【Pick up】発表!わが一押しのドキュメンタリー2014 

例年、選ばれる作品が分散し、寄稿者全員が違う作品を押す年もあったこの企画。だが今年は、複数の人が挙げた作品が多かった。多くの人の心を打つドキュメンタリーが何本も誕生したことを心強く思う一方で、清水浩之さんの調査で判明したこの事実<2014年に劇場公開したドキュメンタリー一覧>に驚く。実に年間200本、平均すると毎週3本以上の新作ドキュメンタリーが劇場公開されているのだ(ただしエリアや上映形態は問わない)!

テレビ番組やインターネット、レトロスペクティブも含め、今や触れる機会が「無数」と言ってよいドキュメンタリーの中から「この一本」を抽出することは、物理的には恐ろしく限定的な行為だ。そのことに気がつくと、モノを作り、伝える時の「意味を込める」行為に真面目に向き合わなくては、とあらためて思う。短い字数でおすすめを語ってくだったコメントのひとつひとつに感謝を申し上げたい。発表が遅くなってすみません。ご寄稿いただいた皆様、どうもありがとうございました。
(neoneo編集室 佐藤寛朗)

※作品名をクリックすると、紹介記事にリンクします。
※到着順、順不同

■2014年、劇場公開されたドキュメンタリーの予告編
(作成:清水 浩之氏)

劇場公開ドキュメンタリー2014年(1/3)   1~4 月
劇場公開ドキュメンタリー2014年(2/3)  5~8 月
劇場公開ドキュメンタリー2014年(3/3)  9~12月


■佐藤健人(映像作家・ポスプロアシスタント)

作品名:『テレクラキャノンボール2013(監督:カンパニー松尾ほか)

映像史に残るべき傑作だが、ネットに並ぶ大絶賛やお祭騒ぎの盛り上がりにはどこか違和感を覚えていた。誰もがコレを大喜びする世の中って大丈夫?眉をひそめる人がいるからこその面白さなのでは?と。そしたら年末になり、ワーストに挙げる人がちらほら出てきて、ホッと安心。中でも大先輩をdisったAV監督・天才フジタのツイート「いかに今の若者がAVも映画も見てないのが分かりました!今も昔ももっと面白く刺激的な作品は本当にあります。探せよ。気づけよ。」は観客への挑発的な激励だ??

■わたなべりんたろう(監督、ライター)

作品名:『ニック・ケイヴ/20,000デイズ・オン・アース』(監督:イアン・フォーサイス、ジェーン・ポラード)

ニック・ケイブの創作活動の源泉を日常や過去に共演した人とのトークなどで浮かび上がらせる。「ありきたりなドキュメンタリーにしない」というケイブ及び作り手の意志が反映されて今までにない濃密な体験が出来る。『ホドロフスキーのDUNE』も去年は良かったがクリエイターの内面に迫るドキュメンタリーはやはり面白い。なお、2/7から日本でも公開される。

■むらぬし(大学生)

作品名:『わたしたちに許された特別な時間の終わり』(監督:太田信吾)

ポレポレ東中野にて、複数回この映画を観たのだが、終わった後、駅までの足取りをここまで重くする映画はなかった。小学校では一番だったけれど、中学校・高校に行ったら自分のそれは大したことではなかった、というような経験は誰にでもあるだろう。主人公には20代後半までそれを信じられるだけの才能があってしまった。クリエイティブというイデオロギーは彼を飲み込み、才能があればあるだけ彼を苦悶させた。生と死の狭間を歩くような彼の生き様は、22の僕に『生への緊張感』のようなものを鋭く突きつけたのであった。

■清水浩之(映像制作業・短篇映画研究会)

作品名:

◆映画

ホームレス理事長(圡方宏史)

ホドロフスキーのDUNE(フランク・パビック)

家路(久保田直)

鳥の道を越えて(今井友樹)

消えた画(リティ・パニュ)

超能力研究部の3人(山下敦弘)

春原未来のすべて(タートル今田)

ミタケオヤシン(江藤孝治)

桃と小桃とこもも丸(新部貴弘)

イラク チグリスに浮かぶ平和(綿井健陽

“信念の人”がどんどん深みにはまっていく姿を、あたたかく見つめてしまった『ホームレス理事長』。東海地区ではテレビ放送もした!という事実にあきれました(良い意味で)。

◆テレビ

Brakeless JR福知山線脱線事故9年(BS1/三宅響子)

ルポ 原発作業員2(Eテレ/池座雅之)

切断女性たちの美の世界(NHK大阪/河合理香)

誰も止めない 終わりなきシリア内戦(朝日放送/西谷文和)

議会占拠24日間の記録(BS1/村上良太)

刹那を生きる女たち(フジテレビ/田部井一真)

