【批評ワークショップReview】アレッポの香り、メイド・イン・ターキー 『故郷とせっけん』 text 井河澤智子

2021年12月に開催した第4回東京ドキュメンタリー映画祭では、連動企画として「批評ワークショップ」を行った。基礎講義ののち、長編コンペティション作品、中・短編コンペティション作品、人類学・民族映像部門コンペティション作

【Review】『ベニスに死す』を向こうに見つめて――『世界で一番美しい少年』 text 吉田晴妃

稀代の美少年 2012年ごろのことだったと思う。絵を描く友人が、ものすごい美少年の画像をネットで見つけたのだと見せてくれた。ビョルン・アンドレセンといって、『ベニスに死す』という古い映画で主人公のおじさんにただただ追い回

【News】『香川1区』が1/21(金)に全国公開開始!

2020年に公開され、大ヒットを記録した衆議院議員・小川淳也を追ったドキュメンタリー『なぜ君は総理大臣になれないのか』。続編となる『香川1区』が先月12月24日の都内先行緊急公開を経て、1月21日(金)、満を持しての全国

【連載】LA・ドキュメンタリー映画紀行〈4〉 アーカイヴとキュレーションの取り結ぶ有機的な関係性——パシフィック・フィルム・アーカイヴでの上映企画を通して

バークレー美術館&パシフィック・フィルム・アーカイヴ(HPより)  この連載ではこれまでに、パンデミック下の映画制作や映画研究者のコミュニティという視点から、ロサンゼルスでの生活で出会う人々やものたちを通じて映画文化の「

【Review】ほのかに育つ意思――『帆花』text 堤拓哉

 白い湯気が立ち昇る熱々の飲み物が入ったカップのように、淡くて温かいものを感じさせるドキュメンタリー映画だ。タイトルの「帆花」という名の女の子は、自宅のベッドに仰向けで横たわり、人工呼吸器を装着している。か細い手足は自力

【連載】ウディ・アレンの逆説 ポスト・トゥルース時代のスキャンダル⑤ text 大内啓輔

ウディ・アレンと運命論 転換点としての『マッチポイント』 ウディ・アレンのフィルモグラフィーの分水嶺となる作品とは何か。商業的な成功と、作家としての批評的な評価という点において、第一に名前が上がるのは『アニー・ホール』(

【自作を語る】あなたを揺さぶるブラジルのストリート 『街は誰のもの?』 text 阿部航太(本作監督)

2018年10月1日、僕はブラジルはサンパウロに到着した。季節は春。インターネットの情報から、ブラジルがいかに危険な場所か、嫌になるほど目にしていたので体は緊張で強張っている。日が暮れかかったころに到着した中心街には「悪

【TDFF特別Review】“困窮邦人”のなれのはて~歯のない男の悲歌《エレジー》~ 『ベイウォーク』 text 松崎まこと

 昨年は、「東京ドキュメンタリー映画祭2020」の審査に関わり、短編・長編問わず、日本のドキュメンタリー作品数十本をモニターした。その中の複数の作品で、思わずギョッとした瞬間がある。  “歯のない者”。……その登場がいつ

【Review】市庁舎の外――フレデリック・ワイズマン『ボストン市庁舎』 text 原田麻衣

 ボストンの風景から市庁舎の外観のショット、そして市庁舎のなかへ。多くのワイズマン作品がそうであるように、この作品もまた主題となる「建物」を取り巻くショットから始まる。そしてたいてい、その後に続くのは建物のなかで起きる出

【TDFF特別Review】奇跡の出会いが解き明かす「混血児」と生き別れた母の絆――『Yokosuka 1953』 text 井上健一

 「いろいろな困難があったけど、ドラッグにもお酒にも溺れずに、自分を大切にして生きてきました」  66年ぶりに訪れた故郷・横須賀で自らの半生を涙ながらに振り返った後、こう語るバーバラ・マウントキャッスル(日本名:木川洋子

【News】東京芸術祭2021 日本や世界のいまに出会える映像配信プログラム8本をラインアップ

コロナ禍で国境を越えたアーティストの移動や、上演作品の招聘が困難となるなか、映像を通じて、世界や日本各地で活躍する表現者の取り組みにフォーカスする配信プログラム8本がラインアップされている。 東京芸術祭は、東京の多彩で奥

【News】『焼け跡クロニクル』赤松陽構造氏による題字決定&3監督より熱い応援コメント到着!

