【Review】人権問題としての“慰安婦問題”がここにある『太陽がほしい』text 柴垣萌子

  中国奥地の山西省、盂県にある石造りの小さな部屋。かつて、侵略戦争をしていた日本兵が、トーチカと呼ばれる防御陣地を村の山頂に築き、ふもとの民家で中国人女性を監禁。強姦を行った。 部屋の中は、ゴツゴツとした石が

【Review】光は誰の心にもいる――岡倉光輝監督『アマノジャク・思春期』text 柴垣萌子

  突然ですが、わたしには3歳の時の、鮮烈に自分の中に残っている記憶があります。 それは、保育園の教室でどうしても苦手な食べ物が出てきてしまった時のことです。 私は〈先生〉と呼ばれていた大人に対して、苦手な食べ

【Review】東京に残る「ぬかるみ」の感覚と記録『東京干潟』『蟹の惑星』(村上浩康監督)text 細見葉介

『東京干潟』 村上浩康監督のドキュメンタリー『東京干潟』と『蟹の惑星』が公開された。東京湾に注ぐ多摩川の河口部にある干潟が、2作品の共通した舞台だ。東京都大田区と川崎市川崎区を結ぶ大師橋下の左岸、羽田空港や京浜工業地帯に

【Interview】ドキュメンタリーでは自分の中の他性を捉える 『7月の物語』『勇者たちの休息』 ギヨーム・ブラック監督

『女っ気なし』や『やさしい人』で知られるフランスのギヨーム・ブラック監督による短編ドキュメンタリー『勇者たちの休息』と、彼がフランス国立高等演劇学校の学生たちとのワークショップをもとに作り上げた『7月の物語』が公開中だ。

【Review】ウィーンの黄金時代を彩った二人の画家の軌跡を追うーー『クリムト エゴン・シーレとウィーン黄金時代』text 舘由花子

  © Belvedere, Wien 日本で『クリムト展 ウィーンと日本 1900』が始まったのは今年の4月。上野の東京都美術館に集められたグスタフ・クリムト(1862−1918)の代表作、『女の三世代』や『

【Review】「負の遺産」では終わらせない――熊谷博子監督『三池 終わらない炭鉱の物語』『作兵衛さんと日本を掘る』 text 柴垣萌子

  「月が出た出た。月が出たヨイヨイ」 このフレーズを聞いてメロディーが自然と浮かんでくるのは、『炭坑節』が炭鉱労働者によって歌われていた民謡がもとになっていると知っている人にとどまらない。全国の祭りや盆踊りで

【Review】『映像の新境地を求めてー第11回 恵比寿映像祭「トランスポジション 変わる術」から』 text 吉田悠樹彦

Hardcore Ambience企画「Another World」:大野松雄《タージ・マハル旅行団「旅」について》+スペシャルライヴより 提供:東京都写真美術館 撮影:新井孝明 変わる術としての映像文化 映像はバタイユ

【Review】その図書館は、まるでユートピアーー『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』 text 舘由花子

『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』の監督、フレデリック・ワイズマンはディレクターズ・ノートでこう語った。「ニューヨーク公共図書館は最も民主的な施設です。すべての人が歓迎されるこの場所では、あらゆる人種、民族、社

【Interview】自然の中で暮らす一家の「丸ごとの成長」を追い続けて 〜『山懐に抱かれて』遠藤隆監督インタビュー

日本テレビ系列の「NNNドキュメント」から、またひとつ素敵なドキュメンタリー映画が誕生した。テレビ岩手製作の『山懐に抱かれて』。三陸海岸にほど近い岩手県田野畑村で、限りなく自然に近い環境で牛を育てる「山地酪農」を移住し実

【対談】月釜×沈没 対談! 佐藤零郎(『月夜釜合戦』監督)×加納 土 (『沈没家族 劇場版』監督)スペシャル対談

かたや、大阪・釜ヶ崎を舞台に(なぜか)釜をめぐって泥棒、やくざ、労働者が争奪戦を繰り広げる雑駁な活力の喜劇。 こなた、ユニークな共同保育の環境で育った子どもが、成長してから当時を辿り、母親や父親との関係を整理し直していく

【Review】映画『阿吽』 ただならぬライティングの形態へ text 菊井崇史

20XX年、都内大手電力会社に勤める彼は、ある宵、声を受けとる。ひとつの電話越し「ヒトゴロシ」と声は響く。声の正体はしれない。ただ声が届く。「タイチョウガワルイ、…、ナニカコタエロ、…、ドウスンダヨ、…、ヒトゴロシ」と。