特攻隊員“破られた遺書”をたどって(NHK福岡/加藤弘斗)

お人形とわたし(NHK和歌山/小口久代)

38歳、自立とは?(BSプレミアム/佐藤寛朗)

家、ついて行ってイイですか?(テレビ東京/高橋弘樹ほか)

日本社会の“強迫神経症”を、イギリスからの視点で描いた『Brakeless』。『ある機関助士』を連想するサスペンス・ドキュメンタリーの傑作でした。

◆恒例の「短篇映画研究会」個人的ベストテン

洪庵と1000人の若ものたち(木村荘十二)

ザ・シンフォニーホール(土屋信篤)

ある日のバス通り裏(太田浩児)

舟へ帰る子どもたち 都立水上小学校の夏休み(東松照明・多木浩二)

下宿騒動記(青山通春)

ビール5000年の旅(武田純一郎)

紙のポリシイ(中野剛宣)

川風の子ら(森園忠)

手漉和紙(小谷田亘)

たすけあいの歴史(杉井ギサブロー)

■東野真美(編集者)

作品名:『収容病棟』(監督:王兵)

心を病むというのはどういうことなのか。健康な心と病んだ心の境界線てどこにあるのか。そんなものはどこにもないのではないか。たまたま世の中との折り合いをつけられなくて、この病院に収容されてしまった。そんな人々がここにいて、朝起きてから夜眠るまでの生活をする。もちろん隔絶された世界ではあるけれど、でもどこにもいそうで愛したり怒ったり走ったり飲み食いしたりする人々の存在が動かしがたい、そんな映画である。

■谷川正樹(会社員)

作品名:『劇場版テレクラキャノンボール2013(監督:カンパニー松尾ほか)

今はなきオーディトリウム渋谷。上映3日目。テレクラキャノンボール大旋風の始まり。満席。場内は今まで経験したことがないような一体感に包まれていた。爆笑と阿鼻叫喚のあの時間を忘れることはない。場末の映画館で起こった伝説。

■城後 光(会社員)

作品名:『イラク チグリスに浮かぶ平和』(監督:綿井健陽)

イラクで起きている事実を長い時間に渡って捉えられた作品でありながら、そのストーリーが一つの家族にあるために、決して他人事とは思えない親近感を感じさせる作品であった。何度でも見ればみるほどに気付きがあるはずだと初見で感じた作品はなかなかない。今まさに軍国化が進む日本だからこそ多くの人に知って欲しい映画である。

■山田真弥(保育士)

作品名:『イラク チグリスに浮かぶ平和』(監督:綿井健陽)

9.11後のイラクで何が起こってきたのか?
正直、平和というのは空気のように当たり前にあるものだと思っていた。間違いだと思い知らされた。薄い氷の上に知らずに立っているだけかもしれない。自ら守らなければ保てないものだった。頭をぶん殴られたようなショックを受けた。人生観や世界観も変わってしまうほどの。
今だからこそ、観ておくべき映画だと思う。
アリさんのご家族が、今も家族皆で元気に暮らしておられることを切に願う。

■宇津 留理子(グリーンイメージ国際環境映像祭 事務局)

作品名:『収容病棟』(監督:王兵)

スクリーンに映し出される、まごうことなき王兵の画。この美しい映像を観ることが既に快楽だ。カメラは幾度も回廊を廻り、
徘徊を映し排泄を映す。初め抱いた視点が別の視点に凌駕され、さらにそれも凌駕されていく。形を失っていくような奇妙な浮遊感。
見つめていたのは今日という日と状況の寓話だった。

※第2回グリーンイメージ国際環境映像祭(3.27-29)で上映する金華青『終わりのない道 Endless Road』も中国ドキュメンタリーの層の厚さを思い知らされる鮮烈な短編。ぜひ。

■石坂健治(東京国際映画祭アジア部門ディレクター)

作品名:『鳥の道を越えて』(監督:今井友樹)

劇的な演出は何もしていない、一見アンチ・スペクタクルで地味な民俗ドキュメンタリーと思いきや、故郷に対する知的好奇心と丁寧な取材と論理的な映像構成によって、かつて岐阜の山里の空を埋め尽くしたという渡り鳥の群れと、その捕獲を生業としていた人々の暮らしがまざまざと眼前によみがえり、一大スペクタクル映画へと変貌を遂げる。そのダイナミズムは圧巻のひとことに尽きる。

■佐々木瑠郁(映画宣伝)

作品名:『夢は牛のお医者さん』(監督:時田美昭)

