【Review】世界の「背」に触れるために――七里圭『背 吉増剛造×空間現代』レビュー text 板井仁

 部屋の窓が映しだされている。この部屋は、石巻のホテルニューさか井206号室《roomキンカザン》であり、その向こう側に見えるのは、震源地にもっとも近い島であるという金華山である。窓ガラスには、文字や線が書かれ/描かれ、

【Interview】暴力を正当化できるのか――『暴力をめぐる対話』ダヴィッド・デュフレーヌ監督インタビュー text 津留崎麻子

2020年のカンヌ国際映画祭「監督週間」で世界的な注目を集めた話題作『暴力をめぐる対話』がついに日本公開を迎えた。2018年11月17日にフランス郊外から始まった「黄色いベスト運動(Gilets jaunes)」。車両整

【Book Review】天才の晩年ー『オーソンとランチを一緒に』 text 布施直佐

制作後81年経った今も歴代映画ベストテンの上位に選ばれ続けている『市民ケーン』。若干25歳で同作を監督し、「天才」の名をほしいままにしたオーソン・ウェルズは華々しいデビューとは裏腹に、その後の道のりにはつねに困難がつきま

【Report】愛に恐れはない──周冠威と香港人の「時代革命」

8月13日より、香港で民主化を求める大規模なデモが起きた、2019年の180日間を追ったドキュメンタリー『時代革命』が公開されている。カンヌ国際映画祭でのサプライズ上映をはじめ、世界に衝撃を与えた本作は、製作者を「香港人

【Review】人生をあるがままに受け入れる強さ――iaku『あつい胸さわぎ』 text 竹下力

舞台が終演し、照明が明るくなり、鳴り止まない拍手の音が響き渡るカーテンコールの最中、私はようやく大きく息をつくことができた。胸につかえた異物が取り除かれたようなホッとした感覚。息苦しいシーンが続くわけでもない。悲惨な殺人

【Review】生涯の夢を追って―― 『掘る女 縄文人の落とし物』 text 藤野みさき

 いまから4年前の夏。2018年7月から約2ヶ月間にわたり、東京国立美術館の平成館では『縄文 1万年の美の鼓動』 という特別展が開催されていた。その特別展では、北は北海道から南は長野県まで、合計207点もの国宝を含む縄文

【Interview】戦争の「本当の始まり」を知る――『ウクライナから平和を叫ぶ』ユライ・ムラヴェツ Jr.監督オフィシャルインタビュー

ロシアとヨーロッパに挟まれるその立地から、親ロシア派と親欧米派に分かれて対立してきたウクライナ。そんなウクライナの欧州連合やNATO加盟を警戒し、ロシアのプーチン大統領は圧力をかけてきた。ことの発端は 2013年9月

【連載】ワカキコースケのDIG!聴くメンタリー 第36回『赤木圭一郎傑作集』

待ってたぜ、トニー 対談1 赤木「こんにちは、赤木圭一郎です。そして僕の前に座っているのは、」 芦川「芦川いづみです。こんにちは」 赤木「こうやって数えてみると、もうずいぶんになっちまいました」 芦川「なにが」 赤木「歌

【Interview】「歴史」と「個人」の交差から見えてくる真実~『Blue Island 憂鬱之島』チャン・ジーウン監督 インタビュー

2022年のHot Docsで最高賞に輝き、また同年の台湾国際ドキュメンタリー映画祭でも三冠を制したチャン・ジーウン監督の『Blue Island 憂鬱之島』がいよいよ日本でも劇場公開を迎える。 チャン監督と言えば、20

【Review】傷ついた金魚はやがて青空を泳ぐ――劇団桟敷童子『夏至の侍』 text 竹下力

2022年6月7日(火)から上演された劇団桟敷童子の新作公演『夏至の侍』は、本当に久しぶりに、我々の存在の基盤を揺るがすような“情熱”に打たれる傑作となった。舞台から発せられる情熱は、人はどのように生きて死んでいくのか、

【Interview】「撮る人」と「ものを書く人」の17年 『瀬戸内寂聴 99年生きて思うこと』中村裕監督インタビュー

昨年99歳で逝去した作家・瀬戸内寂聴(1922-2021)の、晩年の知られざる一面をカメラで記録した稀有なドキュメンタリー『瀬戸内寂聴 99年生きて思うこと』が、現在公開中だ。監督は、本作が映画としては初監督となる中村裕