【鼎談】クリス・マルケル特集上映記念『レベル5』をめぐって  越後谷卓司×渡辺真也×金子遊

『レベル5』 映画作家・アーティストのクリス・マルケルが、2012年7月に亡くなってから7年が経つ。『ラ・ジュテ』や『サン・ソレイユ』などの代表作をのぞけば、マルケルの作品は美術館やシネマテークで作品上映がされてきたもの

【Report】「山形ドキュメンタリー道場2018」に参加して text 田中健太  

自作について語る筆者 山形ドキュメンタリー道場2018に参加した時間を振り返ると本当に多くの言葉が浮かんできます。映画への関わり方と生き方、映画の価値、作品化することの意味、そしてその多様性、多くのことが頭の中をぐるぐる

【Review】一万の砲弾、一万の建築ーー『セメントの記憶』 text 萩野亮

「中東のパリ」と呼ばれた街のいま 一万の砲弾が降り注いだ街で、僕はジョルジュを待っていたーー(*1)。 ラウィ・ハージの小説『デニーロ・ゲーム』は、このような書き出しで始まる。30カ国以上で翻訳されたこの物語は、永遠に続

【Review】創作・活動や民主主義のヒント―映像によるヨーゼフ・ボイス再考 text吉田悠樹彦

伝説の芸術家ヨーゼフ・ボイス、そして日本 芸術家ヨーゼフ・ボイスに関する必見のドキュメンタリー映画が公開される。印象深い編集を通じて伝説的な芸術家の創作の核心に迫り、その懐にはいっていくことができる。 ボイスは日本で人気

【Interview】「個の関係」から生まれる物語――『盆唄』中江裕司監督インタビュー text 若林良

東日本大震災から4年が経過した2015年、福島県双葉町の人々は散り散りに避難先での生活を送り、先祖代々守り続けてきた伝統「盆唄」存続の危機に心を痛めていた。 そんな中、100年以上前に福島からハワイに移住した人々が伝えた

【Review】『牧師といのちの壁』(加瀬澤充監督)―― 人を生に繫ぎ止めるもの text 長本かな海

うちの近所の弁当屋の息子が年明けに首を吊ったらしい。まだ19歳だったらしい。自然が豊かなことで有名な私が住んでいる離島では、都会よりもずっと人の死が身近だ。しょっちゅう葬式の案内を見るし、みんな知り合いなので葬式に行く機

【Interview】内なる旅で宇宙とピンポンする 『500年の航海』キドラット・タヒミック監督 インタビュー

ラヴ・ディアス、ブリランテ・メンドーサなど、近年世界の注目を集めるフィリピン・インディペンデント映画。そのシーンの中で精神的支柱となっている映画作家がキドラット・タヒミックだ。フィリピンの反独裁政権運動や、世界各地の先住

【Interview】人はなぜ[自殺する/生きようとする]のかは、わからない〜映画『牧師といのちの崖』加瀬澤充監督

『牧師といのちの崖』という映画が、いまポレポレ東中野で公開されている。 和歌山県・白浜にある観光名所・三段壁。自殺の名所と言われるこの場所で、自殺志願者に声を掛け、彼らの生活再建を目指し共同生活をおくる藤藪庸一牧師と、そ

【Review】 その術を知らない象の咆哮ーー『象は静かに座っている』 text 井河澤 智子

棋士は先を読んで駒を指す。それこそ何十手先をも読む。 この物語は「読む先がない」状況に追い込まれた人々の群像劇である。 どん詰まり、一瞬先すら見えない彼らの行動は全く突発的である。彼らが何をしでかすかをただ見つめる、即ち

【Review】「アイドルになりたい」想いの裏側にあるもの――『世界でいちばん悲しいオーディション』text 宮﨑千尋

  努力だけではどうにもならないことがある。受験、就職、恋愛…、そんな挫折を味わった経験が誰しもあるのではないか。この映画は「アイドルになりたい」24人の少女たちがまさしく、努力だけではどうにもならない、でも、

【Review】歌を見つめる映画のまなざしに射すひかり 『ひかりの歌』 text 菊井崇史

日常ということばがおもいおこさせる光景や、そこに寄り添う人がいること、たとえば、アパート近辺の公園のベンチや、勤務先から帰宅する夜の街路、コンビニの駐車場の角、行きつけの食堂で、ひとり、ふたり、あるいは幾人で今日をうつろ