中で必要に迫られ、独学で獲得した日本語。その言語と日本語との間のズレ。その中に、あらゆる文化のズレと〈難民〉が置かれている状況が内包されている。一切の説明が排された映像からは、観客が主体的に画面に関わらうとしない限り、何も見えてこない。上映において試されているのは、作家ではなく観客なのだ。

◇  林あすか(会社員)

作品:『私の非情な家』(監督:アオリ=韓国)

山形で見ましたが、あどけない表情の少女が必死に戦う様が私は好きでした。母親や妹との関係性も生々しくてよかった

◇佐藤聖子(無職)

作品:『三里塚に生きる』(監督:大津幸四郎、代島治彦)

ドキュメンタリー映画に記録以外の要素が加えられ、斬新な作品が多数上映される中、過去の映像も交えた『三里塚に生きる』は、昔ながらのドキュメンタリーを感じる映画であったのだが、それこそがこの映画の新しさに思えた。薬師寺の東塔と西塔が対で浮かび、「過去と現在」について考えさせられた。物も人も映画も、時の流れの中で刻々と新しい顔を見せ続ける。それを教えてくれた作品だった。「伝統美」や「斬新」に、無条件に価値を見出そうとする自分の傾向を指摘されたようでもあった。

◇細見葉介(会社員)

作品:『桜の樹の下』(監督:田中圭)

舞台は郊外の古い団地、主人公は一人暮らしのお年寄り4世帯……無機質に囲まれた世界のようであるが、違った。カメラはそれぞれの生活とともにし、穏やかな日常の中に「存在と不在」とを描き出す。その対比を観て初めて、団地の無機質さの正体を知ったような気がした。高度成長が遠く過ぎ去った郊外、その現在を映した記録としても貴重な作品だった。

◇吉田孝行(本誌編集委員)

作品:セルゲイ・ロズニツァの短編ドキュメンタリー作品群(ウクライナ)

セルゲイ・ロズニツァ(Sergei Loznitsa)は、非常に特異なドキュメンタリーで知られる1964年生まれのウクライナの映画監督。これまで16本のドキュメンタリーと2本の長編劇映画を制作していますが、とりわけ35ミリで撮影されたモノクロの短編ドキュメンタリー作品群には驚きました。長編劇映画ではカンヌ映画祭で賞も受賞しており、世界各国の映画祭でレトロスペクティブも行われていますが、ロズニツァの作品は日本では一度も上映されたことがありません。某動画共有サイトに無断アップロードされていた作品をたまたま観て、ロズニツァのことを知りました。

 ◇秦 岳志(映画編集)

作品:『息の跡』(監督:小森はるか)

東京芸大の学生だった監督が震災後、陸前高田に移り住み、地元の種苗店「佐藤たね屋」に通い続けた記録。津波で店が全て流されてしまった佐藤さんはプレハブと瓦礫を使って同じ場所に店を再建。インフラが全く無かったので、空き缶を加工した道具を使って12m下の水脈に井戸を掘りあてた。それだけではない。佐藤さんは自分の震災の経験を、ネットを駆使して独学で学んだ英語で執筆。それは海外で大きな話題を呼び、ついには中国語版も自力で執筆・出版してしまう。

大きな悲しみを背景にしながらも自らを鼓舞するように執筆を続ける佐藤さんの、どこか滑稽なまでのドンキホーテぶりが最大の魅力の作品ですが、親と子ほどの歳の差がある二人が織りなす、カメラを通した会話のリズムの珍妙さも必見。

◇若木康輔(ライター)

2015年公開の国内ドキュメンタリー映画。印象に残るものと、自分でなにか書いたものはよく重なる1年でした。

『繩文号とパクール号の航海』(本サイトに監督インタビュー)

『戦場ぬ止み』(パンフレットにイラスト)

『フリーダ・カーロの遺品―石内都、織るように』(パンフレットに評)

『波伝谷に生きる人びと』(本サイトに監督インタビュー)

『日本と原発 4年後』(本サイトに監督インタビュー)

『劇場版プロレスキャノンボール2014』(本サイトのニュース欄に宣伝文)

『映画・講談 難波戦記―真田幸村 紅蓮の猛将―』(本サイトに監督インタビュー)

『放射線を浴びたX年後2』(本サイトに監督インタビュー)

これに『マイノリティとセックスに関する、極私的恋愛映画』『沖縄 うりずんの雨』の2本を加えると、自然と僕のベストテンということになります。

その上で……一押しは超・手前味噌。構成で参加しているNHKラジオ第1のアーカイブ紹介番組『小山薫堂の“温故知新堂”』です!http://www4.nhk.or.jp/onko/

2015年にのっぴきならない存在になったタイトルを正直に選ぶと、これにせざるを得ません。過去の放送音源に触れて、ラジオとドキュメンタリーがつながったことは発見でした。
この場を借りてご報告。1月にneoneoの編集から外れました。お世話になった方々、ありがとうございました。

◇金子遊(neoneo編集委員)

作品:『テラキスの帰郷』(監督:サーユン・シモン=台湾)

他の場所で詳しく論じましたが、パイワン族の女性総統が誕生した台湾で、タイヤル族の映画作家が高山の村を見つめたドキュメンタリー。すばらしかった。それに比べて、国内に目を転じると、基地移転問題であいかわらずの沖縄いじめ…

◇伏屋博雄(neoneo編集室)

作品:『真珠のボタン』(パトリシオ・グスマン監督=チリ)

先住民への圧殺という原罪を抱え、ピノチェト独裁政権下では過酷な時代を生きねばならなかったチリの人々の、弾圧され、時には虐殺された時代を告発。
パタゴニアの壮絶なまでの風土と相まって、知をフル回転し肉薄した本作品に感銘した。と同時に、このようなスケールの大きな映画が最近の日本には皆無であることに、一抹の寂しさが残った。

◇  佐藤寛朗(neoneo編集室)

作品:『抱擁』(監督:坂口香津美)

「心の病」が老母を蝕んでいくさまと、故郷への還住による「癒しと回復」のプロセスが、息子の目を通して記録された貴重なドキュメンタリー。発症時の緊迫した映像にとにかくハラハラさせられた。救いは後半に訪れるが、一筋縄ではいかないところに人生、そしてドキュメンタリーの深淵をみる。かつて「若者の自分探し」が専売特許だったセルフドキュメンタリーが「老いと介護」の領域まで広がった事への感慨もあったが、「その人にしか撮れない映像」の意味を、あらためて考えた。

◇若林良(映画批評/neoneo編集委員)

作品:『みんなの学校』(監督:真鍋俊永)

思い出した。自分がいちばん泥くさかった(文字通りの意味での)、かつ、いちばん感情の起伏が激しかったころのことを。自分の怒りや不満をうまく言語化できず、わけもなく友だちの消しゴムを切り刻んだり、トイレのなかに篭城して、「ここは○○帝国だ!不法入国は許さない!」と叫んだりしたことを。でもそんな毎日が「楽しかった!」と口を大にして言えるのは、あなたのおかげです、と画面のなかの先生たちに、その奥に見えた小学校のころの恩師たちにつぶやいた。泥くさくたって、将来のことなんか考えなくたっていいじゃないか。いずれ、いやでも私のように分別じみた、加齢臭が気になる歳になってしまうのだから。(25歳。年齢不相応ですが、よく指摘されるので)