【Review】世界のだれも知らない “FOUJITA”――小栗康平監督『FOUJITA』text 成宮秋祥

映画の始まり。フランス・パリのとあるアパートメント横のアトリエ。一人の奇妙な風貌をした男が熱心な目つきでキャンバスに女の絵を描いている。彼は、少年のようなおかっぱ頭に分厚い丸眼鏡、チャールズ・チャップリンのような目立つチ

【Report/Review】映画における空間の拡張性について~七里圭監督作品『ドキュメント・音から作る映画』 text 小川学

映画が時間の連続であるならば、七里圭監督作品が上映される空間は、映画を制作する上で一つの構成要素であり、また、その場で鑑賞している者も映画作品に含まれてしまう一つの要素となっている。映画に関連する全てが内包された空間その

【連載】開拓者(フロンティア)たちの肖像〜中野理惠 すきな映画を仕事にして 〜 第19話 text 中野理惠

開拓者(フロンティア)たちの肖像〜中野理惠 すきな映画を仕事にして  第19話 恩人の退社 それでも仕事は続く  <前回 第18話はこちら> 別の大恩人の退社 ビッキー(櫛引順子)さんは「辞めたい」と言うのだ。どうやら決

【Review】美は何処にありや ーー松本貴子監督 『氷の花火 山口小夜子』 text 越後谷研

わたしは、山口小夜子を知らない。 わたしが知る山口小夜子は、一枚のレコード・ジャケット(スティーリー・ダン「Aja〈彩〉」)と数本の出演映画、著名人として世の中に流布されたパブリック・イメージだけである。わたしには、彼女

【特別掲載】新宿武蔵野館で公開中!『ボーダレス ぼくの船の国境線』アミルホセイン・アスガリ監督インタビュー

現在、新宿武蔵野館で公開が始まった『ボーダレス ぼくの船の国境線』が、静かな反響を呼んでいる。 舞台となるのはイランとイラクの国境沿いの朽ちた廃船。立ち入り禁止区域のその船に、一人の少年が川を潜って入り込み、そこで魚や貝

【連載】ワカキコースケのDIG!聴くメンタリー 第14回『レコード図鑑1 昆虫』

 レコードが付いている本も聴くメンタリーの対象です 廃盤アナログレコードの「その他」ジャンルからドキュメンタリーを掘り起こす「DIG!聴くメンタリー」。今回も、よろしくどうぞ。日に日に秋も深まり、部屋まで聞こえてくる虫の

【Review】「天皇」を描く意味とは――渡辺謙一監督『天皇と軍隊』text 若林良

日本の125代におよぶ歴代天皇のなかで、その「代表格」のアンケートをとるとしよう。おそらく上位に姿を見せるのは、天武天皇や聖武天皇、また後白河天皇といった、みずからが政治の中心にたった、「傑物」と呼ぶべき存在であるかもし

【Interview】この映画は芸術作品ではない。原発推進派に勝つための訴状です~『日本と原発 4年後』 河合弘之監督インタビュー

去年(2014年)の秋、『日本と原発』というドキュメンタリー映画が有料上映会を都内から始め、多くの観客を動員した。 脱原発弁護団全国連絡会の共同代表であり、原発訴訟を多く手掛けるベテラン弁護士・河合弘之の初監督作品。自ら

【特集 山形国際ドキュメンタリー映画祭2015】名作たちとの出会いの「追憶」〜倉田剛著『山形映画祭を味わう——ドキュメンタリーが激突する街』text 細見葉介

いま参加している人々は、巨大なタイムテーブルと映画紹介を見比べ、作品を観る順を決めて胸躍らせている頃ではないだろうか。———今年も10月8日より、第14回山形国際ドキュメンタリー映画祭が開催されている。 私は2003年の

【特集 山形国際ドキュメンタリー映画祭2015】「パトリシオ・グスマンとクリス・マルケル」text 金子遊 批評≒ドキュメンタリズム②

ラテンアメリカの9・119・11といえば、2011年にアメリカのニューヨークとワシントンを中心に起きた同時多発テロのことを一般的に意味するが、ラテンアメリカで9・11といえば、人びとは1973年のできごとの方を想起するで

【特集 山形国際ドキュメンタリー映画祭2015】コーディネーターに聞く、今年のヤマガタの傾向と対策② 東京事務局篇

東京事務局に集うメンバー。下列左から、今村花さん、加藤初代さん(アラブ/日本)、小林みずほさん(ラテンアメリカ)、濱治佳さん(ラテンアメリカ)上列左から土田環さん(二重の影)、矢野和之さん(東京事務局代表)、衣笠真二郎さ