幼いこどもには少し酷ではないかと思ってしまうほど、辛い別れを経験せざるを得ない命の教育。いちばんの“こども時間”を過ごすであろう小学生の時期を共に育った動物への愛情、その感情を押し殺し受け入れなければいけない別れの瞬間。受け入れようとする時、こどもたちは懸命に自分の命と対峙させているのだと感じた。こどもの頃に夢見た職業に就ける人はどのくらいいるだろうか。紆余曲折が多く思わぬ方向へと辿り着いた自分とはまるで違う、彼女の真っ直ぐな育ち方や努力が忘れられない。

■鈴木並木(会社員)

作品名:『地震なんかないよ!』

https://www.youtube.com/watch?v=yIn1-ANcF4Y

珍しいものをつい撮らずにはいられないというカメラマンの生理によって記録された映像が、おそらく無理やり叩き起こされて多少寝ぼけていたであろう局スタッフの判断の鈍さによってそのまま放送されてしまい、それがツイッターなどで拡散し、YouTubeによって現在でも再確認可能な状態になっている。生成~流通~保存に至るすべてのプロセスが完璧であったと言わざるをえない。

■鈴木祐太(早稲田大学4年 3月に卒業予定)

作品名:『魔法の映画はこうして生まれる~ジョン・ラセターとディズニー・アニメーション~』(NHK総合、2014年11月29日放送)

自分がアニメーション技術に興味がある、というのもありますが、曖昧な言辞で語られてきたもの(この番組の場合であれば「ディズニー映画を作る」ということ)をどうやって映像という極めて明確でしかないものに定着させるか、という点で非常に秀逸だったと思います。なかなか観る機会は無いと思いますが2008年放送の『映画監督 押井守 妄想を形にする』も併せてご覧になることをオススメします。

■岩崎孝正(学生)

作品名:『セーヌの詩』(監督:ヨリス・イヴェンス)

日本だと山形国際ドキュメンタリー映画祭で上映されたのでしょうか。どこかで日本版のヨリス・イヴェンスのDVD−BOXを発売していただけるとうれしいです。昨年でしょうか、ジョナス・メカスの『ウォールデン』がダゲレオ出版さんから発売されましたね。ダゲレオ出版さんとは言いませんが、ヨリス・イヴェンスも『風の物語』とともに、どこかのメーカーさまから発売されることを望みます。
『セーヌの詩』ですが、映像(編集)のテンポがすばらしいと思いました。それとセーヌの人々がいきいきとしていますね。セーヌ川ぞいで当たり前に生きている人々の生活を撮影しています。なにかを強く訴えかけることをせず、ただ静かに、映像がそのまま、川が流れていくように映している。傑作だと思いました。

■中村のり子(大学院予備生)

作品名:『三里塚に生きる』(監督:大津幸四郎・代島治彦)

キャメラマンとして日本のドキュメンタリー映画を牽引してきた大津幸四郎氏が80歳にして、三里塚の「今」を実に自由に、瑞々しく撮り切った稀有な作品。イデオロギーにも技術にも頼らず、ただ目の前の人間を見つめる姿勢を貫いた。大津氏の遺作ともなり、私にとって忘れ難い一本です。

■青木ポンチ(ライター)
作品名:『刹那を生きる女たち 最後のセーフティネット』(フジテレビ 2014年11月29日放送)

同じ日本、東京に暮らしていながら、なかなか出会えないような人がいる。本作で発掘された風俗嬢「アボット」は、2014年の自分にとって稀有な出会いだった。同じ空の下、アボットが生きている、そのことを知れただけで十分な作品だった。とにかく生きてみれば、きっと何かが起こる。

■金子遊(neoneo編集委員)

作品名:『北朝鮮強制収容所に生まれて(監督:マルク・ヴィーゼ)

北朝鮮の強制収容所内で結婚した、政治犯の両親のあいだに生まれたシン・ドンヒョク。彼が脱北するまでの壮絶な半生をインタビューで振り返る。

映画の観客は、登場人物の感情の動き、数奇な物語を求めるものだ。ところが、ドキュメンタリーのカメラは「やらせ」や「仕込み」をしない限り、決定的な瞬間にいつも間に合わない。本作は『戦場でワルツを』と同様、過去の挿話をアニメーションで見せるという解決策を提示している。

■越後谷研(neoneo編集委員)

作品名:『2013.8.30』(監督:森政也 14年9月20日「ハイロと美学校」(於・美学校)にて鑑賞)

画面を切り裂く怒轟。威圧的な男どもが罵声をがなりながら迫ってくる。奴らに負けじと怒鳴り返す若者たち。罵倒、恐喝、謗言、雑言、悪罵。メーターを振り切る罵り合い…。何なんだ、これは!? 真夏の東京の一角に展開した、これは現代の「仁義なき戦い」か?

