【Review】それぞれの生を尊ぶこと――『きこえなかったあの日』 text 川瀬みちる

「津波の警報が鳴っていた。わたしは全くきこえなかった」  大災害という「想定外」において、聴覚障害者という存在はさらなる「想定外」とされてしまっていた。  映画「きこえなかったあの日」は、自らも聴覚障害を持つ今村彩子監督

【文学と記録⑥】 久生十蘭と空襲 text 中里勇太

 前回は「吉田健一と瓦礫」と題したが、変幻自在の技巧を駆使した文体と多彩な作風で「小説の魔術師」の異名をもつ作家・久生十蘭の『久生十蘭「従軍日記」』(*1)の中には、瓦礫ということばこそ現れないが、次のような一文がある。

【自作を語る】「つまらん映画」と言われたい/『あこがれの空の下 〜教科書のない小学校の一年〜』text 増田浩(本作共同監督)

  3年⽣の国語「ちいちゃんのかげおくり」で、晴れた⽇に校庭で実際に「影送り」をやってみた時の⼀コマ。何度か挑戦して、「⾒えた!」と喜んでいる⼦どもたち。 「和光小学校って知ってる? 教科書がない学校なんだって

【Review】台湾のマージナル――『私たちの青春、台湾』 text 荒井敬史

前代未聞の議会占拠 2014年3月に起こった台湾のひまわり学生運動のムーブメントは、学生たちが立法院(国会)占拠に成功したという耳を疑うようなニュースが流れたことで世界の注目を集めた。その背後には、果たしてどのようなネッ

【Book Review】描き直される映像詩人の肖像――『ジョナス・メカス論集 映像詩人の全貌』 text 大内啓輔

2019年1月23日に96歳で逝去したジョナス・メカス。その死から2年を迎えようとしているタイミングで刊行された『ジョナス・メカス論集 映像詩人の全貌』と題された本書は、ドキュメンタリー専門誌「neoneo」編集室が創刊

【Book Review】ジグザグ道の途中で――『そして映画館はつづく あの劇場で見た映画はなぜ忘れられないのだろう』 text 鈴木里実

今年ほど、映画館へのさまざまな想いが交錯した年はありませんでした。緊急事態宣言下で映画館が休館し、それまで当たり前のようにできていたスクリーンで映画を見るという行為ができないことへの飢えや寂しさ、また、再び劇場が開いてか

【連載】LA・ドキュメンタリー映画紀行 〈2〉ロサンゼルス、ロックダウン下で思うこと text 中根若恵

アメリカ社会に根深くはった人種問題の可視化を一気に加速させたBLM(Black Lives Matter)、深刻な大気汚染をもたらした西海岸の山火事、混迷を極めた大統領選に、アメリカ各地でのパンデミックの第二波、第三波の

【自作を語る】調査屋を調査――『調査屋マオさんの恋文』 text 今井いおり(本作監督)

マオさんとの出会い 元々自給自足に興味があった私は、そういった本を読んでいました。 その中の一つに佐藤眞生さん(以下マオさん)の本がありました。大阪府茨木市に住んでいる事が分かり、同じ大阪なので連絡をとりました。マオさん

【Review】記憶の芸術、ダンスと彫刻―能藤玲子「風に聴く―みたびまみえる」を観て text 吉田悠樹彦

砂澤ビッキの記憶から  舞踊家の肉体が積み重ねた個としての記憶と、砂澤ビッキ(1931年―1989年)による彫刻が積み重ねた、大地と時空の記憶が交差する作品「風に聴く―みたびまみえる」が北海道で上演された。  砂澤は戦後

ドキュメンタリー叢書 #01『ジョナス・メカス論集』刊行!

neoneo編集室では「ドキュメンタリー叢書」を創刊しました。 その記念すべき1冊目は、2019年に亡くなった映画作家のジョナス・メカス論集。 『ジョナス・メカス論集 映像詩人の全貌』を刊行しました。 メカス映画のコメン

【Review】大阪行ったり来たり――リム・カーワイ『カム・アンド・ゴー』 text 井河澤智子

 まさに今後の大阪市の運命が決まるというその夜に、平成最後の大阪の春を描いた映画が東京で上映された。  そして、上映終了後すぐ、その結果が報じられた。大阪市、存続、と。  コロナ禍により、他の映画祭が中止あるいはリモート