【特集 山形国際ドキュメンタリー映画祭2015】 コーディネーターに聞く、今年のヤマガタの傾向と対策① 山形事務局篇

いよいよ10月8日(木)から、山形国際ドキュメンタリー映画祭2015が山形市で開催される。今年で14回目を迎えるこの映画祭は、紛れもなく日本を代表するドキュメンタリーの祭典だが、期間中に上映される作品やイベントは実に多岐

【連載】ワカキコースケのDIG!聴くメンタリー 第13回『NHK放送50年 1925~1975』

ワカキコースケのDIG!聴くメンタリー 第13回『NHK放送50年 1925~1975』 ラジオ放送も、年月を置くと貴重な音源へと発酵する廃盤アナログレコードの「その他」ジャンルからドキュメンタリーを掘り起こす「DIG!

【Review】「ボケ」と生きる〜田中幸夫監督『徘徊 ママリン87歳の夏』text 佐藤奈緒子

窓からの光がほのかに差し込む落ち着いた室内。ソファに座る老女は不安げに、所在なげに周りを見回しながら「ここ誰の家? 刑務所?」とつぶやく。娘は笑いながら「ちゃうちゃう。あっこちゃん(娘)の家や」と答える。そして慣れた様子

【連載】開拓者(フロンティア)たちの肖像〜中野理惠 すきな映画を仕事にして 〜 第18話 text 中野理惠

開拓者(フロンティア)たちの肖像〜中野理惠 すきな映画を仕事にして 第18話   1990年も大いそがし<前回(第17話)はこちら> 蓮實重彦先生の言葉 『100人の子供たちが列車を待っている』のチラシ用の文章を蓮實重彦

【Review】映画に見る戦後70年と「天皇の歴史」text 山石幸雄

2015年は多くの戦争映画が上映された。 『野火』『この国の空』『日本のいちばん長い日』『戦争ぬ止み』『沖縄 うりずんの雨』『“記憶”と生きる』『インペリアル 戦争のつくり方』など。今回はその中で『“記憶”と生きる』『イ

【Review】人生を正直に生き抜いた男の気高さ―マイク・シーゲル監督『サム・ペキンパー 情熱と美学』text 成宮秋祥

映画が始まると、急に喉が渇くような熱気がスクリーンから伝わってくる。私たちの眼前に広がるのはかんかん晴れのメキシコの荒涼とした大地だ。そこには赤茶けた石ころや萎びた雑草、そして静かに獲物を待つムカデくらいしかない。スクリ

【連載】開拓者(フロンティア)たちの肖像〜中野理惠 すきな映画を仕事にして 〜 第17話 text 中野理惠

開拓者(フロンティア)たちの肖像〜中野理惠 すきな映画を仕事にして第17話 話題作の買い付け競争 <前回(第16話)はこちら>『100人の子供たちが列車を待っている』日本配給の裏話「Aさんが『100人の子供たちが列車を待

【Review】「魂の自由」-サタジット・レイ監督『チャルラータ』&『ビッグ・シティ』text 長谷部友子

ぽくぽくと、軽快な、もしくは少し間の抜けたリズムが鳴り響く。何の音だろう。チャルラータは引き出しからオペラグラスを取り出し、窓から外の景色をのぞく。太鼓を叩く男がいる。彼女はその後も多くのものをオペラグラスからのぞく。垣

【Monograph】地域映画と映像教育の文化史 第2回 藤川治水と熊本映画サークル運動(2)text 佐野亨

貴重な機会をいただいて始めたこの連載だが、個人的な事情により、第1回の掲載から約2年という長期の空白期間を要してしまった。ご期待くださった読者の皆様方に深くお詫びしたい。第1回では、熊本を拠点として、映画批評、教育活動、

【連載】開拓者(フロンティア)たちの肖像〜中野理惠 すきな映画を仕事にして 〜 第16話 text 中野理惠

 開拓者(フロンティア)たちの肖像〜中野理惠 すきな映画を仕事にして第16話 「東京おんなおたすけ本PartⅡ」と1回目の山形映画祭 <前回(第15話)はこちら>  「東京おんなおたすけ本PartⅡ」 税金の遣われ方 「

【Interview】「死」に隣接する「生」を描く 『フリーダ・カ—ロの遺品 石内都、織るように』小谷忠典監督インタビュー

映画『フリーダ・カーロの遺品 石内都、織るように』は、メキシコを代表する画家フリーダ・カーロの遺品を、「ひろしま」などで国際的に評価の高い写真家・石内都が撮影する過程を収めたドキュメンタリー映画だ。監督は『LINE』 (