2018年7月、『20世紀ノスタルジア』等で知られる映画監督・原將人氏の自宅が不慮の火事で全焼し、すべての家財道具と映画フィルム機材が焼失。やけどを負って入院した原氏に代わり、妻のまおり氏が家族の様子をスマートフォンで記

【Review】喪失と再生の先に――『ドライブ・マイ・カー』 text 若林良

 濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』が公開されている。村上春樹の短編小説集『女のいない男たち』(文春文庫)に収録された同名の短編小説を原作とし、6月に行われたカンヌ国際映画祭では脚本賞をはじめ、計4つの賞を受賞した。

【Review】封印されていた音楽フェスを知って――『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』 text 澤山恵次

本作に収録された、ハーレム・カルチュラル・フェスティヴァルが開催されたのは1969年。当時は固定カメラによる撮影が基本だろうから、見たいミュージシャンの演奏の瞬間を捉えたショットなど最初から期待はせずに観たが、監督である

【Review】こどもとおとな、自由と事情ーー『屋根の上に吹く風は』 text 加納土

 鳥取県の山あいにその「学校」はある。新田サドベリースクール。この映画は新田サドベリースクールの1年を追ったドキュメンタリー映画だ。鳥取といえば、で真っ先に浮かぶのは鳥取出身で、僕の大好きな漫画家の水木しげるだ。「おばけ

【連載】ウディ・アレンの逆説 ポスト・トゥルース時代のスキャンダル④ text 大内啓輔

「ポストモダニスト」としてのウディ・アレン 異例の注目を集めた『夫たち、妻たち』 連載ではここまで、映画作家ウディ・アレンの軌跡を辿りながら、アレンがいかなる語りの戦略のもとで「ウディ・アレン」というオンスクリーンのペル

【連載】ウディ・アレンの逆説 ポスト・トゥルース時代のスキャンダル③ text 大内啓輔

セレブリティの生態学 ウディ・アレンはそのキャリアを通じて、「スター・システム」に強い関心を寄せてきた映画作家である。実質的な監督デビュー作である『泥棒野郎』(1969)では、幾度となく犯罪に失敗しては、そのたびに刑務所

【連載】ウディ・アレンの逆説 ポスト・トゥルース時代のスキャンダル② text 大内啓輔

ウディ・アレンの誕生 ウディ・アレンのキャリアを改めて振り返るとき、1977年に公開された『アニー・ホール』について語ることを避けては通れないだろう。アレンとマーシャル・ブリックマンの共同脚本による『アニー・ホール』は、

【Interview】沈黙も、大事なコミュニケーションの一部です〜『日常対話』ホアン・フイチェン監督インタビュー

2016年に台湾で公開され、2017年2月のベルリン国際映画祭テディ賞(LGBT作品賞)に輝いたホアン・フイチェン監督の『日常対話』が、いよいよ日本でも劇場公開される。 本作は、一児の母親となった監督と、台湾独特の文化で

【Review】部屋の内側から描く、五輪へと向かう東京――『東京オリンピック2017 都営霞ヶ丘アパート』 text 細見葉介

 写真集のような映画だった。2013年に東京五輪の開催が決まって以来、変貌を加速してきた巨大都市・東京の最前線の現場で何が起こっていたのかを、生活する住民に寄り添った目線からとらえた、青山真也監督の「東京オリンピック20

【News】原將人監督『MI・TA・RI!』完成から20年ぶりの再上映決定!

『初国知所之天皇』、『20世紀ノスタルジア』等で知られ、独自のスタイルで日本のインディーズ映画界に多大な影響を与えてきた映画監督・原將人。2001年に完成し、映画ファンの間で人気の高い『MI・TA・RI!』の20年ぶりと

【Interview】犬の視点から人間を問う――『犬は歌わない』監督インタビュー text 金子遊&ムーリンプロダクション

 現在、全国で劇場公開中の異色の動物ドキュメンタリー『犬は歌わない』。SNS上では公開直前に告知された警告文「本映画は都会で生きる”野生”の犬の視点で描かれています。一部過度に残酷と感じられる可能性があるシーンがあること