【連載】ワカキコースケのDIG!聴くメンタリー 第35回『ドキュメンタリー 東京大空襲』

1945年3月10日、東京の下町一帯は爆撃で焼け野原になった。1978年、火の海に包まれた記憶を体験者が語る―。 自分の町に爆弾が落ちてきたら ※今回の原稿を書き上げたあと、早乙女勝元さんの訃報に接しました。ご冥福をお祈

【Review】残虐と隣り合わせのユーモア、あるいは「どうしてこうなったか」について――『ドンバス』 text 井河澤智子

『国葬』(2019)『粛清裁判』(2018)『アウステルリッツ』(2016)と、近年立て続けに作品が公開され、注目を集める映画作家、セルゲイ・ロズニツァ。  第71回カンヌ映画祭《ある視点》部門で監督賞を受賞した『ドンバ

【Interview】“他者の視点”で見続けた部落問題〜『私のはなし 部落のはなし』満若勇咲監督インタビュー

インターネット上の誹謗中傷やヘイトクライムが問題視されるなか、長く日本に顕在してきた部落差別の問題に、正面から向き合ったドキュメンタリー映画が誕生した。『私のはなし 部落のはなし』205分の大作だ。監督は満若勇咲。現役の

【連載】ドキュメンタリストの眼 vol.26 北村皆雄(前編)『チロンヌカムイ イオマンテ』インタビュー text 金子遊

 1986年、北海道屈斜路湖を臨む美幌峠で、大正時代から75年ぶりに「キタキツネのイオマンテ」が行われた。わが子と同じように育てたキタキツネを、神の国へ送り返す儀礼だ。祭祀を司るのは、明治44年生まれの日川善次郎エカシ(

【Review】ZAPPAが教えてくれたこと――『ZAPPA』 text 澤山恵次

 ロック界の鬼才と呼ばれ、独特な風貌から繰り出されるギタープレイに特徴があり、現代音楽の作曲家でもあったフランク・ザッパ。彼の作品を最初に聴いたのは、私が大学生の時になる。京都のライブハウス拾得でバンドの演奏をした際に、

【Review】スパークスのさらなる飛躍に期待を込めて――『スパークス・ブラザーズ』 text 澤山恵次

エドガー・ライトによって巧みに構成された、ロック&ポップ・バンド「スパークス」のクロニクル――ロン・メイルとラッセル・メイルの兄弟の50年を追った『スパークス・ブラザーズ』は、今後の彼らの活躍のプロローグに過ぎなかった。

【Book Review】記録魔・小川紳介の素顔――『幻の小川紳介ノート~1990年トリノ映画祭訪問記と最後の小川プロダクション』 text 中野理惠

 1990年、世界は広く、ヨーロッパは憧れの地だった。  本書は、編者にして発行元である大阪の映画館シネ・ヌーヴォのオーナーである景山理さんが、30年前に小川監督から託された膨大な原稿をもとに編集した一冊であり、内容は、

【Review】身体、環境、言語が生まれるところ――『森のムラブリ インドシナ最後の狩猟民』 text 長本かな海

「インドシナ最後の狩猟民」という崇高な副題とは裏腹に、このドキュメンタリーを見終わった後、いつまでたっても印象に残っているのは森の中でひたすらゴロゴロダラダラと過ごすムラブリの姿だ。筋骨隆々、果敢に弓矢で野生動物に挑む先

【鼎談】原將人×原まおり×金子遊 『焼け跡クロニクル』から探るもうひとつの“クロニクル”

2018年夏、不慮の火事で自宅が全焼し、50年にわたる映画人生をかけたオリジナルフィルム、脚本、創作メモ、映画機材を失った原將人監督。 しかし原監督は、火事の痛手を創作への力に変え、新作『焼け跡クロニクル』で映画の舞台へ

【自作を語る】天才映画詩人の光と影を描く『映画になった男』 text 金子遊

 大学に入ったばかりの頃、僕はいつも雑誌「ぴあ」のオフシアター欄をチェックして、アヴァンギャルド映画や実験映画ばかりを観ていた。あるとき、渋谷で伝説的な『初国知所之天皇』(73)が上映されることを知り、渋谷の会場へ観にい

【Book Review】本を介した、未知なる旅へのいざない――『ポルトガル、西の果てまで』 text 上村渉

 福間恵子さんの『ポルトガル、西の果てまで』を知ったのは、吉祥寺の書店「百年」を通してだった。売り場を訪れた彼女と店主が雑談をしていた際、案外“ポルトガル好き”は多いという話題になり、学生時代から「ポルトガル文化センター