――不意打ちだった。自主映画上映会で、それはいきなりスクリーンに映しだされた。ある小さなコミュニティが組織暴力に恫喝される様子を、目の前150センチで記録した23分の映像作品。それは作家にとっても不意打ちだっという。身震いしながら小さなデジタルカメラを構える作家の慄きが伝わってくる。その場に居合わせた偶然を運命というべきだろうか? 彼には、追加取材をして映画として完成させて欲しい、と思う反面、撮りっぱなしのペラペラな映像だからこそ、生々しい衝撃が備わっているのだとも思う。これは映画ではない。しかし実録が映画である必要もない。

■若木康輔(neoneo編集室/ライター)

作品名:『境界の町で』岡映里(リトルモア)

メールマガジンの時から「不思議と1本もカブらない」が恒例だったというこの企画。今年はついに、そうならないようだな!それに、どうしても挙げられるのは映画に集中するので、僕は本を。

福島県の警戒区域指定の町に入って取材した女性……である事象自体には、実はあまり気がいきません。そこが例え月の裏側だろうと、コロムビアの麻薬王独占インタビューだろうと、文章が粗いジャーナリストや作家を通したら価値は半減されると考える質です。常套句を使いまわされたらその時点で、人間や歴史にどこまで敏感な目で現認してきたのか、と不信感が芽生えます。

『境界の町で』も、ムラはある。しかし文章が冴えた箇所には、嫉妬心に似た感情を抱きました。自分もそうでありたい文体を、自分よりもうまくものしている。負けたくないな、と思いましたね。精神的にかなり振り回された。なので、2014年はこの本を挙げざるを得ないです。

勝手にライバル視している岡映里さんには、2月13 日金曜日の自分のイベントに、ゲストとして来てもらいます。『境界の町で』を読まれた方、よろしくどうぞ!

http://webneo.org/archives/28961

14年に劇場公開された日本のドキュメンタリー映画は、充実していました。2本だけギリギリと絞って挙げさせてもらうと、僕のベストは『無人地帯』(藤原敏史)と『わたしたちに許された特別な時間の終わり』(太田信吾)。

■伏屋博雄(neoneo編集室)

作品名:『三里塚に生きる』(監督:大津幸四郎・代島治彦)

小川プロの一員であったわたしにとって、三里塚は絶えず気になる存在だった。わたしとほぼ同年齢だった青年たちが今や60代後半から70代の老人になり、若かったお母ァたちも老婆になり画面に登城しただけで、感無量の思いに包まれたのであった。闘いの姿勢は様々な方向に向かうものの、いずれも三ノ宮文男君の自死と3人の警官の死が彼らの人生に大きな痕跡として残っている。本作品はそうした状況に真正面に向きあった志ある作品である。そのうえでひとつ欲を言うならば、柳川秀夫さんと小泉英政さんのような個の抵抗に関心が向けられた結果、たとえば多くの農民の安寧を願い政府に迫った石毛博道さんたちの「円卓会議」への思い、その後の「成田空港共生委員会」の長い苦闘が描かれなかったことが心残りとしてある。

■若林良(映画ライター/neoneo編集室)

作品名:『靖国・地霊・天皇』(監督:大浦信行)

本作を「ドキュメンタリー」とすることには少し難があるかもしれないが、日本における天皇の戦争責任問題、また靖国神社をめぐっての歴史認識を考える上で、私たち日本人に新たな視座を与えてくれる作品である。イデオロギーや史観のみでは割り切れない「靖国」の存在を、ぜひ本作から体験してほしい。“事実”を描くだけがドキュメンタリーではない。

■藤田修平(neoneo編集委員)

作品名:『ある精肉店のはなし』(監督:纐纈 あや)

『祝の島』 では島の暮らしの豊かさを前面に押し出すことで、反原発のメッセージを届けましたが、『ある精肉店のはなし』でも自ら育てた牛を自らの手で殺し、すべての部位を粗末にすることなく流通させる(家族経営の)屠畜業者の暮らしを愛情と共感を持って描き、その生き方を徹底的に肯定しました。それによって、食べることは殺すことでもあるといった教訓の余地を生まず、偏見や差別をゆっくりと溶かしていくことにつながったと思います。

佐藤寛朗(neoneo編集室)

作品名:『加藤くんからのメッセージ』(監督:綿毛)

戦争の日常の地続き感や「前夜」の空気など、『イラク チグリスに浮かぶ平和』(監督:綿井健陽)に圧倒された2014年だが、あえて“綿違い”の監督の1本を。「妖怪になる」夢を持ち、それを貫くことである種の奇跡を引き起こす主人公「加藤くん」(僕と同じ大学、同年代!)のパフォーマンスが話題となった作品だが、監督の視線は冷静で、特殊を振る舞う人間の中にある普遍を、彼の内面の吐露より外部との関係性を通じて描くことに徹している。加藤くんもそのことを理解しており、撮る側と撮られる側の“共犯関係”を地で行く緊張感を堪能させてくれた。