【Review】素朴な声に導かれて―――小森はるか『空に聞く』 text 五十嵐拓也

 タイトルの文字すら見出せぬまま、映画館のスクリーンには、パソコンを操作し何かの準備を進める女性の手つきが映し出され、ギターの音色が響く。観客は、女性が誤って音を二重に流してしまう様子から、この女性がラジオ放送の準備を進

【Review】セルゲイ・ロズニツァを日本に導入する――『アウステルリッツ』『粛清裁判』『国葬』text 吉田孝行

日本では映画祭やミニシアターなどで世界中の様々な映画が上映されているが、それでもその世界的な評価とは裏腹に、なかなか上映される機会に恵まれない映画作家がいる。数年前までは、ドイツのペーター・ネストラーやフィリピンのラヴ・

【文学と記録⑤】吉田健一と瓦礫 text 中里勇太

  小説の舞台としてかつての町や都市のすがたが描かれているとき、それを知るのもまたおもしろさのひとつである。たとえば吉田健一は、小説「瓦礫の中」や「絵空ごと」、「東京の昔」などにおいて作品ごとに時代を設定して東京を描いて

【Review】『VIDEOPHOBIA』の徴 text 桝田豊

 若い女が男の求める声に従い自らの下腹をまさぐり自慰をする。相手はどんな男かと思うとパソコンの画面のなか、恐らくは見ず知らずの相手。  姓を朴とも青山ともいう女、愛は大阪鶴橋の古びた民家に母、叔母、二人の妹という女ばかり

【自作を語る】この世の記録/あの世と企画 『アリ地獄天国』text 土屋トカチ(本作監督)

11年ぶりの新作長編『アリ地獄天国』が、この秋に都内で劇場公開される。これまで名古屋、大阪、横浜で公開されてきたが、コロナ禍による影響もあり大幅に遅れていた。 本作は、理不尽な労働環境に置かれた30代の正社員が個人加盟の

【Review】ブラザーフッドの騎士たち――『ザ・バンド かつて僕らは兄弟だった』 text 日方裕司

   ザ・バンドのドキュメンタリー映画『ザ・バンド かつて僕らは兄弟だった』が日本で公開される。  60年代にルーツ・ミュージックの融合という全く新しい「アメリカン・ルーツ・ロック」を生み出し、静かな革命を起こしたザ・バ

【Interview】 「言葉の映画」を撮る『れいわ一揆』原一男(監督)×島野千尋(プロデューサー)

原一男監督と島野千尋プロデューサー 2019年夏の参議院選挙に立候補した安冨歩氏(東京大学教授)をはじめとする「れいわ新選組」のメンバーを追った原一男の新作ドキュメンタリー『れいわ一揆』が、全国で公開されている。コロナ禍

【Review】ふたつの『異端の鳥』がもとめた普遍 text 菊井崇史

 映画『異端の鳥』が結実するまでの道のりはけわしいものだったと監督ヴァーツラフ・マルホウルはふりかえっている。十七ヴァージョンのシナリオを書き、困難な資金調達等を忍耐づよくのりこえ、撮影には二年を要し、ついに十年以上の歳

【Review】俳優とエキストラの躍動『U-Carmen eKhayelitsha』 text 井澤佑斗

 『U-Carmen eKhayelitsha』は2005年に南アフリカのケープタウンで撮影された映画だ。同年のベルリン国際映画祭では金熊賞を受賞した。プロスペル・メリメの『カルメン』を原作にした映画は、カルロス・サウラ

【Review】悲しみの繋がる部屋――『ヴィタリナ』text 住本尚子

家というのは不思議なもので、帰れない場所になることがある。 ヴィタリナは出稼ぎに行った夫、ジョアキンをアフリカのカーボ・ヴェルデで待っていた。その家は、ジョアキンと二人で手作りしたお家。セメントをジョアキンが塗り、ヴィタ

【連載】「視線の病」としての認知症 第17回 社会が動くとき text 川村雄次

「視線の病」としての認知症 第17回 社会が動くとき (前回第16回はこちら) クリスティーンが声をあげたことでオーストラリア社会は変わっただろうか? そんな問いを投げかけたのは、「クローズアップ現代」のプロデューサーだ